新年の仕事開始まで、朔也と美宇はいつも一緒にいた。
美宇はほとんどの時間を朔也の家で過ごした。
一緒にいるうちに、美宇は朔也のことがさらに好きになっていった。
彼の新しい一面を知るのが楽しかった。
朔也は思った以上にスキンシップを好み、ときには美宇に甘えることもあった。
一方で、朔也は美宇への愛情表現を欠かさず、ベッドの上では力強く彼女を愛した。
そのたびに美宇の気持ちは深まっていく。
本当に相性の良い男女の間には不満など一切ないことを、美宇は朔也との交際で初めて知った。
もちろん、朔也も同じ思いだった。
あまりにも愛おしすぎて、美宇のそばを片時も離れたくなかった。
彼女がそばにいるだけで、幸せだった。
美宇が家で過ごす間、朔也はずっと美宇にまとわりついていた。
彼女が料理をしているときでさえ、朔也はそばを離れなかった。
工房の仕事が始まる前の日、美宇は一度アパートへ帰ることになった。
着替えや必要な物を取りに行ったとき以来、アパートには一度も帰っていない。
だから、明日から始まる初仕事の前に、家での用事を済ませておきたかった。
美宇が近所だから歩いて帰れると言っても、朔也は送ると譲らない。
朔也のあまりの過保護ぶりに可笑しくなりながらも、美宇は愛されている喜びを全身で感じていた。
(こんなに想われるのは初めてかも……。束縛は嫌だと思っていたけど、案外心地いいみたい)
そう思えるほど、今の美宇は幸せでいっぱいだった。
翌日、いよいよ新年初の陶芸教室が始まった。
生徒たちが工房に集まると、まずは新年の挨拶を交わし、お茶会で談笑した。
それぞれがお土産を持ち寄り、美宇も東京土産の『東京バナナン』を差し出す。
朔也が淹れたスペシャルブレンドのコーヒーを味わいながら、生徒たちは今年の抱負を語り合った。
その中で、朔也と美宇の関係が以前とは少し違っていることに、生徒たちはすぐ気づいた。
「あれ~? 青野先生と七瀬先生、なんだかいい雰囲気!」
「私もそう思ってた! 絶対何かあったでしょう?」
「ほんと、去年までとは全然違うじゃない。 隠しても無駄よ、先生、白状しなさい!」
「私も聞きたい! 二人はもしかして……?」
生徒たちの言葉に、朔也は困ったように頭をかいた。
そして、観念したように言った。
「実は、僕と七瀬先生は付き合うことになりました」
一瞬、場は静まり返ったが、すぐに歓声が響いた。
「「「「キャーッ!」」」」
「やっぱり!」
「私の勘は当たったわ!」
「すごくいい! 本当にお似合い!」
「そうなるといいなーって思ってたから、嬉しい!」
生徒たちははしゃぎながら口々に言った。
朔也の隣にいた美宇は、恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「青野先生、こんな若くて可愛い彼女ができたんだから、もっと頑張らないとね!」
「はい。頑張ります」
「あ~、やっと青野先生も『ぼっち』卒業ね」
「ほんと良かった! これで、孤独死は免れたわ」
その言葉に、全員が声を上げて笑った。
「孤独死はひどいなー」
「あーら、だってそうじゃない。若いから大丈夫って思ってても、ある日突然倒れることだってあるのよ。しかも独身の中年男性の孤独死は増えてるみたい。だから本当に良かったわ~」
「そうそう。もし青野先生がこのままずっと独身だったら、私たちが交代で様子を見に来なくちゃね~なんて話してたんだから! でも、七瀬先生がそばにいてくれるなら安心だわ」
「そうね。食事の面も安心だし」
「ふふっ、七瀬先生、この天才陶芸家の健康管理、しっかりお願いしますね~」
そう頼まれた美宇はクスクスと笑いながら「はい」と答えた。
そこで、朔也は少しふてくされたように言った。
「ひどいなあ、僕ってそんな風に見られてたんだ」
「そうですよ。こんな北の果てで中年男が一人で過ごすなんて、最大のリスクですから!」
「中年かあ……グサッとくるなあ」
「あら先生、40歳が青年なわけないでしょう?」
その言葉に、全員が声を上げて笑った。
「とにかく、二人はお似合いだと思っていたから、本当に良かった~」
「うんうん、私なんか、息子の結婚が決まったときよりも嬉しいわ」
「本当ね、こっちまで幸せな気分になっちゃう」
「ところで、結婚式はどこでするのかしら? やっぱり著名陶芸家の大先生だと札幌辺り?」
「やだ、細田さん、まだプロポーズ前よ!」
「あっ、そうだった!」
「あんまり先走っちゃだめ! 静かに温かく見守らないと」
「そうそう、姑気分で口を出すのが一番ダメね」
「温かく見守るのはできるけど、静かにっていうのは無理かも」
「あはは、たしかに」
暴走する生徒たちの会話に、朔也が慌てて口を挟んだ。
「頼むから、勝手にいろいろ決めないでくださいね」
「「「「「あら、ごめんなさーーーい」」」」
再び工房は笑いに包まれた。
困った様子の朔也の隣で、美宇は幸せそうにクスクスと笑っていた。
「はいはい、その辺でおしゃべりは終わり! そろそろ新春初の作陶に取りかかりましょうか」
「「「「「はーい」」」」
こうして、楽しい雰囲気の中で新年の陶芸教室が始まった。
コメント
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陶芸教室の皆さん優しい 朔也様の事本当に心配していたのが感じられる会話ですね こんな教室なら私も参加したい! この雰囲気を作れる朔也様はやはり優しく良い人なんですね🩷
生徒さん達もホッとしましたね〜🤭 これからはもっと笑い声もあって楽しいお教室になりそう❣️ 朔也さん、そんなに離れたくない?😆 ずーっとくっついていたいんだね😆😆😆💓
陶芸教室のおば様達、朔也さんへの愛のあるイジり最高🤣お姑さんがいっぱい(*´艸`) 皆さんに祝福されて幸せだね🫶