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結局、馴染みの居酒屋には三時間ほどいた豪と純。
そろそろ帰るか、って事になり、テーブルで事前に精算の準備をするために、純が財布を取り出した。
「とりあえず五千円で足りるか?」
ヤツは札入れをゴソゴソといじりながら、千円札を五枚取り出そうとしている。
昨日、無理言って純に付き合わせたから、飲み代は豪が全部出そうと考えていた。
「いや、今日は俺が誘ったから、ここは全額出——」
ヤツに手を差し出し、制止しようとしたその時。
「あぁああぁ〜っ!!」
『全額出すよ』と言おうとした瞬間、純が突然大声を上げた。
その場に居合わせた数名の客が、二人を一斉に見やり、急に羞恥に襲われる。
「何だよお前、いきなりデカい声出すなよ」
豪が嗜めると、今度はニヤリとしながら、純は豪を見やった。
「豪。恋の神様は、まだお前と高村さんを見捨ててなかったようだな」
「は? 意味分かんねぇんだけど。それに、女にだらしのない純が『恋の神様』なんて言うと、すんげぇ胡散臭ぇぞ」
純は、札入れから一枚のメモを取り出し、豪の目の前に突きつけた。
前回、ヤツと飲んだ時に豪が書いた、フルネームとプライベートの携帯番号とメールアドレスが書かれたメモ。
「マジか!」
豪は、驚きと嬉しさで、表情が崩れそうになるのを、グッと堪える。
「けど恋の神様って……お前、単に彼女に渡していなかっただけだろ?」
そうは言ってみたものの、彼は心の中で何度もガッツポーズをした。
「いやぁ、ここのところ忙しくて、豪から預かったメモの存在を、すっかり忘れてたわ」
たまたま仕事が忙しくて、彼女に行き渡ってなかったメモが、まだ純の財布の中にあった事に、豪は、神様って実はどこかにいるのかもしれない、と考える。
「純、休暇明けに、彼女にちゃんと渡してくれるんだろうな?」
「しょうがねぇな。連休明けの初日に高村さんに渡すか。親友と大事な部下のために、俺が一肌脱いでやるよ」
純はそう言うと、親指を立てながらニカッと笑う。
(まだチャンスは残ってる。奈美とは絶対に終わらせない……!!)
今の豪は、彼女からの連絡を待つしかないが、希望はあるって事だ。
「豪。連休明け以降に、プライベートの携帯番号に知らない番号が表示されても、シカトすんなよ? ひょっとしたら高村さんかもしんねぇんだからな?」
「ああ、わかってる」
豪は純から顔を逸らし、手で口元を隠しながら思わず笑みを漏らした。