テラーノベル
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◇
それから1週間後、ムカム島に帰った俺はそびえ立つ施設の前に立っていた。
ピンク色に塗られた、いかがわしいホテルのような外観をしたそれは、メッサー王からもらったハーレムである。
ここに正室や側室の女性を住まわせる、江戸で言う大奥的な場所である。
そもそもなんでこんなものがあるかと言うと、どこの時代でも男女問わず異性関係で失敗する王が多く、関係を持つのであればこのプライバシーが守られるハーレムでいたせという暗黙の了解ができたのだ。
このハーレムは一見ラブホに見えるが、建物自体に空間を歪ませる魔法ミラージュパレスがかけられており、今目の前に映っている建物は砂漠の蜃気楼のような虚像である。
凄いのが、自分の招きたい人物が玄関ドアを開くとハーレムに入室できるが、それ以外の人物だと空間が歪んで俺の屋敷へと飛ばされるのである。
もうほぼ四次元空間である。
建物の前には本来俺の名前と、リガルドのハーレムであることを記された看板があるのだが、そこには雑にバツが描かれ、その上に大使館と書かれていた。
「こ、ここがハーレムですか……」
「大使館ね大使館」
荷物を持って侍従と共にやってきたセレーネは、そのいかがわしい建物に若干引いている。
俺がリヴィア女王に願った報酬は、セレーネのリガルドへの大使としての派遣。
リヴィア女王が政治を担ってくれるおかげで、セレーネは大使として、このムカム島に駐屯できるようになった。
まぁ俺も断られるだろうなと思って頼んだのだが、女王がセレーネの見識を広める事、他の王族たちと交友関係を深めることを理由にOKを出したので、本当にこの案が実現することになった。
「見た目はちょっとアレだけど、中はちゃんとしたホテルだよ」
とは言うものの、俺も初めて入るんだけど。
セレーネを案内して中へと入ると、ロビーにはでかいシャンデリアが飾られ、床は大理石で高級ホテルっぽい。
しかし部屋の中に入ると回転ベッドだったり、風呂のガラスが透けていたりと、ところどころに下品さが出ている。
これに関してはグローリーナイツの開発者の趣味だろう。
「ここが嫌だったら別に俺の屋敷でもいいけど。ただ、さすがに大使と一つ屋根の下はやばいかなって」
「そ、そうですね。それはさすがにまずいですよね……。あの、お聞きしたいのですが、ここはプライバシーは守られるのですよね?」
「あぁ、この建物には空間を歪ませる魔法が使われていて、許可した者以外は絶対に入れない。中の様子も外からは虚像が映し出されていて、盗撮も出来ないし、音も聞こえないんだって」
「な、なるほど、音も……」
「全裸で走り回っても安全だぞ」
「そ、そんなことしませんよ!」
してもいいのに。
「その……王子との密談もここなら自由ということですね?」
「会議ね、密談じゃなくて」
「は、はい、会議ですね」
ラブホでする会議ってなんだよって言いたくはなるが、権力者は言葉遊びが得意である。
「ねぇねぇラウル、このベッドめっちゃ回る! 楽し~!」
「おーい、この部屋なんで全面鏡ばりなんだ? 床も天井もだぞ」
「あれ? これマジックミラーじゃないかしら……」
ナハト、ヨハンナ、ママ上が内装を見て感想を言い合っている。
「ちなみに多分彼女たちもいるから」
「…………」
セレーネは眉を寄せて不満そうにする。
更にロビーからジャガーの声が響く。
「おいラウル、海行こうぜ海! すげぇ巨乳の姉ちゃんいたぞ!」
「マジかよ、行ってこよう」
「王子、ここにも巨乳の女いますよ!」
◇
引き止めも虚しく、ラウルはビーチへと駆けていった。
セレーネはウヒョーと、はしゃぐ王子二人を見てため息を付く。
「少年のような心を持った方ですね……」
彼の気を引くには、もう少し女性として意識されないとダメなようだ。
窓を開くと、眩い日の陽射しと南国の風が吹き抜ける。
人工の建築物が少なく緑豊かで、市場は活気があるし、青い海はエメラルドのように輝いている。
