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第十三章 繋がる願い
第十八話 それぞれが灯す光
ジントがソルト家へ来てから五日が過ぎていた。
ここへ来てからも変わらないダイチの過保護のお陰もあり、肩の怪我もかなり良くなった。
最初こそ遠慮がちだったジントも、今ではだいぶ屋敷の空気に慣れてきている。
食事の席では自然に笑うようになり、シアンやマリンとも以前以上に打ち解けていた。
時折ハヤト達も屋敷へやって来ては、今後の予定について話したり、街であった出来事を聞かせてくれる。
そんな時間が、今のジントにとって大切な安らぎになっていた。
その日ソルト家の広い演習場には、
澄み渡る青空が広がっていた。
「……っ!」
ガンッ!!
木刀同士が激しくぶつかる音。
風を切る鋭い音。
ハヤトとジュウタロウが、演習場の中央で剣を交えている。
「はぁっ!!」
踏み込みと同時に、ハヤトの木刀が真っ直ぐ振り下ろされる。
重い。
速い。
圧倒的な力。
だがジュウタロウは、流れるような動きでそれを受け流した。
銀髪が風を切る。
「甘い」
鋭い突き。
ハヤトはニヤリと笑いながら、半歩身体を捻って避ける。
そのまま横薙ぎ。
再び激しい音が響いた。
遠巻きにソルト家の兵士達や使用人達が集まっている。
誰もが息を呑みながら見入っていた。
ジントもベンチへ腰掛けながらその様子を見つめている。
改めて思う。
二人とも、本当に強い。
ハヤトはパワー型。
太陽みたいに真っ直ぐで豪快。
対するジュウタロウは、スピードと技術。
まるで氷の上を滑るような、無駄のない美しい剣技。
練習用の木刀だというのに、目を奪われるほど洗練されていた。
やがて——
ガッ!!
最後に大きく木刀がぶつかり合い、二人が距離を取る。
「……はぁ……」
肩で息をするハヤト。
額には汗が滲んでいた。
だがその顔は楽しそうだ。
「ジュウタロウ、また腕上がったんじゃないのか?」
太陽みたいな笑顔。
#恋愛
ばたっちゅ
4,548
成瀬りん
148
#怪異
215
ジュウタロウも軽く息を整えながら口元を緩める。
「力ではハヤトに敵わないな」
銀髪を揺らしながら汗を拭う。
そんな二人の姿に、周囲のメイド達から小さな悲鳴が上がる。
「きゃああ……!」
「素敵……!」
ジントの隣では、アズールが両手を口元に当てながらずっとワナワナ震えていた。
「無理無理無理無理……」
「顔が良すぎる……」
「しかも強いとか反則……」
「尊い……」
ブツブツ呟き続けている。
「姉ちゃんうるさい」
ダイチが呆れたようにツッコむ。
だがその目も、どこか憧れを含んでいた。
「俺も二人くらい剣使えたらなぁ……」
感心したように呟く。
するとジントが少し不思議そうに首を傾げた。
「ダイチも十分剣上手いと思うよ」
幼い頃から剣術の稽古に励んでいた姿を思い出す。
「それに……何も持たなくても強いじゃん」
いつも自分を守り、助けてくれた逞しい存在。
ジントは、鍛え抜かれた傷だらけの腕や拳へ目を落とす。
そして自然と、そっとその手に触れる。
「えっ」
一瞬固まるダイチ。
そして赤い顔で視線を逸らす。
「そ、そんなん言われると照れるやん……」
ジントがくすっと笑う。
その時、ダイチが何か思い出したように顔を上げた。
「せ、せや!」
「シアン!マリン!」
名前を呼ばれ、近くで見学していた二人がぱっと振り返る。
「少しハヤト達に稽古つけてもらおか!」
「えっ!?」
「ほんと!?」
一瞬で目を輝かせるシアンとマリン。
ダイチは足早に二人を連れて演習場中央へ向かった。
「ハヤトー!ジュウタロー!」
「この二人にちょっと稽古つけたって!」
ハヤトはすぐ笑顔になる。
「もちろん!」
ジュウタロウも静かに頷いた。
シアンはハヤトの前へ。
マリンはジュウタロウの前へ立つ。
だが二人とも緊張しているのか、木刀を握る手がぎこちない。
ハヤトはシアンの前でしゃがみ込み、目線を合わせた。
「そんなに力入れなくていい」
「まずはちゃんと立つところからだ」
優しい声。
シアンは真剣な顔で頷く。
「はい!」
その隣では、ジュウタロウがマリンへ静かに木刀の持ち方を教えていた。
「指に力を入れすぎるな」
「……こう、ですか?」
「そうだ、上手い」
褒められて、マリンの顔がぱあっと明るくなる。
それを見てジントも自然と笑みを浮かべていた。
暖かな日差し。
響く笑い声。
木刀の乾いた音。
そして穏やかな時間。
ジントはふと空を見上げる。
ーーこんな時間が、ずっと続けばいいのに。
そんなことを少しだけ思ってしまった。
昔の自分には、こんなふうに誰かと笑う未来なんて想像できなかった。
ただ薬屋で静かに暮らして。
誰かに迷惑を掛けないようにして。
それで十分だと思っていた。
けれどいつの間にか、守りたいと思えるものが増えていた。
隣には、何も言わずに手を差し伸べてくれる仲間がいる。
帰りたいと思える場所がある。
ジントは小さく目を細める。
そして胸の奥で、そっと願った。
この時間が、少しでも長く続きますように——ー。
◇
日が傾きかけ、涼しい風が演習場を吹き抜けていく。
先ほどまで木刀の音が響いていた中庭には、今は穏やかな空気が流れていた。
