テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
185
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
銀杏並木を歩き続けていくと、青山通りにぶつかる。
圭が時計を覗くと、そろそろ昼時に近付いていた。
神宮外苑周辺を、のんびり歩きながら散策したとはいえ、少し休憩もしたいと考える。
「美花さん、腹減ってないか?」
「う〜ん…………ちょっとだけ……空いたかも……」
「なら、青山通りで探してみよう」
圭が白磁の手を取り、通り沿いにあるカフェやレストランを覗いてみるが、どの店も満席だった。
「やっぱり時間帯を考えると、どこも満席だな。美花さん、まだ大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「なら、もう一度、銀杏並木を通って、信濃町駅方面に向かってみようか」
青山通りを背にした二人は、先ほどとは反対側の並木道を、絵画館の方へ戻っていく。
「あ! おにーさん、あそこのベンチに座ってもいい?」
「もちろん、構わないが……」
美花に引っ張られながら、二人は空いているベンチに腰を下ろすと、彼女が再びバッグからスマートフォンとボイスレコーダーを取り出した。
黄色に染まった木々と、石畳の上や植え込みの緑の上に落葉した銀杏の葉が、鮮やかなコントラストを描いている。
多くの人々が、思い思いの時間を楽しんでいる様子を、美花が穏やかな表情で眺めていた。
「外苑の銀杏並木は…………インスピレーションの宝庫だね……!」
そんな彼女の喜びに満ちた横顔を、ただじっと眼差しを送る圭。
やがて美花は、ボイスレコーダーのスイッチを入れると、マイクのように持ちながら、小声で歌い始めた。
♪絵画館〜銀杏並木の下で Compose@2004♪
(音が降ってきたのか……。それにしても、彼女、よく見ると、かなり綺麗な顔立ちをしている……)
圭に見つめられているのにも気付かず、美花は降り注ぐ音の雨を、全身で受け止めながら吸収させているようだった。
(彼女が歌う表情も…………美しいんだよな……)
圭は、上着のポケットからスマートフォンを引っ張り出すと、彼女の邪魔にならないように、こっそりとレンズを向ける。
──音を纏った彼女の表情も、俺だけのものにしたい。
圭は祈るように、カメラのシャッターを丁寧に切った。