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 章くんのスマホに表示された着信の相手に、ドキッとしてしまった。
 どこの誰だか分からない相手だけど、あだ名で入れるくらいだから、それなりに親しい仲の人なんだろう。

(男? それもとも……女?)

 妙に胸がざわつくけど、私は見なかったフリして、スマホも触らずそのままにしておいた。着信もある程度鳴った後に止まり、私の胸のざわつきもいったんおさまった。

 芸能界に身を置いているのだから、芸能界の知り合いをフルネームで登録するのは、危ないだろうし、防犯的な意味でも正解だとは思う。さっきの『えなちん』さんがその界隈の人だったら、だけど。

 色々考えていても埒が明かないため、章くんが出てくるまで、リビングでパソコンを開いて、今日持ち帰ってきた仕事をすることにした。

(仕事でもして気を紛らわせよう……)

 20分後。
 章くんはお風呂から出てリビングへとやって来た。すると、スマホが目に入ったのか、慌てて手に取る。

「そういえば、さっき、着信あったよ?」
「そ、そっか……」

 なんとなくぎこちない返事をしつつ、慌ててスマホの画面をタップしたり、スクロールし始める章くん。
 何か急ぎの連絡でもあったのだろうか。
 私はパソコンのキーボードを打ちながら、そんな章くんの行動を横目で見ていた――。

(もしかして、何かやましいことでもあるのかな?)

 私の考え過ぎでありますように……そう願わざるを得なかった。

* * *

 そんなある日の昼。
 私は会社で後輩の石上さんと一緒に、ランチをしに近くの洋食屋さんへと向かった。

 お店に着くと、時間帯的なこともあってか、結構混雑していた。
 店員さんに席を案内され、ようやく座ることができた私たち。もう昼休憩があと30分くらいしかない。注文したものが運ばれてくるまで、石上さんと何気ない話で時間を潰している。

「古賀先輩と久しぶりにランチに来れて嬉しいです! 実は古賀先輩に聞いて欲しい話があるんですよー」
「えっ、何? 私でよければ聞くよ?」
「ホントですかー!? 私……好きな人ができちゃったかもしれないです」

 突然、好きな人がいるとカミングアウトされ、私は飲んでいたお水を吹き出しそうになってしまった。

(急に本題に入ったね……)

 別にいたって普通の話だというのは分かるけど、今までそういう話を石上さんとは全くしたことなかったのだ。

「い、いいんじゃない? 好きな人がいると、仕事もはかどりそうだし」
「それがそうでもないから……話を聞いてほしいんですよー」
「ん?」
「私の好きな人って、安藤くんじゃないですか?」

(……いや、知らんがな。っていうか、さっき『好きな人ができた』って言ってきたばかりだよね?)

 私があたかも、気づいてて当たり前かのように話し始める石上さん。普段は素直で可愛いんだけど、恋愛関係になると面倒くさい感じになるのだろうか。

(あくまで、私の偏見だから……まぁとりあえず、話を聞こうかな)

「安藤くんが好きなんだ? ふたり、同期だし……私から見ても仲良さそうに見えるし、お似合いなんじゃない?」
「古賀先輩もそう思います!? 私も、何となくそう思ってて、そろそろ安藤くんに告ろうかなって思ってるんですよね」
「……結構積極的だね」

 私たちが話していると、注文した料理が運ばれてきたため、食べながら話しを続けた。

 すると、石上さんから耳馴染みのある人物の名前が飛び出す。

「私、つい最近まで推してた俳優さんがいるんですけど……宮原章って知ってます?」
「……!? ごほっ、ごほっ」

 私は、食べていたオムライスが、喉に引っかかりそうになった。

「大丈夫ですか!? 古賀先輩」
「うん、ごめんね……平気だよ」

 章くんの名前がここで出てくるなんて思いもしなかった。
そりゃあ、俳優業やってるんだし、ファンだって多いのは知ってるけど、こんな身近にいるとは思わなかった。
 だからといって、別にファンに嫉妬したりなんてしないけど。

「彼のことをずっと推してたんですけど、最近ファンがすごく増えたじゃないですか?」
「そ、そうなんだね……。知ってはいるけど、そこまでは詳しくないかな、私は」

 詳しくないもなにも、極秘結婚してるけどね……なんて言えやしない。

 石上さんは、章くんにファンが増えたことが不服なのか、声のトーンがさっきまでより少し下がった。

「私は彼がデビューした当時から推してて、でも人気になってきて、私なんかが推さなくてもいっぱいファンいるしーって思ったら、冷めちゃったんですよね」
「……な、なるほど」

 頷いてはみるものの、その心理はあまり理解できない。もちろん、人それぞれ感情があるわけで。誰が誰をどう思おうが自由だ。

 そう考えると、私の章くんへの想いは、結構な年月なんだと改めて感じた。ファンとはまた違うけど。

「そしたら、近くにいる安藤くんのことが急にカッコよく見えてきちゃいまして……」
「そうなんだね。安藤くんはどう思ってるか分からないけど、私個人的には、石上さんと安藤くんはお似合いだと思うよ。さっきも言ったけど」
「古賀先輩がそう仰るなら、もう間違いないですね!」
「えっ、あっ……いや、それは分かんないよ!?」

