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花梨が運転席に座り、京極が後部座席へ。そして、なぜか萌香も後部座席に座った。
(はあ? 馬鹿なの? なんで助手席に座らないのよ!)
花梨は呆れていたが、京極の前で文句を言うのは避けたかったので、仕方なくそのまま車をスタートさせた。
車が走り出すと、萌香が笑顔で京極に話しかける。
「改めて、私、円城寺萌香と申します」
萌香は京極に名刺を渡しながら挨拶をした。
「どうもー、よろしくねー!」
「 私、京極様が出演されるテレビ番組、いつも拝見しています!」
「それはありがとう。ところで、水島さん?」
「はい?」
ハンドルを握りながら花梨が返事をすると、京極が尋ねた。
「何分ぐらいで着くの?」
「10分もかからないと思います」
花梨は京極のスケジュールを気遣い、そう答えた。
華麗にスルーされた萌香はムッとしている。
その時、京極の携帯電話が鳴った。
「もしもし。ああ、うん、今向かってる。え? あ、そうなんだ。うん、わかった、また後で連絡する」
京極が電話を切ると、すぐにまた着信音が鳴った。
二本目の電話に出る京極をバックミラー越しに見ながら、花梨は思った。
(やっぱり相当忙しい方なのね…..)
そして今度は、京極の隣にいる萌香に視線を移すと、彼女はふてくされた様子で窓の外を見ていた。
(顧客に媚びを売るっていうのがそもそも間違いなのよ。本当に莉子そっくりだわ!)
前の会社で莉子が取引先に色目を使っていたことを思い出し、花梨は苦笑した。
間もなく、三人の乗った車は浜田夫人の実家へ到着した。
車を停めてエンジンを切った花梨は、京極に言った。
「こちらです。中をご案内いたしますので、外へどうぞ」
「ありがとう」
京極は車を降り、興味深げに屋敷を眺める。
門をくぐりアプローチを抜けて玄関まで行くと、花梨が鍵を開けスリッパを用意する。
家に入った京極は、廊下を進みながら部屋をひとつずつ見ていった。
大広間に着くと、花梨が説明した。
「庭に面したこちらは、和室の大広間が三部屋並んでおります。間の壁を取り除けば、かなり広い空間に生まれ変わります」
「なるほど。この部分をレストランに使えるのか」
「はい」
「となると、ガラッと一新したいなあ……」
京極の意外な一言に、花梨は驚いた。
「ガラッと……ですか?」
「うん。今考えているのは、外は古民家のまま、中は異空間。そんなイメージかな。いわゆるギャップ狙いってやつ? 『歴史』と『未来』の融合的な感じかな?」
京極の提案に、萌香が「まあ素敵!」と叫んだ。
しかし、花梨には到底素敵とは思えない。彼は、古民家の良さを生かさず、まったく別世界を作ろうとしているのだ。
心配になった花梨は、京極にもう一度確認した。
「外観は古民家のままで、中はどういったイメージをお持ちでしょうか?」
「未来都市みたいな感じかな?」
それを聞いた萌香が、ふたたび上ずった声で言う。
「京極様、さすがです! そんな発想、誰も思いつきませんわ!」
京極を褒めちぎる萌香を見て、花梨は心の中で毒づく。
(あーうざい、連れてこなきゃよかった)
そして花梨は、慎重に言葉を選びながら言った。
「この辺りは昔ながらの由緒ある高級住宅街なので、伝統を重んじる方が多く住んでいらっしゃいます。ですので、あまりに斬新なコンセプトは受け入れられるかどうか……」
この地域では、突飛な建物を建てようとすると、住民が結託して反対運動を起こすこともある。だから、トラブルはなるべく避けたかった。
すると、京極は花梨に向かってこう言った。
「頭の固い老害の多い地域は、何かと発展の芽を摘むんだよなー。俺は、そんな古臭い考えを根本からぶっ壊したい! だから、あえて挑戦したいんだ。それに、今の俺の実力なら、周りを納得させる力は十分にあると思うけどね」
自信満々に微笑む京極を見て、花梨は心の中で呟く。
(ずいぶん自信過剰な男ね。別れた卓也にそっくり! でも、口ばっかりの男は、大抵中身がスカスカだから困るのよ……)
花梨が京極について調べたところ、彼の祖父は大企業の会長、父親は官僚、親族には有名俳優や著名な芸術家が多い。いわゆる、彼の家系はサラブレッドなのだ。
だから、彼がここまで有名になったのは、彼の実力ではなくコネの影響によるものだと花梨は思っていた。
実際、彼がプロデュースするレストランの評判はあまり良くなかった。
その時、隣の萌香が甲高い声で言った。
「水島さん! 天才と言われている京極様に意見するなんて失礼ですよ! 京極様! 私はきっと素敵なレストランになると思います!」
萌香の褒め言葉に気分を良くした京極は、花梨に尋ねた。
「彼女はこう言ってるけど、どう思う?」
「いえ、私は決して否定したわけでは……大変失礼いたしました。不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」
「君はかなり気が強そうだなあ。でも、そういう女は嫌いじゃないよ」
「え?」
自分が助け舟を出したのに、花梨を褒める京極を見て、萌香がムッとしている。
すると、また京極は続けた。
「水島さん、この話をまとめたいなら、今夜、俺に付き合ってよ」
「え?」
花梨は耳を疑った。その隣で、萌香はさらにムッとしている。
「もし俺がここを買ったら、どんなレストランにしたらいいか、じっくり君の意見が聞きたいなーと思ってさ」
「ありがたいお話ですが、プライベートでお客様とお付き合いすることは禁止されておりますので」
「そんなつれないこと言わないで! ね、食事だけだからさ!」
(食事『だけ』ってなによ! 『だけ』って! 下心満載じゃない!)
花梨は心の中で呟くと、平静を装い静かに返事をした。
「申し訳ありませんが、ご期待には添えかねます」
「ちぇっ! カタいな~」
京極はがっかりした様子で言った。
花梨はなんとか話題を変えようと、彼を庭へ案内する。
そこには美しい日本庭園が広がっていた。
「こちらの庭園は、有名庭師が手掛けたものです。見事な日本庭園ですので、このまま活用されるのがよろしいかと」
庭を見回した京極は、顎に指を当てて考え込む。
「うーん、でもちょっと古臭いかな、レストランのコンセプトとも正反対だし。申し訳ないけど、庭はコンクリートで潰して、現代アートを配置しようと思ってる」
その言葉を聞いた花梨は、頭を抱える。
(そんなことしたら、浜田様が納得するわけないじゃない! 古いものを生かすどころか全部壊すことになるもの! この人はダメ! とにかくダメだわ!)
そう決断した花梨は、大きなため息をついた。
コメント
62件
京極といい,萌香といい実力より周りの家族のおかげで今の自分が在る事忘れちゃおしまいだわね。京極様残念ながら契約は不成立ねー!萌香お仕事出来ないから内勤再びね。
花梨ちゃんがため息をついた時は、柊さま 早く登場してくださーい!
これはダメだ😩花梨ちゃんはすぐにわかったよね〜!浜田夫人は拒否するでしょ💦 なんだか仕事ができない京極さんだわ😳