テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
239
ありんす
1,095
ねこなさま🐈⬛💘
7
す㍄
9
「はぁ……」
セレーネはハーレムの窓から見える、青いビーチを見て深い溜め息をついた。吹き抜ける南国の風が、彼女の髪を揺らす。美女の憂い気な表情は、まるで一枚の絵画のようだ。
そんな彼女が今考えていることが――
「セクシーになりたい……」
わりとくだらないことだった。
セレーネはラウルに爪痕を残すために、前回ヒトデビキニを着用したことを思い出す。胸のトップを隠す程度の極小のヒトデ、あっけにとられるビーチ。今考えても迷走としか思えない行為に、顔から火が出そうだ。
しかしながら、チャレンジ精神は認められたのかラウルは喜んでいた……ような気がする。
「あれはわたくしに恥をかかせないように、わざと喜んでいたのでしょうか……」
セレーネは負けヒロインにならない100の方法を開き、中を確認する。
そこには爪痕を残そうとして、やりすぎてはダメ。空回りは逆に引かれると書かれている。
「そういうことは早く言って欲しい……」
更に読み進めると、自分がなりたい人を観察するといいよと書かれている。
「自分がなりたい人……」
セクシーを体現した女性、それは
「ステラさんしかありえません」
歩くセクシーを体現した女性ステラ。彼女がビーチに出れば、男性は全員前かがみ。フェロモンの放出量が半端ではない。彼女のようになればきっと――。
そう思いハーレムを出てラウルの屋敷へと向かう。
「あの……ステラさんはいらっしゃいますか?」
屋敷の玄関はがらんとしており、メイドも見当たらない。
皆でビーチにでも行っているのだろうかと思いつつ、屋敷内へと入る。
「すみませ~ん……留守ですかね」
「は~い、ちょっと待ってね~」
奥から目当てのステラの声が響いてきた。
良かった、いたんだと安堵すると、ステラはバスタオルを体に巻いただけの姿で登場。全身から湯気が立ち、激しい起伏にそって雫が流れていく。
「…………」
「ごめんね、お風呂に入ってて。あら、セレーネちゃんどうかしたのかしら?」
「セ、セクシー!!」
「?」
突然叫んだセレーネにぽかんとするステラ。
その後、着替えたステラと海が見えるリビングで話をする。
「すみません。あまりにもセクシーな格好でしたので」
「ごめんなさいね、はしたない格好で。今皆ビーチに現れた巨大海獣マグロと戦ってるみたいで」
「そ、そうなんですか? わたくしも行ったほうがいいのでしょうか」
「全然大丈夫よ、むしろもう倒して引き上げ作業に四苦八苦してるみたい。体長が10メートルくらいあるらしいから」
「なるほど……。すみません、変なことかと思うのですが今セクシーについて勉強をしていまして」
「せ、セクシー?」
ステラが困惑するのも無理はない。王女から真面目な顔でセクシーについて聞きたいと言われて、笑わなかった分優しいと言える。
「その……わたくし、今、意中の男性がいまして……」
「ラウルちゃん?」
「…………」
一発で言い当てられ、セレーネの顔が一気に赤くなる。
「わ、わかりますか?」
「ええ、もう顔に書いてあるわ」
優しく微笑むステラ。だが、セレーネとしては穴があったら入りたいほど恥ずかしい。
「その……ステラさんが想っている男性を好きになるというのは……なんだか言い出しにくくて」
「いいのよ。ラウルちゃんのことが嫌いなら困るけど、好きなら全然気にしないわ」
「……あの……ステラさんは、ラウル王子ひとりに対して、複数の女性が想いを寄せることについて、どう思われているのでしょう?」
「ラウルちゃんを支えてくれる人が増えるのは嬉しいわ」
ステラは穏やかに微笑みながら続ける。
「ラウルちゃんは、本当は優しい子なんだけど、わざと敵を作っちゃうところがあって」
「わかります……わたくしが言えたことではないのですが、彼もまた王子として不器用なのだと思います」
「うん。だからこそ、ちゃんと彼をわかってあげられる人がそばにいないと、心が壊れてしまうの」
ステラの瞳が少し悲しげに揺れる。
「メッサー王のように、他者からの嫉妬や悪意に耐えきれなくなって、”悪王の鎧”をまとい、人の頂点に立とうとしてしまうかもしれない……」
「…………」
「でも、私たちがラウルちゃんの心を守ってあげられれば、彼は今のままでいられると思うの」
セレーネは静かに頷いた後、少し言いにくそうに尋ねた。
「……ステラさんは、王子を”守りたい”という気持ちは伝わりました。ですが……恋愛としての感情はあるのでしょうか?」
