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ミケイラ
#ギャグ・コメディ
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花の街ハルディン。 俺とサフランは、数日の旅を経てようやくその門をくぐった。
視界に飛び込んできたのは、色とりどりの花が咲き誇る美しい街並み。甘い香りが鼻をくすぐり、サフランは声を弾ませた。
「わぁ、綺麗! 見てユウト、まるでお城の庭園みたい!」
サフランは花壇に駆け寄り、キラキラと目を輝かせた。
俺はその様子を横目に、真顔で指を鼻に当てた。
(……花の街、ね。確かに見栄えはいいが……)
鮮やかに彩られた花壇の傍らには放置された食べ歩きのゴミが落ちている。
街を行き交う観光客は多いが、華やかな景色の裏側には都会ならではのポイ捨てが積み重なっていた。
(花の香りで誤魔化してはいるが、排水溝の掃除は数ヶ月放置されてるな。……ふっ、掃除のしがいがありそうな街だぜ)
職業病じみた笑みを浮かべる俺をよそに、サフランはある施設を見つけて駆け出していった。
「ユウト、あったよー!」
そこは、重厚な石造りの建物で、入り口には剣と盾をあしらった大きな看板が掲げられていた。
「冒険者ギルド!」
――
施設内に入ると、巨大な掲示板を囲むように荒くれ者たちが群がっていた。
サフランは人混みをかき分け、張り出された依頼書を熱心に吟味し始める。
「ねぇねぇ、これ見て! 報酬もすごいよ!」
彼女が指差したのは、『火炎龍の幼体討伐』
報酬は百万Gと破格だが、推奨ランクは明らかに俺たちの手には余るものだった。
「うーん、もっと低リスクなのがいいんじゃないっすか?」
「えー、せっかくハルディンに来たのに!」
「例えばこれとか……」
俺は、二つの張り紙を指さした。
「……貴族街の裏庭の草むしり。あと、この緊急案件……ギルド裏の排水溝の詰まり解消。いいっすね、時給換算すると効率がいい」
(この程度なら、前世の便利屋時代に数え切れないほどこなしてきた。異世界の特殊な泥でも、俺のスキルなら瞬殺だ。楽勝すぎる)
満足げに頷く俺の横で、サフランはあまりの衝撃に、魂が抜けかけたような顔で固まっていた。
「あ、お客様。クエストの前に登録をお願いします」
受付嬢に声をかけられ、俺たちはカウンターへ向かう。
「クエストの受注には、まずパーティ登録が必要です。……ところで、あとお一人はいませんか?」
「えっ? いえ、俺とサフランの二人だけですけど」
俺がそう答えた瞬間、受付嬢の愛想笑いがぴたりと止まった。
「……あー、なるほど。すみません。ハルディンのギルドは安全上の理由で、三人以上のパーティでないと登録できない決まりなんです」
(……は?)
頭の中で、積み上げた段ボールが崩れ落ちるような音がした。
(俺の草むしりスローライフがぁぁっ!!……っていうか三人以上のパーティでやる草むしりって、どんな規模だよ!)
――
肩を落としてギルドを去ろうとした、その時だ。
「おいおい。誰かと思えば、ゴミ清掃員のユウトじゃねぇか」
声のする方を向くと、カイザーがいた。隣にはローズとリコリス。
あいつらも同じ街を目指してきたんだろう。
「とっくにのたれ死んだと思ってたぜ」
カイザーの目が、隣にいたサフランの姿を捉えた。サフランの肌は艶々で、鎧も剣も光り輝いている。
カイザーは鼻の下を伸ばし、サフランを上から下まで舐めるように見つめた。
「おい、そこの美人。そんな無能と組むのは人生の損失だぜ。どうせ二人じゃギルド登録もできないだろ? 俺様たちのパーティに来れば、もっといい思いをさせてやる」
あからさまに胸元を狙うその視線。俺の位置からでも彼の欲望が透けて見えた。
しかし、サフランはゴミを見るような目を向け、大袈裟に後退りした。
「お断り。っていうか、あなた達、ドブみたいな臭いがするから近づかないでくれる?」
「なっ!? 俺様をドブだと!?」
カイザーが叫ぶと、後ろにいたローズもリコリスも顔を真っ赤にして口々に罵声を浴びせてくる。
「クソガキのくせに生意気な!」
「カイザー様、こんな失礼な奴ら、放っておきましょ!」
「フンッ、そんな弱いやつと組む物好きなんて、この街には一人もいねーよ!」
彼は俺を睨みつけながら叫んだ。
「俺様はこの先のダンジョンでお宝を山ほど見つけてくる! ゴミ清掃員は、いつまでも貧乏くさく泥水を啜ってな!」
カイザーたちは捨て台詞を残して受付に向かった。去り際、カイザーがボソリと呟いた。
「あー痒い、なんだこの建物は瘴気が濃すぎるだろ」
俺は彼らの後ろ姿をチラリと見る。
カイザーの道具袋からはゴミが溢れ、ローズの鎧は砂で汚れ、リコリスのローブの裾には泥がついていた。
(あいつら、俺がいなくなってから一回も手入れしてないな……)
――
ギルドを出ると、外から悲鳴が聞こえてくる。
「火事だーーっ!!」
悲鳴の方角を見ると、黒煙が上がっていた。
サフランの目が見開く。
「助けにいかないと!」
「……サフラン、俺、家事はプロですけど、火事は専門外なんで、プロに任せるのがいいっすよ」
「何言ってるのバカ! 行くよっ!!」
(嘘だろ……!!)
俺は強引に首根っこを掴まれ、火災現場の建物へ引きずられていく。
現場に着くと、三階建ての立派な宿屋、その二階の窓からどす黒い煙が噴き出していた。
俺は思わず立ち尽くした。
燃え盛る宿屋の前で店主が絶望していた。
「誰か……! 旅人が一人、まだ中に残ってるんだ!!」