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奈美は連休四日目に、久々に実家へ帰る事にした。
といっても、彼女の自宅から実家まで、四十分程度で行ける。
午前中に自宅を出発して、お昼少し前に着いた。
実家に帰るのは正月休み以来。
今は母が一人暮らししているが、奈美の部屋は、そのままの状態にしておいてくれてありがたい。
「奈美、おかえり」
母は笑顔で奈美を迎えてくれる。
家に入ると、まずは居間にある仏壇に線香をあげた。
父は、奈美が高校卒業してすぐに、肝臓ガンで亡くなった。
もうあれから七年以上も経ったのか、と月日の流れの早さを感じている。
「ねぇお母さん、久々にピアノ弾いていい?」
「いいよ。ピアノも奈美に弾いてもらったら喜ぶと思うよ」
彼女は、さっそく自室に行き、本棚から中村由利子の楽譜を取り出した。
譜面を開くと蓋を開け、カバーを取り鍵盤の上に静かに手を置く。
自分の思うテンポで、ソロベストアルバムにも収録されている『あなたが微笑む日』を演奏し始めた。
前奏は、自由なテンポで奏で、旋律とアルペジオは、ゆったりとした速度で、時々テンポを揺らす。
緩やかで優しい旋律は、奈美に癒しを与えながら語りかけてくるようで、弾きながら視界が歪み、鍵盤が見づらい。
曲の終盤に転調し、ピアノを奏でていると、一筋の光が見えたような気がした。
豪が穏やかに微笑むところを、いつか見られる日が来るのだろうか? と思いながら、曲は静かに後奏へと向かっていく。
最後の一音を丁寧に鍵盤に乗せた後、数秒ほど音の余韻に浸る。
そっと手を離し、演奏が終わった。
あと数曲弾きたかったけど、一曲弾いただけで心身ともにいっぱいになった奈美は、フェルト製の鍵盤カバーを掛け、蓋を閉める。
久々に弾いたピアノは、心のリフレッシュになった。
時々ピアノを弾きに実家へ帰るのも、いいかもしれない。
この日、奈美は久々に実家へ泊まる事にした。