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ひより
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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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#大人ロマンス
瑠璃マリコ
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重田💋(omoda)
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「出張……?」
朝陽の言葉に亜佑美は思わず聞き返した。
「はい。日帰りなんですけど、関西支社まで行かないといけなくて」
「そっか……」
ここ暫くは仕事が終わると迎えに来てくれていたけれど、業務の都合でどうしても動けない日があることは理解していた亜佑美は自分に言い聞かせるように微笑む。
「これから先もこういうことはあると思うし……どうしようもない時はあるよ。その日はタクシーで帰るし部屋に入るまではちゃんと気をつけるから大丈夫」
不安は消えないけれど、朝陽にばかり頼ってはいられないと自分なりに覚悟を決めていた。
けれど朝陽は首を横に振る。
「でも、俺としてはやっぱり心配なんです。だから、その日は陽向にお願いしようと思って」
「陽向くんに? でも、それは悪いから……」
遠慮する亜佑美に朝陽は穏やかに笑った。
「大丈夫です。陽向には俺から話しますから」
「でも……」
そこへ、タイミングよく朝陽のスマートフォンが鳴ると、画面に表示された名前を見て少し驚いたように目を瞬かせた。
「あ、陽向だ。ちょっと出ますね」
そう断って通話に出る。
『悪い、電話出られなくて。何? 兄ちゃんから掛けてくるなんて珍しいじゃん』
「あのさ、ちょっと陽向に頼みたいことがあるんだ」
『頼み?』
「電話じゃちょっと話しづらくて……これから会える?」
『あー、別にいいけど。ちょうど今、電車に乗るところだから、そっち行こうか?』
「来てもらえるなら助かる。帰りは送るから」
『了解。着いたらまた電話する』
「うん、よろしく」
通話を終えた朝陽はスマートフォンをしまうと、申し訳なさそうに俯く亜佑美へ優しく視線を向けた。
「亜佑美さんは申し訳ないなんて思わなくていいですから」
その一言に亜佑美の表情が少しだけ和らぎ、
「……うん。ごめんね、ありがとう」
そう小さく微笑む彼女を見て朝陽もまた安心したように穏やかな笑みを浮かべた。
それから一時間ほどが経ち、陽向がマンションへやって来た。
三人はリビングでコーヒーを飲みながら腰を落ち着けると、朝陽は出張の日のことと亜佑美がストーカー紛いの被害に遭っている現状を改めて説明する。
一通り話を聞き終えた陽向はカップをテーブルに置くと苦笑した。
「ふーん、美人の彼女を持つと大変だな」
「陽向……」
朝陽が困ったように名前を呼ぶと陽向は気にする様子もなく話を続ける。
「つまり、俺がその日は亜佑美サンを迎えに行って兄ちゃんが帰ってくるまでここにいればいいってこと?」
「うん。そう」
朝陽が頷くと陽向はあっさりと答えた。
「いいぜ、別に」
「ありがとう、助かるよ」
朝陽が安堵したように笑うと亜佑美も申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんね、変なこと頼んじゃって……」
「別に、礼なんていいよ。それより、そのストーカー、早く捕まえねぇと面倒じゃん。心当たりがあるならそいつとっ捕まえて吐き出させればいいのに」
「いや……確証はないから」
「ふーん」
陽向は短く相槌を打つと今度はニヤリと含みのある笑みを浮かべながら朝陽へ視線を向けた。
「でもさ、兄ちゃんはいいのかよ?」
「いいって、何が?」
「俺と亜佑美サンが二人きりで家にいることだよ。本音はさ、嫌でしょ? 俺と二人にさせるの」
「……!」
思わぬところを突かれた朝陽は言葉を失う。
「そ、そんなこと……」
若干しどろもどろになる朝陽を見て陽向は肩をすくめた。
「ま、それだけ亜佑美サンのことが好きってことなんだろうけど」
「陽向……」
「安心してよ、俺は兄ちゃんを悲しませるつもりなんてないし、そもそも亜佑美サンは俺のタイプじゃないから」
「なっ……」
思わず顔を赤くする朝陽に陽向は笑いながら言葉を続けていく。
「兄ちゃんが大切にしてる亜佑美サンのことは俺が責任持って守る。だから安心して仕事してきてよ」
その言葉に朝陽の表情からようやく力が抜けた。
「……陽向、ありがとう」
二人の会話を黙って聞いていた亜佑美は恥ずかしそうに頬を赤く染めていた。
こうして話は纏まり、弟 陽向を自宅まで送る為三人で外へ出る。
駐車場で亜佑美が車のドアを開けようとした、その時だった。
「……っ!」
亜佑美の身体が小さく強張る。
(まただ……)
誰かに見られている嫌な感覚が背中を這い上がり、その変化に真っ先に気付いたのは陽向だった。
「今、誰かこっち見てた……よな?」
低い声で尋ねられた亜佑美は小さく頷く。
「うん……」
陽向は周囲へ鋭い視線を走らせるものの、それらしい人物は見当たらない。
「なるほどな……まあ、視線を感じるくらいじゃ確かに手は出せねぇってことか」
亜佑美たちが置かれている状況を実際に目の当たりにした陽向もその厄介さを理解する。
「悪いな、陽向まで巻き込むことになって……」
「いいって。いつも迷惑掛けてるのは俺だし、頼ってくれるの嬉しいしさ」
「陽向……本当にありがとう」
「どういたしまして」
出張の日については何とか段取りが出来たものの不安だけは誰の胸からも消えることは無く、不穏な空気を抱えたまま当日を迎えることになるのだった。
コメント
1件
おお、陽向くん、いいキャラしてますね!朝陽くんの「弟に彼女を任せる複雑な心境」を真正面から突いてきて、でも最後は「兄ちゃんが大切にしてるから守る」って締める。この緩急がもう…じんわりきました。ラストの不穏な視線も含めて、安心と不安が交互に来る構成が巧みで、次の話が待ち遠しくなりました。家族の絆にあったかくなれる52話目でした🤍