純が会計を済ませ、アジアンテイストのカフェを出た二人は、国道を渡り、海岸に足を運んだ。
冬の稲村ヶ崎の海岸は、ほとんど人がいない。
周りを見ると、どうやら純と恵菜の二人だけのようだ。
太陽の真下には、海の上で壮麗に輝く道が水平線に向かって延び、穏やかな波の音と潮風の香りが二人を撫でていく。
(海に浮かぶ光の道の先には……何があるんだろうな……)
純は、キラキラした道の最果てにあるものが、恵菜と恋人同士になっている事を願ってやまない。
富士山と江ノ島もクッキリと見え、恵菜は白日光(はくじつこう)が眩しいのか、手を翳しながら海を見つめていた。
フード付きの白いショートコートに、インディゴブルーのワイドデニムを合わせた彼女は、湘南の青い景色に映えている。
まるで海岸一帯を貸し切りにしている状況に、彼の鼓動は高鳴り、隣を歩いている恵菜に、心臓の脈打つ音が聞こえてしまうのではないか、と気が気でない。
「……冬の海は、静かでいいよな」
「天気もいいし、空気が澄んでいるせいか、富士山も江ノ島もハッキリ見えて、何か嬉しいです」
「少し…………歩こうか」
純が歩き始めると、恵菜は彼の斜め後ろに続き、七里ヶ浜方面へ向かった。
会話も交わさず、波の音だけが小さく響いている中を、二人は歩き、時々立ち止まって海を眺め、また歩き出す。
不意に純が立ち止まり、後ろを振り返った。
「あ…………」
「どうかしました?」
「恵菜さん、後ろ…………見てみ?」
純は恵菜を促すように肩に触れる。
砂浜には、純と恵菜だけの足跡が延々と続き、彼には、彼女と出会ってから今までの軌跡のように感じていた。
「谷岡さんと私だけの……足跡しかないですね」
「ああ、そうだな」
純は気恥ずかしくなり、緩くパーマの掛かった髪を大雑把に掻き上げた。
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