テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌週、花梨は浜田夫人の実家の購入を検討している京極君彦を、現地に案内することになっていた。
京極は午前11時に来店する予定だ。
テレビにも出演する有名人が来店するということで、社内は朝から賑やかだった。
「もうすぐ来るんでしょう? 楽しみ~!」
「テレビで見る通り、実物もイケメンなのかなあ?」
「ちょっと私、メイク直してきていい?」
「あ! ずるい! 私も~!」
女子社員たちはそわそわしながら、京極の来店を心待ちにしていた。
そんな中、花梨が出かける準備をしていると、柊がそばに来て言った。
「一緒に行けなくて悪いな。代わりに小林さんにアシストを頼んだから」
「水島さん、よろしくね!」
「わぁ、心強いです。こちらこそよろしくお願いします」
「じゃあ小林さん、頼んだよ」
「お任せください!」
美桜は柊に返事をすると、花梨に向かって微笑んだ。
その時、入口付近にいた男性社員の声が響いた。
「いらっしゃいませ!」
花梨が振り向くと、そこには黒のスーツに黒のワイシャツを着た、全身黒づくめの京極君彦が立っていた。
(げっ! 全身黒づくめ……おまけに茶髪! まるで、ミュージシャンか何かみたいじゃないの!)
黒色は服だけでなく、靴もだった。エナメルの黒光りした靴は、つま先が突き刺さりそうなほど鋭く尖っている。
花梨は半ば呆れながら京極の顔を見た。すると、彼はサングラスを外し笑顔を見せた。
その顔は、皆の言う通りまずまずのイケメンだったが、花梨は少し違和感を覚えた。
(ネットの写真とイメージが違うわね。もしかして修正してる?)
そう思った花梨とは対照的に、同僚の女子社員たちはうっとりした表情で京極を見つめていた。
そんな彼女たちをよそに、花梨は京極に声をかける。
「京極様、いらっしゃいませ! お待ちしておりました」
「君が電話で話していた水島さん?」
「はい。初めまして、水島花梨と申します」
花梨はそう言って、京極に名刺を渡した。
「君の声、低くてとても魅力的だったから、きっと素敵な女性だろうなと思っていたけど、想像通りだな。今日はよろしくね!」
初対面なのに、いきなり浮ついた言葉をかける京極を見て、花梨は少し顔をこわばらせた。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。では、物件のご説明をさせていただきますので、どうぞこちらへ」
花梨は京極を応接コーナーに案内した。
京極がソファに腰を下ろすと、円城寺萌香がお茶を持ってきて、にこやかに声をかけた。
「京極様、いらっしゃいませ。お茶をどうぞ」
萌香は満面の笑みで、京極の前にお茶を置く。
「ありがとう」
京極がうわの空でそっけなく返事をしたので、萌香は少しムッとしているようだ。
しかし花梨は特に気にする様子もなく、これから見に行く物件の資料を広げ、京極に説明を始めた。
その時、花梨に同行する予定だった美桜が、沼田係長に呼ばれた。
「係長、何ですか?」
「京極様の物件案内、君じゃなくて円城寺さんに変更になったから」
「え? でも、課長は私に行けと……」
「それが急遽変更になったんだ。君の代わりに円城寺さんを水島さんのアシスタントにつけるから」
「そんな急に……」
美桜は突然の変更に動揺し、課長の柊を探したが、彼はすでに外出していた。
そこで、美桜は沼田係長に尋ねる。
「円城寺さんで大丈夫なんですか? 彼女は水島さんとはあまりうまくいっていないようですが……」
「仕方ないんだよ。彼女はずっと内勤だっただろう? それが不満で、とうとう父親に言ったらしい。そうしたら、さっき支店長から京極様の案内に同行させろって言われちゃってさ」
「なんですかそれ! 仕事はお遊びじゃないんですよ!」
「わかってる。でも、上からの命令だから従うしかないんだ……頼むよ」
「でも、お客様は著名な京極様ですよ。本当に彼女で大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。くれぐれも失礼のないようにって、さっきしつこく言っておいたから」
「……わかりました。でも、何かあっても知りませんからね」
「ははっ、小林さんは心配性だな。考えすぎだよ」
美桜は納得がいかない様子で係長に一礼し、その場を後にした。
「やれやれ……」
沼田は美桜の後ろ姿を見つめながら、大きくため息をついた。
京極への説明が終わると、花梨の元へ美桜が来て小声で言った。
「私の代わりに、円城寺さんがついていくことになったわ。上からの命令らしくて逆らえなくて……ごめんねー」
「え? そんな急に?」
「彼女のお守りは大変だと思うけど、頑張ってね」
「分かりました……」
花梨は急に不安になったが、目の前に京極がいるので弱音は吐けなかった。
美桜が立ち去ると、花梨は京極に向かって笑顔で言った。
「それでは、今から地下駐車場へご案内いたしますね」
「よろしくね!」
その時、円城寺萌香がにこやかな笑顔で二人の元へやってきた。
「京極様、私もご一緒させていただきますので、よろしくお願いします」
萌香は潤んだ瞳で大きくまばたきしながら、うっとりと京極を見つめる。しかし、彼は萌香と目も合わさずに、そっけなく言った。
「あ、そう。よろしくね!」
その反応に、萌香はムッとした表情を浮かべた。
「では、京極様、どうぞこちらへ」
花梨が先頭を歩き、その後に京極と萌香が続き、三人は地下駐車場へ向かった。
コメント
62件
この京極氏本物❓浜田様の大切な家を任せて大丈夫なのかな?花梨ちゃんなら変な人には売らないと思うけど それに花梨ちゃんに変な手出ししないと良いけど それから萌香も気になる‼️どんな騒ぎを起こしてくれるのかな?続きが気になる‼️
京極さん😎黒ずくめ、つま先刺さりそうな尖った靴とか🤣ホスト臭が😁かなり癖強そうな感じ🤣 花梨ちゃんにロックオン⁉️ 炎上児🔥同行の商談、波乱の予感ですね🙀 花梨ちゃん負けるなー‼️
これは波乱の予感😱この商談はうまくいくかな、、、京極氏もちょっと違う感じ。 花梨ちゃんは違和感がありそうだし、もしかしたら浜田夫人はこの人には売却しないかも🤔