そう聞くと、ステラは一瞬驚いたように目を見開き、次の瞬間、顔を赤らめた。
「えっ……そ、そうね……今まで義母として接してきたから、”愛してる”って言うのは、なんだか息子に恋をしてるみたいで恥ずかしいけれど……私はラウルちゃんを愛しているわ」
「……好きになった理由を聞いてもいいですか?」
「ラウルちゃんとはもう五年以上一緒に住んでいるのだけど、つい1年前くらいに突然豹変したの」
「豹変……ですか?」
「ええ。それまではずっと部屋に引きこもっていたのに、ある日突然外に出て、訓練を始めたのよ」
ステラは懐かしむように目を細める。
「一番変わったなと思ったのは、王都へ行くときのこと。お土産にフルーツを買おうと思ったのだけれど、フルーツ屋さんが傷んだものしか売ってくれなくてね……。仕方ないと思っていたら、ラウルちゃんが『これはおかしい』って言って、新鮮なフルーツを別の商人から買ってきてくれたの」
「……なかなか、商品を変えてほしいとは言い出しにくいですよね」
「そうなの。私は気が弱くて、そういうことが言えなかったの。でも、ラウルちゃんは当然のようにそれをしてくれた」
ステラの表情が、ふっと和らぐ。
「それだけじゃなくて、いつも身体を触ってくる八百屋さんや、しつこくホテルに誘ってくる冒険者たちからも、全部ラウルちゃんが守ってくれたの」
彼女の声には、ラウルへの信頼と感謝が滲んでいた。
「……あぁ、きっと私、ラウルちゃんがいなかったら、不幸になっていたんじゃないかって思うの」
「確かに……ステラさんって、ダメな男を引き寄せるオーラがある気がします」
セレーネがついポツリとこぼし、すぐに慌てて訂正する。
「あっ、すみません! 決して悪い意味ではなくて、母性的というか……」
「ふふっ、大丈夫よ。本当のことだから」
ステラは苦笑しながらも、どこか納得したように頷いた。
「私も、聖剣のしがらみがあったから、貞操を守ろうって必死だったけれど……。もしそれがなかったら、きっと誰かに押し倒されていたんじゃないかしら」
セレーネは、チャラ男系冒険者に強引に押し倒され、無理やり手籠めにされてしまう彼女の姿が容易に想像できた。
その上子供を無理に孕まされてしまうも、遊び呆けてロクに金を稼がないチャラ男に泣かされる未来までも見えてしまった。
「ラウルちゃんは盾になって、全力で私達を守ってくれてるから、私達は全力でその心を守るの」
「なんだかすみません……自分だけ浮ついてしまって。セクシーになりたいとか、アホの子みたいなこと言って恥ずかしいです」
「全然いいのよ! 私じゃなんの参考にもならないかもしれないけど」
ステラはセレーネを抱き寄せる。
「あなたも多分、ラウルちゃんに運命を変えてもらったのよね?」
「……はい。わたくしも……王子がいなければオクタスの伴侶にされ……苦しみ抜いた後自害していたと思います」
「私はね、ラウルちゃんみたいに特別な事を成し遂げられる人には、一緒に歩む人が多く必要だと思うの。王族はハーレムを作ってとか、いっぱい批判はある。でも痛みを背負って歩み続けなければならない彼を守るには、すぐ近くに助けられる人がいてあげないとダメだと思う」
「……」
「運命っていうと大層かもしれないんだけど、あなたもラウルちゃんの運命に引き寄せられたのなら……一緒に歩まないかしら?」
慈しむようなステラの声に、セレーネはコクリと頷く。
「すみません、これからステラさんのことを姉上とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ大丈夫だけど」
「さしあたっては、姉上のお風呂上がりがとてもセクシーに見えたので、わたくしもやってみたいと思います!」
「う、うまく行くかしら?」
ステラの不安通り、その後お風呂上がりでお出迎え作戦を行うも、ラウルではなくソニアを出迎えてしまったセレーネは、普通に注意を受けた。
王女が裸で外に出るなと、あまりにも正論を言うソニアにぐうの音も出なかった。
セクシーって難しいと思うセレーネだった。
コメント
1件
ちょっとセレーネ、可愛すぎるよ(笑) 「セクシーになりたい」から始まって、ステラ姉に相談するとか、もう完全に妹キャラじゃん!でもって、お風呂上がり作戦はソニアに注意されるオチ…あるあるすぎるw ステラが語った「ラウルを守りたい」っていう気持ち、すごく伝わってきた。単なる恋愛じゃなくて、ちゃんと彼の心を守ろうとしてるところが大人だなあって思ったよ。姉上って呼び方もすごく自然で、この関係性好きだな🌙