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第一話〜帰還者〜
スマホの画面の中で、アナウンサーが困惑した声を上げている。
「現在、鹿児島県の日之影町にいます。これは専門家によると、縄文時代後期から弥生時代初期の出土品だそうです。えー……土偶と棒、そして信じがたいことに火縄銃のようなものがあります。いやいや、弥生時代に火縄銃……ですか?」
画面がスタジオに切り替わると、歴史学者の肩書を持つコメンテーターが、鼻で笑うように肩をすくめた。
「あり得ませんね。よくある悪質なフェイクか悪戯の類でしょう。あるいは……後世の人間が紛れ込ませたゴミを発掘チームが見誤ったのでしょうね」
スマホの画面を少しスクロールすれば、SNSのタイムラインにニュースに対するノリの投稿が溢れていた。
『火縄銃で狩りしてたら激アツで草』
『タイムトラベラーがうっかり落とした説』
『はい仕込み確定演出わろた』
それはこの学校に、僕ら5人と警備員だけの時だった。
僕らはなぜか居心地のいい教室の隅に固まり、それぞれ時間を潰していた。
タカは無意識に窓の外を眺めていた。
燃えるように赤く染まった空。……美しい。
理由はわからないが、この夕焼けを、忘れてはいけない気がする。
タカの頬を、温かいものが伝う。
その水滴は陽の光を受けて淡く輝き、そして流れ落ちた。
リョウだけが、少し不思議そうな顔でタカを見ていた。
「おい、なんで泣いてんの?」
「え? 違うよ、ただの汗だし」
リョウが何か言い返していたが、慌てて顔を拭っていたから聞きそびれた。
隣の席では、フウゴが貧乏揺すりで机を揺らしながら、動画を見ている。
「見ろよハクト。縄文時代に火縄銃だってよ、やらせだろ」
「それよりさ、作文! 居残りになっちゃったじゃん。リョウ、原稿用紙見せてよ」
ハクトが情けない声を上げると、リョウはニヤニヤしながら、見返りが欲しそうな目でハクトを見つめた。
「ハクト、お前終わってないのかよ」
「お願い!」
いつも通りの放課後だが、なんだかんだ言って、幸せな時間。
黒板の隅には、まだ消されていない奇妙な落書きが残っていた。誰の悪戯だろうか。
ー山ト人、喰イテワスルルナー
掠れた白チョークの文字を、コウルが小馬鹿にするように笑い飛ばした。
「黒板にあれ書いたのタカ? 日本語不自由かよ」
普段は温厚なタカが、その時だけは、射抜くような鋭い目でコウルを睨みつけた。
ーーカチッ、カチッ、カチッ、カチッ。
突如、時計の秒針の音が、鼓膜の真横で鳴っているかのように鮮明に響き渡った。
ぴたりと、風が止まる。
誰も喋らない。
ああ、何も聞こえない。
ズドドドドゴゴゴゴォオオッーーー!!!
突然のことだった。教室全体が揺れたのか、自分が倒れたのかわからない。
「おぁぁあ、地震か!」
誰かが悲鳴を上げた。
足元を見る。あれ、床がない。抜け落ちたのか。
「ここ一階だぞ!!?」
タカの視界が激しく歪む。
その時、巨木が裂けるような音が鳴り響いた。
黒板が溶けるように崩れ、光とともに漆黒の穴に吸い込まれてゆく。
その瞬間。
――世界がひっくり返った。
深い、深い、終わりのない闇の底に落ちていく感覚のあと。
タカが目を開けた時、視界を埋め尽くしていたのは、現代では見たこともないほどに青く、どこまでも高い空だった。
「ああ……」
ザザァー、ササササ……。
黄金色の稲穂が微風に靡いて、海のさざ波のような音を立てている。
鼻をついたのは、土の濃密な匂い。子供の頃、家で飼ってたカブトムシの匂いに似ていた。
きっと死んだんだな。じゃあここは天国?
「あーあ残念、さよならか」
ゆっくりと目を閉じようとした、その時。
「タカ! おい、無事かタカ!」
黄金の海をかき分けて飛び出してきたのは、リョウだった。
リョウはタカの肩をがっしりと掴み、安心したように息を吐いた。
「よかった。フウゴ達は向こうにいる、全員無事だ!」
「生きてた……ここは? 俺たち学校にいたよな」
「わからない、とりあえず合流して開けた場所に出よう」
リョウに肩を貸され、ふらつきながら稲穂の波を抜ける。
そこには、すでにフウゴ、コウル、ハクトの3人が集まっていた。
フウゴは爪でスマホをカチカチ叩いている。
「ダメだ壊れてる。ここ異世界かよ。そういう漫画見て予習しとけばよかった」
ふざけた様に思えるフウゴの発言に、誰一人として注意をする者はいなかった。
あたりを見渡すと、藁でできた建物が9つ、高床式の奇妙な小屋、黄金色の稲畑。
近くの川には、丸太をくり抜いたような木の舟が浮かんでいて、そこで釣りをしている人もいる。
ハクトは地べたに座り込み、今にも泣きそうな顔で自分の膝を抱えていた。
「嘘だろ……帰りたい……はやく帰りたいよ。
なぁコウル、ここどこだよ?」
コウルはただ、地面に落ちている『あるもの』を凝視していた。
それは、黒く鋭利に磨き上げられた石。
黒曜石の鏃だった。
「景色や植物、落ちている鏃からして、縄文から弥生あたりか。おそらくは映画の撮影のために作られたセットだろうな」
「とりあえず人に話しかけてみよう」
その時だった。
ーーバシュッッ!!!
凄まじい風切り音を立てて。
一本の矢が、タカの脳天を掠め去った。
黄金の稲穂をかき分けて現れたのは、半裸に毛皮を纏い、ギラついた目でこちらを睨みつける数人の男たち。
その手には、次の矢がすでに番えられていた。
【こんにちは! 作者の興味の鳩 (そこら辺にいるただの高一)です。私 の作品を見つけてくださり、そしてたくさんの「いいね」をありがとうございます。 これからは3日以内に1話ずつ更新していくので、どうぞよろしくお願いします!】
コメント
3件

高一でこレバ天才なのでは?
わあ、読了お疲れさまでした…! まず冒頭のアナウンサーの困惑した声、ここで一気に引き込まれました。「縄文時代に火縄銃」というミスマッチ、タイムトラベラーの噂みたいでワクワクしますね。 それにしても、教室の居残り風景から一瞬で「あちら側」に落ちる転移の描き方がとても自然で、私も一緒に落ちていく感覚になりました。 特に、黒板の「山ト人、喰イテワスルルナー」という落書きがすごく不気味で…これ、誰が書いたんでしょう? ラストの矢が掠めるシーンも含め、続きが気になって仕方ありません。 とても引き込まれる第1話でした、ありがとうございます🌷
#戦闘