連歌とは、その名の通り、連なる歌の事。
一人が上《かみ》の句の部分を詠み、次に、託された者が下《しも》の句の部分を詠んで、歌を創りあげる。
下の句を与えられた者は、上の句を詠んだ者の意図を汲み取り、雅やかにまとめあげるか、はたまた、狙いをあえて外して、意外性を楽しむか。
細かな、決まり事は、多々あるが、気心知れた者が、じゃれあうにはうってつけの言葉遊びである。
ところが、長良の言うには、初めて見る、送り主だとか。
初回の歌が連歌とは、かなり押の強い姫君なのだろう。
普通、女人から意中の男へ文を送ることはない。女房を使って、男の方から送らせる様、仕向けるものだ。
もちろん、情を交わせば、恋寂しいやらと、屋敷へ通わせようとして、女人からも文を出す。
だが、この姫は、駆け引きなどお構い無しで、こちらの実力を試そうとしているかの大胆さすら感じさせた。
関わると、やっかいそうだと守近は思う。
「長良や。ほおっておきなさい。そのうち、焦れて、自ら下の句を送ってくるよ」
「守近様が、そうおっしゃるならば……」
長良の口は重い。何か納得していないようだ。
「では、下の句が届いたら、どうすれば良いのでしょう?連歌の下の句には、どう続けるべきなのでしょう……」
おやおやまあまあ。
下の句が出来上がった歌を、まだ、続けようとしている。それでは永遠に詠い続けることになる。
呆れる守近の視線など気にならないようで、長良は、真剣に考え込んでいる。
「あっ、お方様に、お尋ねしたら……。お方様も、歌がお上手だから……」
守近は、ギョッとする。
屋敷の者にばれた時、支障が無いよう、徳子《なりこ》の為ということにしているのに、当の徳子に喋ってどうする。
「長良!忘れたかい?これは、私とお前だけの秘密。徳子を傷つけない為にと、頼んだことだったろう?」
「ああー!そうでしたっ!も、申し訳ございませんっっ!」
しくじったとばかりに、長良は、自分の口を両手で押さえる。
「どうやら疲れが溜まっているようだな。少し、気分を変えた方が良い」
文机に置かれてある塗り箱から、守近は鋏《はさみ》を取り出した。
パチン、パチンと、小刻みに鋼《はさみ》の音が鳴り響く。
暫く後、「よぉし、こんなところか」と、守近の嬉しそうな声の前には、長良が散らかした紙が、細かく刻まれ、小山を作っていた。
「守近様!貴重な紙を刻んで!勿体無いのうございます」
長良が、非難の声を挙げる。
書き損じた和紙は、試し書きにしたり、長良なりに工夫を凝らして、幾度も使っていたのに。それを、あっさり、塵《ごみ》にしてしまうとは……。
「ではでは、これでも、長良は、勿体無いと言うのかい?」
それっと、守近のかけ声と共に、長良に向かって、紙が舞い飛んで来る。
「う、うわっ!」
避ける暇もなく、長良は、まともに、紙切れを受けた。
「そうれ、長良、紙吹雪だ!」
顔に、へばりつく、紙切れを払う長良のことなどお構いなしで、守近は、それそれと、投げつける。
「うわぁ!もお!」
「ははは、悔しいか?ならば、お前も、投げ返してご覧。さあ、雪合戦だ!」
長良は、足元に散らばる紙切れをすくい取ると、守近へ、投げつけた。
「おおっとっ!」
守近も、頭から紙切れを被っている。
へへっと、笑い、何処か得意そうな長良に、守近も負けていない。
「それ!」「よしっ!」「どうだ!」「うわっ!」
愉しげな声が響く──。
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