遠くで大きなクジラ型の海獣が、虹を描くほど大きな潮を吹いている。
「いい島……」
ここ数年、ギスギスとした会議室に閉じ込められ、オクタスや議会から責められ続けるストレスの多い毎日を過ごしていた。
アクアレムの海も、勿論このムカム島に負けないほどの美しさがある。しかしいつしかポセイドン城から見える海は、灰色になっていた。
暗い深海に閉じ込められたような息苦しさ。父も母もいない世界。
もう窒息してもいいかな……。そう思ったときにやってきたのが、肥満の王子様だった。
「…………」
セレーネは城に監禁されたとき、空飛ぶ箒に乗ってやってきた彼のことを思い出して赤面する。
「はぁ……」
熱い吐息が漏れる。傍から見ると豚の丸焼きのポーズで登場してきたラウルは、どう見てもコメディ主人公なのだが、セレーネにとっては白馬に乗る王子より輝いて見えた。
もし……もし万が一王子と結婚したらどうなるのだろうか……。
少女特有の幸せな想像を膨らませようとすると、国民がリガルドに対する暴動や反対運動を起こす姿が浮かんできた。
セレーネは城に火炎瓶が投げ込まれるところで想像を切り上げ、この事は考えなかったことにしようと首を振る。
「……そもそも王子の気持ちが大切ですし」
既にナハト、ヨハンナ、ステラのライバルが存在している。まずはここに入ることを目標とし、次に一番を目指す。
彼女は持ってきた荷物の中から、書物を一つ取り出す。背表紙には『負けヒロインにならない100の方法』と書かれている。
本を開くと、傾向的に引っ込み思案な自分のようなタイプは負けヒロインになりやすいらしい。
『意中の相手に爪痕を残せないヒロインは勝ち残れない。料理、フィジカル、トーク、なんでもいいので自分の得意分野で攻めよう』
本を参考にし、セレーネは鞄の中から貝殻が二つ繋がったビキニを手に取る。
一見通常の水着に見えるが、虹色に輝く貝殻は海龍族に伝わりし勝負水着である。
鏡の前で、それを胸に当ててみると、あまりの破廉恥さに耳まで赤くなってしまう。
「こ、これで王子を……の、悩殺、爪痕だらけに」
そんなことを考えていると、ソニアが部屋を尋ねてきた。
「セレーネ、早くビーチに行こう。我々の美しさを見せつけてやろうではないか」
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
ふとソニアを見ると、彼女は純白の水着に着替えた完璧な肢体を晒していた。
鍛えられた腹筋に、とんでもなく長い脚。しかも金髪のとんでもない美人ときた。
この体、ラウルが見惚れてもおかしくない。
まずいこれは爪痕。セレーネは初めて他の女性に対してジェラってしまう。
「…………」
「どうした?」
「この島、ヒトデっていますかね? できるだけ小さいのがいいんですけど」
「確かスターマンという黄色いのがいたと思うが、それがどうかしたのか? その紐はなんだ?」
「着るんです」
「着る? ヒトデを?」
「はい、ヒトデビキニを作ります」
「なるほど……さすが水の国の女王、通常の人間では思いつかないエレガンスなコーディネートを考えるな! ではヒトデを探しに行こう」
その後、ヒトデ水着を着たセレーネとソニアのせいで、ビーチがパニックになったのは言うまでもない。
悪役王子、聖剣を抜く
第3章 了
コメント
1件
読み終えたわ。第54話、セレーネがムカム島に大使として赴任してきて、ラウルのハーレム(通称・大使館)に案内される話ね。いかにもラブホな外観にセレーネが引きつつ、空間魔法で完全プライバシー確保なのに「会議」ってオブラートに包む大人の事情、笑ったわ。ヒトデビキニ作る発想、水の国って感じで好き。セレーネの「負けヒロインにならない100の方法」片手に頑張る姿、応援したくなる。次も楽しみにしてる🔥
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ありんす
1,095
ねこなさま🐈⬛💘
7
す㍄
9