テラーノベル
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「では青澄さん」
「まず、僕がこの世界を案内します」
「はい……」
「あ、もし敬語が嫌ならば外してもらって大丈夫ですよ!」
「あっ、じゃあ……わかった」
「ふふっ、スムーズだ」
「ん?何か言った?」
「いえ、何も!」
「では参りましょう」
そう言うと彼は、早速迷いなく一歩一歩を踏み進めていく。
その足取りは軽く、でも頼もしかった。
私は言われるがまま付いていく。
その途中途中で、素晴らしい自然の景色が目に飛び込んでくる。
どうやらこの世界では「冬」以外の季節も全て混合しているようで、
先程まで雪景色が広がっていたのに、少し歩けば夏の暑さが蘇ってくるという
何とも面白い世界だった。
私が我を忘れてそれらを眺めていると、
夏輝が足を止めた。
だが私はそれに気付かず、彼の背中に 派手にぶつかってしまった。
「わわ、ごっ、ごめん!!」
「その……悪気は無いの!」
咄嗟にそう謝ったが、彼からの返事はない。
もしかして、怒っているのだろうか?
そう思い、恐る恐る顔を覗き込んでみる。
そこにあったのは、眉が引きつった彼の怒り顔ではなく、
きょとんと首を傾げ 不思議そうにしているただの夏輝だった。
いや、“ただの”ではない。
彼の美しい姿、形、そして顔が、とんでもない至近距離にあるのだ。
振り向きざまに 思わず体が触れそうになるその展開は、まるでドラマのようだった。
そして私がそのドラマの主人公。
醜い私でさえ、今この瞬間だけは キラキラと輝いて見えた。
有り得ない。信じられない。
普段日常でこんなことを想っていた私の夢が
ついに叶ってしまったのだ。
ドキドキと、鼓動は速くなっていくばかり。
心臓が保たない。
私はあたふたしつつ、何とか冷静を保とうとする。
一歩後退りし、この現場を回避しよう。
そう思ったのだが、思い通りにはいかなかった。
予想とは裏腹に、私が後ずさりした途端 彼が一歩詰め寄ってきたのだ。
先程から更に距離は近くなり、私が追い詰められているような構図になる。
「ふふっ、青澄さん、顔真っ赤ですよ」
にこやかに微笑みながらそう言った彼に、私は更にドキドキしてしまう。
何も言えない。動けない。
「あっ、また赤くなった」
彼がまた一歩近づく。
私が下がり、彼が詰め寄る。これの繰り返し。
ついに頭が狂い始めた時
この心臓の高鳴りは終わりを告げた。
彼がやっと後退ってくれたのだ。
そして体の向きを変え、クスッと笑ってから 前進し始めた。
「(んもうっ、何だったの…?)」
「(気狂っちゃうよ…っ)」
未だ、地に足がつかない感覚。
本当にこれが現実なのだろうか?
私は熱くなった頬を覆うようにして 手で冷ましてから、彼と少し間を空けて歩き出した。
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