 前のめりにもほどがある。
 石上さんって、こんなに積極的な人だったんだ……と初めて知った。それと同時に、可愛くも思った。

(それにしても、章くんってほんと人気なんだなぁ)

「古賀先輩に話を聞いてもらえただけでも、勇気もらえました! ありがとうございます!」
「いや、ほんと……聞いてただけなんだけどね……」

 ちょうど話を終える頃には、料理も食べ終わり、急いで会社へと戻った。

 なんか、あっという間のランチタイムだったのは言うまでもない――。

(身近で章くんの名前が出ると、変な緊張が走っちゃうんだよなぁ)

* * *

 その日の夜。
 いつも通り、章くんは帰ってくるんだか来ないんだか分からないため、私は先に夕食を済ませた。
 そのあと、リビングでのんびりくつろいでいると、特番なのかなんなのか……2時間もののバラエティー番組が始まった。
 なんかたくさん出演者がいるし、いつもこの時間に放送されてる番組じゃなさそうだから、きっとよくある、新番組とかのチーム対抗戦の番組だろう。少し観てみようと思い、そのまま観ていると、新ドラマのチーム紹介で、章くんが出てきた。
 章くん含め、若手男女4人のチームだ。新ドラマのメンバーらしい。

(同世代が多いドラマなのかな?)

 私はあれ以降、詳しくは聞いていないため、今回初めて知ったのだ。

 その中には、あの人気アイドルグループflavorのREIさんもいた。REIさんはflavorの中でも、KYOさんと同じようにドラマとかの出演も増えてきている。

(確か、章くんよりいくつか年下だよね? しっかりしてそう……)

 番組の司会者の人が、章くんたちとドラマの紹介をし始める。
 どうやら、今回のドラマは不倫ものらしい。

 タイトルは『あなたとなら地獄の果てまでも』。

(なんかすごいタイトルだなぁ)

 出演者の女性陣の中には、松原恵那さんがいる。この人も確か、若手女優さんの中で人気の人だ。

 この日は、このバラエティー番組を観て、お風呂に入り、再びのんびりしていると、章くんが帰って来た。

「ただいまー」
「あっ、お帰り! バラエティー番組観たよ。今度始まるドラマのメンバーで出てたね」
「うん。番宣で出ることになってさ。それが今日のバラエティー番組だったんだ」
「お疲れ様」

 私は一応作り置きしていた章くんの夕食を温めなおした。
 最近は帰ってくるかどうか分からないことが多いため、作り置きして、帰ってきたら温めるようにしている。章くんもそれでいいのか、特に文句は言ってこない。

 この日は、章くんも妙に機嫌がよく、いつもより楽しい夜を過ごせた。

* * *

 昨日の番宣の影響もあってか、SNSでは章くんのことが思いの外、目立っている。

『昨日の章くん、王子様みたいでかっこよかったー!』

『イケメン過ぎて画面がまぶしかった』

『恵那ちゃんとの共演がすごく楽しみ!美男美女って感じでドラマにも合ってそう』

 など、新ドラマへの期待度が膨らんでいる。

 実際、昨日のバラエティー番組での章くんと松原さんはとても仲よさそうに見えた。同世代だということもあるし、共演者だから、仲良くて当たり前なんだろうけど。

* * *

 番宣から数日。
 章くんの忙しさに拍車がかかり、家に帰って来たとしてもそっけない日々が続いている。

 この感じだと、帰ってきても帰ってこなくてもあんまり変わらない……なんて思ってしまう私は、心が狭いのだろうか。

 そんな中、日付が回る頃に帰ってきた章くん。時間も時間なので、私も寝てしまっていたため、章くんに名前を呼ばれて飛び起きた。

「しおり、誰が先に寝てていいって言った?」

 普段はそんなこと言ってこないのに、今日はなんとなく、章くんの機嫌が悪い。声の感じで分かる。

 少しずつ私との距離を詰めてくるため、私も反射的に後ずさりしてしまう。

「いつも、遅い時があったり、帰ってくるか分かんない日もあるから、先に寝ててって言ってくれてるから……」
「俺が疲れて帰ってくるっていうのに、さっさと寝てるとかありえないんだけど。ご飯だってどうせ、温めなおすものなんだろ?」
「だって、帰ってくる時間が分かんないし……連絡もくれないじゃん」

 強く言ったつもりはないけれど、章くんには、私が反抗しているように見えたのか――。

「いちいち文句言うんじゃねぇよ!!」

 ――パンッ!

 一気に章くんが距離を詰めてきた瞬間、初めて平手打ちされてしまった……。

「えっ……」


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サレ妻の密かな逆襲 ~社会的に地獄行き~

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