演習を終えた四人は中庭の椅子へ腰掛けながら談笑している。
汗で少し乱れた金髪をかき上げ、ハヤトが笑った。
「ソルト家は剣の素質あるんじゃないか?」
「シアン、飲み込みかなり早かったぞ」
その言葉にダイチが嬉しそうに笑う。
「やろ?」
「小さい頃から木の枝振り回しとったからなぁ!」
その隣ではジュウタロウも静かに口を開いた。
「マリンは剣のコントロールが上手い」
「無駄な力が入っていない」
ダイチはますます誇らしげになる。
「マリン、昔っから器用やねん!」
ジントもそんな様子を見て思わず笑みを浮かべていた。
柔らかな日差し。
涼しい風。
穏やかな笑い声。
こういう時間が、不思議なくらい心地よかった。
そんな時だった。
「おーーい!!みんなー!!」
遠くから聞き慣れた声が響く。
全員が振り返る。
そこには、大きな荷物を抱えたシュンタの姿。
「市場で色々買ってきてん!」
「見て見て!」
どさっと荷物を地面へ置くと、次々と道具を取り出し始める。
「これ、小さく折り畳める寝袋!」
「こっちは高速で湯が沸かせる魔道具!」
「あとこれ、音まで遮断できる結界石やで!」
見たことのない道具が次々と出てくる。
「……よくそんなに見つけてくるね」
ジントは思わず感心したように呟いた。
シュンタは得意げに笑う。
「旅は道具が大事やからな!」
その時、荷物の奥からひとつ奇妙なものが現れた。
四角い木の箱。
一面だけぽっかり穴が空いていて、
そこには透明な丸いガラス玉のようなものが嵌め込まれている。
反対側には取っ手のようなもの。
ジントは不思議そうにそれを持ち上げた。
「シュンタ、これは?」
「あぁ、それ?」
シュンタがニヤッと笑う。
「面白いんやで!」
そう言ってジントから箱を受け取る。
そして横についた取っ手を回し始めた。
カラカラカラ……
すると、ガラス玉がぼんやりと光った。
「えっ……!?」
ジントが目を見開く。
シュンタがさらに回す速度を上げる。
すると光は少しずつ強くなり、夕暮れの薄暗い中庭を柔らかく照らし始めた。
「おお……!」
ダイチが感動したように声を上げる。
やがてシュンタは、ふぅっと息を吐きながら手を止め、箱をジントへ渡した。
「これ、“デンキ”いうんやって」
「魔石なくても光るんやで!」
「なんか変わったオッサンから買ったんやけどな」
ジントは箱を両手で抱えながら、じっとその灯りを見つめる。
「……なんだか、あったかい……」
ぽつりと呟く。
その言葉に、ハヤトが興味深そうに箱を覗き込んだ。
「これは便利だな……」
「永久的に使えるのか?」
シュンタが肩を竦める。
「普通の魔石灯よりは長く使えるらしいで」
「まぁ、これ回す手間は掛かるけどな!」
ジュウタロウも静かに観察する。
「……熱も発生するのか」
「色々応用できそうだな」
ダイチは目を輝かせた。
「もっと大きいのとか!」
「早く回す方法とかあれば、すごいのできるんちゃう!?」
その言葉にみんなが笑う。
小さな灯りを囲む五人。
それはまるで、まだ誰も知らない未来を見つめているようだった。
「あ!あとこれもオモロイんやで!」
シュンタがまた別の道具を取り出し説明を始める。
辺りは少しずつ薄暗くなっていく。
西の空を染める夕焼け。
小さな灯り。
それが五人の顔を優しく照らしていた。
やがて小さな箱の中の灯りは、静かに消える。
日も沈み、庭を照らす光は再びいつもの魔石灯へ戻っていた。
その光を見ながら、ハヤトが立ち上がる。
「……そろそろ行くか!」
みんなが顔を上げる。
ハヤトはジントを見る。
「ジントの怪我の具合が良ければ」
「明後日にはラディスを出発しよう」
ジントは静かに頷いた。
「うん」
シュンタも立ち上がり、大きく伸びをする。
「ようやくやな!」
ジュウタロウは夜空を見上げる。
「ミルハか……楽しみだ」
ダイチはジントを見て、嬉しそうに笑った。
「またここから出発やな!」
その言葉にジントも優しく微笑む。
「うん」
「今度は二人じゃないから、心強いね」
その言葉にダイチは一瞬、少しだけ複雑そうな顔をした。
けれどすぐにいつもの笑顔へ戻る。
「……そうやな!」
その横顔を、魔石灯の柔らかな灯りが照らしている。
空には細い月。
そして月よりも眩しく輝く星々。
それぞれが胸の奥に、新たな旅への決意を静かに灯していた。
第十三章 完
コメント
5件
シュンタのいろんな道具にワクワクしてる4人がとっても可愛かったです☺️ 何気ない毎日の幸せをジントが噛み締めているのがグッときましたね… いつまでも5人で仲良くいて欲しいものですね🤭︎💕

お初にお目にかかります。昨日こちらのシリーズを1話から拝読し、一気にここまで読んでしまいました。世界観が作り込まれていて、また5人のキャラクターが存分に生かされていて、大変読み応えのある作品に出会えてとても嬉しく思います!!続きを、楽しみにしております!
第66話読み終えたよ!もうね、この回の空気感が優しすぎて泣きそうになったわ…。ジントがソルト家で穏やかに笑うようになって、ハヤトとジュウタロウの剣術の稽古見ながら「こんな時間が続けばいいのに」って思うシーン、胸にきた。あとシュンタが持ってきた「デンキ」の灯り、みんなで囲んでる光景がタイトルそのまんまだったな。旅立ち前の温かい日常が本当に沁みた🔥