ドライブを始めて20分ほど経つと、車は海沿いにあるレストランへ到着した。
真っ白な建物の前には大きなヤシの木が植えられている。
この店のシンボルツリーだ。
建物の向こう側には海に面した広いテラスがあるようだ。
テラスには松明が用意されていたがまだ明るいので火は灯されていなかった。
石垣島の日の入りまではまだ少し時間がある。九月のこの時期だったら午後7時前後だろう。
店に入ると健吾はスタッフに名前を告げた。予約を入れていたようだ。
店内を見回すと、既に数組のカップルが食事を楽しんでいた。
二人は店の一番奥にある、窓から海を一望できる席へ案内された。
席に着くと理紗子が言う。
「こっちは日が暮れるのが遅いわね」
「そうだな。7時を過ぎてもまだ明るいからなんか得したような気分だ」
「東京はもう暗いんだろうなぁ。明日から現実に戻るの嫌だー」
理紗子が嘆くと、
「まあまあ、東京に帰っても俺が非現実の世界へ連れて行ってやるからあまり悲観するな」
健吾はそう言って穏やかに微笑んだ。
(東京に戻っても非現実世界が続くの?)
理紗子はその言葉につい嬉しくなる。しかしそれを顔に出さずにすました顔をしていた。
このレストランはイタリア料理を基調とした創作料理の店だった。
石垣島で採れた新鮮素材をふんだんに使った料理が人気のようだ。
店内はブルーの壁に床材はウォールナットの深いブラウン、テーブルにかけられた真っ白なクロスが全体を引き締めている。
BGMにはイタリアのミュージシャンによるしっとりとした音楽が流れ、とても落ち着く素敵な店だった。
(こんな素敵な店を知っているという事は、以前に誰かと来たのかな?)
理紗子はふとそんな事が気になっていた。
料理は既に頼んであるようで、健吾が飲み物は何がいいかを理紗子に聞いた。
「ワインにする? 俺は運転するからノンアルコールだな」
「じゃあ私もノンアルコールで。最終日に酔って潰れたら勿体ないから」
理紗子が苦笑いしながら言うと、
「それは賢い選択だ」
健吾はニヤッと笑って飲み物を注文した。
その時理紗子は思い出したように言った。
「そう言えば、友人にお土産を買うのをすっかり忘れちゃった」
「ん? 土産? 空港で買うとかじゃダメなのか?」
「うんあのね、その友人婚約していてもうすぐ新居に引っ越すの。だから何か記念になるようなものがあれば買いたいんだけれど」
「引っ越し祝い的なやつかな? だったらいい店を知ってるよ。琉球ガラス専門の店で作家の一点ものとかも売ってるし」
「そこ行きたい! 明日行く時間ある?」
「空港に行く途中で寄ってあげるよ」
「ありがとう。助かります」
「友達って、学生時代の?」
「うん、大学時代からの友達。結婚する相手は大学病院のお医者様なの」
「へぇそりゃ凄いね。結婚は今年?」
「クリスマスの少し前。洋子って言うんだけれど、すごくしっかり者で昔から頼りになる友人なの」
それを聞いた健吾は、その洋子と言う友人は理紗子にとってかけがえのない親友なのだろうと思った。
こうやって一つずつ彼女の事を知っていく。そしてその新しい一面を知る度に健吾はもっともっと理紗子の事を知りたいと思うのだった。
その時注文した飲み物が届いたので二人は乾杯した。
そこからはコース料理を楽しんだ。
メインは石垣牛の溶岩焼きステーキだった。
理紗子は、島で過ごす最後の夜にもう一度石垣牛が食べられたので喜んでいた。
パスタは石垣産の車海老を使ったトマトクリームパスタで、それ以外にも石垣近海魚を使った地中海風マリネや、島豆腐とクリームチーズを石垣島産の味噌で和えた物等、地元の素材をふんだんに使った料理が次々と続く。
そのどれもが美味しかった。
食いしん坊の理紗子は美味しい料理に大満足だった。
「それにしても、こんな素敵なレストランよく知っていたわね」
「この店は当たりだったね。俺も初めてだったから気に入って貰えて良かったよ」
「以前来た事があるのかと思ってた」
「いや、初めてだよ。ここは二年前にオープンした店だからね」
「そうなの?」
「うん。今度投資家仲間達と来たらこの店を教えてやるかな」
健吾は微笑みながら言った。
(なんだ、初めてだったんだ)
その時理紗子はなぜかホッとしている自分に気づいた。
コメント
4件
らびぽろちゃん、ウンウン....😆 健吾さん素敵よね~♥️ ニヤッとして 一見俺様っぽい素振りをするんだけど🤔 その内面はすごく気遣いがあって、理紗子ちゃんひとすじ💝独占欲も 強強スギ....😁 まさにスパダリ男😎👍️♥️ 私もドキドキしちゃう~~~😍💕💕
「俺が非現実の世界へ連れてってやるからあまり悲観するな」 あぁぁぁぁ✧*。こういうね、こういう言い方をする健吾がスキ💖 次はニヤッとしながらどんな言葉を発するだろうってドキドキする( ꈍᴗꈍ)💓
フフッ、理沙ちゃんは健吾の過去の女性遍歴にちょっぴりジェラシーだね🤗 でもこんなにイケてる独身のすごい個人投資家で人望があって男女問わず慕われてる人だもんね。 でもそろそろ理沙ちゃんは自分の秘めた気持ちに気づいて少しずつ素直になって健吾と向き合ったらもっとステキな世界に連れてってくれると思うなぁ🥰✨💞