「兄貴……」
「お、おう」
弥生が何か言おうといしたので、俺はなんとか立ち上がろうとしたら、音星の耳をつんざくような声が聞こえた。
「火端さん!」
音星の方を見ると、音星はシロと共にこちらへ走っているところだった。が、あらぬ方向を指差している。
そう。上だ。
音星が上を指差している。
途端に、辺りの火のついた釜土の中から大きな悲鳴が聞こえてきた。そういえば、ここは叫喚地獄だった。大量の煮え湯が空の方から、周囲の釜土に降り注いでいきた。
焼け焦げる音と、嫌な臭いが充満し、俺の鼻が曲がる。
煮え湯が釜土から溢れて、そのまま地面にまで流れだした。
ちょうど、モウモウと湯気が昇る火のついた釜土と釜土の間で俺は倒れたいた。
「あ! あぶねえ兄貴!」
弥生の叫び声と共に、俺の頬が今度は蹴られた。手加減して軽く蹴られたようだったけど、俺の首は強引に右の方へ向く。
「痛ってーーー! う、うわ!! あ、熱い!!」
「大丈夫か?! う、うわ!!」
俺は首だけがちょうど、右を向いた状態になったけど、途端に頭の右後ろで、ジュッっと、焼ける音がしたかと思うと、恐ろしい高温が頭や髪の毛を襲いだした。
「うわーーーー!!」
「兄貴ー!!」
熱湯がジワリと後頭部を焼く!!
俺の体全体から脂汗が噴き出た!!
熱湯の恐ろしい熱さで、俺は悶絶した。
「弥生さん! せいの! で、いきますよ!!」
「おお! 兄貴引っ張るぞ! せいの!」
頭の真上からいつの間にか音星の声が聞こえ。それから弥生の振り絞った声と共に、俺の身体が釜土と釜土の間から思いっ切り引っ張りだされる。
俺は二人に引っ張られたお蔭で、煮え湯の高熱からなんとか逃げ出せた。
焦げた頭を抑えて、なんとか立ち上がろうと上半身を起こすと、さっきまでいた釜土と釜土の間には、空からの煮え湯に許容量を超えたたくさんの釜土から、煮え湯が地面にまで溢れだしているところだった。
ジュウ。ジュウ。ジュウ。と、真っ赤な地面が焼けて、大量の湯気が発生している。
音星もシロも半透明な弥生も、俺も倒れそうなくらいの大汗を掻いていた。
こりゃ、正真正銘の本物の地獄だ!
早く! 妹を連れてみんなで逃げ出さないと!!
けれども、徐々に頭が冷静さを取り戻すと、あることに気がついた。
妹の弥生はもうすでに他界しているんだった!
ええと、ここは八大地獄なんだし。
蘇らせるんじゃ、変だよな?
……。
うーん……。
そうだ!!
弥生を天国へと行かせてやるのはどうだろうか?
そのためには……。
ええと……。
「火端さん。あの、後ろの頭や髪の毛は大丈夫ですか? 酷い火傷だったですけど……」
「え? ああ……大丈夫だ」
目を瞑っていて、見るからに汗びっしょりの音星が、俺の傍へ寄ってきて心配してくれている。音星は肩に背負っている布袋から一枚のピンク色のタオルを取り出した。それを俺の後ろ頭にあてがおうとした。
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