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腕を掴む遥の指先から、熱い体温が伝わってくる。
いつもなら「生意気」と笑って流せたはずなのに。
今の私は、喉の奥が震えて、何も言葉が出てこない。
「……遥、近すぎるよ」
「離さねーよ。離したら、お前またあいつの方行くんだろ」
遥の瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。
凌先輩の優しさは、いつも私を包んでくれる毛布のようだったけれど。遥の視線は、私の心の奥を無理やりこじ開けて、火を灯すような強さがある。
「私、まだ……先輩のこと、すぐには忘れられないよ」
「知ってる。だから、俺が忘れさせてやるって言ってんの」
遥の顔が、ゆっくりと近づいてくる。
夕暮れの公園。遊具の影が長く伸びて、世界に私たち二人しかいないような錯覚に陥る。私は逃げることもできず、ただ見つめ返すことしかできなかった。
「……何、してるんだよ。二人とも」
背後から響いたのは、硬く冷え切った凌先輩の声だった。
弾かれたように振り返ると、そこには息を切らした先輩が立っていた。
部活のジャージのまま、必死で追いかけてきたのがわかる。でも、その表情は今までの先輩からは想像もできないほど、険しく、鋭いものだった。
「……遥。その手を離しなさい」
「断る。……兄貴には、もう関係ないだろ。紗南は『妹』なんだからさ」
遥は私の腕を離すどころか、挑発するように私を自分の方へ引き寄せた。