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―――目?
ケガ?
―――俺が?
いつ?
―――誰かに、
やられた?
―――誰に?
何で?
その時、誰かの声が聞こえた。
「!!」
凌空は火が付いたように走り出した。
リビングを駆け抜け、体当たりをするようにドアを開けた。
廊下を走り、エレベーター脇の非常階段に飛び出した。
―――逃げろ。
アレが追いかけてくる。
手には包丁が握られている。
―――逃げろ。
全力で。
じゃないと、
「!!!!」
いつの間にか、凌空の身体は小さな子供に戻っていた。
凌空は夕焼けの中、真っ黒な影になって走ってくるソレから、必死に逃げた。
長い髪を振り乱して追いかけてきたのは、
若かりし頃の母親だった。
◆◆◆◆
どこをどう通ったかはわからないが、マンションについた。
晴子はいない。
紫音も帰っていない。
凌空は自分の部屋に飛び込むと、勢いよくドアを閉めた。
本棚に並ぶアルバムを睨む。
今までただの一度も開かなかったそれを力いっぱい引き出し、カーペットの上で開いた。
『4月19日』
凌空の誕生日だ。
病院で赤ん坊を抱く若い晴子。
その両隣に緊張した面持ちで立っている輝馬と、恨めしそうな顔で抱っこされている赤ん坊を睨んでいる紫音が写っている。
『お食い初め』
晴子に抱っこされながら、塩焼きのタイを眺めている赤ん坊。
紫音と輝馬が競うようにピースサインをしている。
(……違う。もっと後だ……!)
記憶に残るほど大きくなってから。
逃げられるほど成長してから。
『1歳』
『2歳』
『3歳』
『4歳』
凌空は必死でページをめくった。
「――――」
あった。
写真の日付は2009年8月12日
5歳の凌空は、病院のベッドの上で、瞼にテープを張られ、薄目でピースをしていた。
この時だ。
この時、自分は目に入院するほどのケガを負った。
『凌空……!!』
必死な声を思い出す。
助けてくれたのは、健彦だった。
先ほど見た、鬼のような形相の晴子を思い出す。
傷つけたのはおそらく、
晴子だった。