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芙月みひろ
#裏切り
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カップを両手で包んだまま、
景兎先輩の横顔をそっと見る。
久しぶりに会えたせいか、
胸の奥が少しだけ落ち着かない。
でも嫌な感じじゃない。
先輩がゆっくりと息を吸う。
その仕草だけで、
なんとなく“これから何か話すんだな”って分かる。
「……続き、聞いていただけますか。」
思っていたより静かな声だった。
でも、どこか緊張しているようにも見える。
カップを持つ手が、
ふっと止まる。
「えっと……はい。
先輩のお話、聞きたいです。」
自分でも少しだけ声が明るい気がした。
久しぶりにこうして向かい合っているのが、
なんだか嬉しかった。
先輩が少しだけ姿勢を変える。
距離は同じなのに、
近くなったように感じる。
「……あの時、
話せなかったことがあって。」
その言葉に、
胸が“どきっ”とする。
(あの時……?)
カップの取っ手を軽く持ち直す。
顔を上げる。
「えっと……
“あの時”って、いつのことですか?」
先輩の目がわずかに揺れる。
その揺れが、
なんだか可愛いと思ってしまう。
「……DMが途切れがちになっていた頃のことです。」
ああ、と胸の中で小さく声が出る。
あの頃のことか、とすぐに分かった。
「そうだったんですね。
はい、大丈夫です。聞きます。」
言ったあと、
胸の奥がほんの少しだけしぼむ。
(……あ、そっちの話なんだ。)
期待していたわけじゃない。
でも、久しぶりに会えたこのタイミングで
“あの時”と言われたら、
つい別のことを想像してしまっていた自分に気づく。
カップの縁を親指でそっと押さえ直す。
表情には出さない。
けれど、心の中で小さく息が抜けた。
そのわずかな変化に気づいたのか、
先輩が一瞬だけ目を瞬かせる。
「……あ、いえ。
そんなに重い話ではないんです。」
慌てたように言葉を足す声が、
少しだけ上ずっていた。
その様子がなんだか可笑しくて、
肩の力がふっと抜ける。
「大丈夫ですよ。
先輩が話したいことなら、ちゃんと聞きます。」
そう言うと、
先輩の表情がほんの少し柔らかくなる。
その変化が、
さっきよりも近く感じた。