そして初日の会議は無事に終わった。
二時間はあっという間だった。
五人は挨拶を交わしてから副社長室を出る。
優斗は同じ階の役員室へ戻って行った。
残りの四人はエレベーターへ向かう。
課長の有田と水森は一度自分の部署へ戻ると言い、エレベーターを途中で降りた。
エレベーターに残った花純と美咲は、同年代の女同士で会話を始める。
「藤野さんはパースも描けるんですね」
「はい、以前の職場では一通りやっていましたので」
「それは凄いわ。うちの部署、今まではデザインから造園まで全部外へ丸投げだったでしょう? だからみんな実務には自信が
ないのよ。藤野さんがいてくれて凄く助かるー」
「お役に立てるかどうかはわかりませんが」
花純が恐縮して言うと、
「ううん、さっきの会議で藤野さんの実力が見えた気がしたわ。植物やガーデンの知識に超詳しいんですもの。これから頼りに
しているのでよろしくね」
美咲はそう言って微笑む。
「ところで、藤野さんっておいくつですか?」
「あ、25です」
「うわぁ、私と同じ歳です。なんか嬉しい! ねぇ、連絡先交換しない?」
「あ、はい……」
二人はスマホを出して連絡先を交換した。
そこで花純はずっと不思議に思っていた事を美咲に聞く。
「でもなぜ出来て間もない空中庭園を、急に改良しようと思われたのでしょうか?」
「それはね、珍しい事に副社長の鶴の一声で決まったのよ」
「鶴の一声?」
「うん、そう。副社長はあまり現場に口を出す人じゃないんだけれど、今回は珍しくね…」
「そうなんですか…」
すると美咲が続けた。
「今の庭園ってテレビでも結構話題になったでしょう? それをいきなり改良するって言うから現場はびっくりよ。でもそれに
は理由もあるの」
「理由?」
「うん。今の庭園をデザインしたのは超有名ガーデンデザイナーなんだけれど、実はそのデザイナーは名ばかりで、植物に対す
る基礎知識がかなり欠落していたみたいなのよ。で、あのままの状態で樹木をあそこに植えておくと、いずれ植物達は駄目にな
ってしまうからって…副社長ってそんなに植物に詳しかったっけ? って皆不思議に思ったわ」
「そうだったんですか……」
花純はその時思った。
まさか自分が言った事を壮馬が真摯に受けとめ、すぐに実行に移したのだろうか?
花純は驚きを隠せなかった。
現段階では、庭園の木々達に不具合はない。
だからしばらく放っておいても大丈夫なはずなのだが、その行動力の早さに驚いていた。
(なぜ急に?)
花純は不思議に思った。
その時エレベーターが一階に到着したので、二人はエレベーターを降りるとビルの外へ出た。
美咲とは利用している路線が違う事が分かり、二人はそこで別れる。
「じゃあまた明日ね」
「はい。お疲れ様でした」
そして二人はそれぞれの駅へ向かって歩き始めた。
(ふーっ、終わったーっ!)
花純は久しぶりに清々しい気持ちでいた。
この時間に帰ると、まるで本社で仕事をしていた時のようだ。
(やっぱり一から作り上げるっていうのはやりがいがあるわ)
花純は率直にそう感じる。
(よしっ、明日も頑張るぞ)
心の中でそう呟くと、花純は軽やかな足取りで駅へ向かった。
五人が副社長室を去った後、壮馬は窓辺に佇んで夜景を見つめていた。
今日のミーティングで花純が予想通りの働きをしたので壮馬は満足していた。
(やはり俺が見抜いた通りだったな……)
壮馬はフッと笑みを漏らす。
それにしても、今日の花純はいつもと雰囲気が違っていた。
花屋ではいつもジーンズにエプロンというカジュアルなスタイルだったが、
今日はここでの仕事があるので服装に気を使っていたようだ。
きっとあれが花純の本来の姿なのだろうと壮馬は思う。
(意外と華奢だったな……)
そこで壮馬はハッと気付く。
先程から花純の事ばかりを考えている事に。
花純の事を考えるだけで胸が熱くなるのはなぜなのか?
(これが恋っていうやつか……?)
まさか40間近になって、自分が14も年下の女に心を奪われるとは思ってもいなかった。
こんな気持ちは初めてだった。
彼女を見ていると、なぜか守ってやりたい…そんな衝動に駆られる。
壮馬は思わずフッと笑みを浮かべると、深呼吸をしてから暗い夜空を仰ぎ見た。
コメント
4件
壮馬さんったら〜恋に年齢は関係ないですよ〜完全に花純ちゃんに恋❤️しましたね(#^.^#)
40間近になっても恋する時はするんですよ,壮馬さん☝️
壮馬さん、頭の中は 花純ちゃんでい~っぱい♥️♥️♥️ 恋に落ちちゃいましたね....🤭💖 庭園プロジェクトの進行も勿論ですが、壮馬さんが 花純ちゃんに 今後どうアプローチしていくのか....💖🤭ドキドキ ワクワク♡