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第四以上の奴隷魔法を外に漏らしたのは、オレの両親だった。
なぜ両親が第四以上を知っていたかと言えば、オレが奴隷魔法の実験台に使っていたからで。
なぜ親が情報を漏らしたかと言えば、酒が欲しかったからだ。
酒欲しさにこの世が地獄に変える情報を売ったわけだ。とんでもないクズと言えよう。
なんだ、先の人物像と一致しない?
善良な人間だったのではないのか、だと?
ああ、そうとも。
オレの両親は人を騙そうともしない、善良な人間――だった。
人間とは愚かなものだ。
どんな善良な人間も痛みを与え続ければいつかは折れる。
稀に高潔さをもって自害する人間もいるが、それは心が屈服する前に死へ逃げたにすぎない。
必ず屈服するのなら、問題はその屈服しかた。
折れ方こそが重要だろう。
オレの両親は最初こそ道徳を説き、奴隷魔法を禁じようとした。
だが、商売の邪魔だと言って拷問呪文をかけ続けると、すぐオレの顔色をうかがうようになった。
あの、媚びへつらうような顔を思い出すと吐き気がする。
奴隷魔法とはよく言ったものだ。
使い続けるうちに、身も心も浅ましい奴隷となっていく。
リズには伏せておくが。
言う事を聞かない奴にパワハラをするのは、生前父親から教わったことだった。
パワハラはいい。
どんな世界でも通用する、普遍性がある。
とりあえず怒鳴り散らし、激痛を与えておけば、人は言うことを聞くのだ。
この奴隷魔法があれば、オレはどんな人間だって支配できるだろう。
そう思っていた。
実直だった両親が酒に溺れ、時折癇癪を起こすのを眺めながら、オレは奴隷魔法を広め、金を稼いだ。
正しく生きたいという願う者を捻じ曲げると、このような壊れ方をするのか。と、関心しながら。
生前、会社を経営していた頃は心が壊れた社員の行く末など気にかけたこともなかったが、もしかするとこの両親の姿はオレがパワハラで壊した社員達の末路なのかもしれない。
だからと言って、気にかけるつもりもなかった。
今思えば、詰めが甘かったのだろう。
何もできない飲んだくれのクズと化した両親が一時の快楽の為に情報を売るとは、考えもしなかった。
そして、問題はオレの両親だけでは終わらなかった。
帝都中の治安が悪化し、クズが増えたのだ。
考えてみれば当然のことだ。
暴力という単純な解決方法を手にしたバカが何をするか、拷問呪文を唱えられた奴隷がどのように壊れていくか、そんなものは見ていればわかる。
オレの両親の堕落は帝都の末路そのものだ。
既に広めた第一奴隷魔法でこれだ。
とんでもないものを広めてしまった。
第四以上が広まれば、帝都に地獄が生まれるだろう。
地獄で商売するなど、まっぴらだった。
「吐け! 誰に売ったか言え! まだ痛みが足りないのか!?」
6歳のオレに怒鳴られながら、両親が頭を下げる。
今は泣きながら詫びているが、どうせまたコロっと忘れて、街で酒をくすねるだろう。
情報を売ったことだって、酔った勢いでこぼさなければ、ずっと黙っているつもりだったに違いない。
そう思うと腹が立った。
何度目かの拷問呪文を唱えた時、父親が死んだ。
初めての経験だが、特に何の感慨も浮かばなかった。
そもそも、帝都を破滅させかねない情報を売る時点で、生かしておくわけにはいかない。
次に父親をさすりながら、オレを詰る母親を拷問した。
この悪魔めと罵られたが、秘密をバラし、帝都を地獄に変えたのはお前だ。
しばらく拷問を続けると、母親はようやく吐いた。
情報を得たのは奴隷商人バルジウスだ。
後になってわかったことだが。
バルジウスは聖堂教会枢機卿ヤーコンに、ヤーコンは反政府組織ルナックスに情報を売っていた。
放置すれば、情報はどこまでも広がり、手が付けられなくなる。
あらゆる悪徳がこの世界を覆い隠し、暴動が起きるだろう。
そんなことになれば、もはや商売などしている場合ではない。
オレは第二奴隷魔法で、母親に命令を下す。
「自身を拷問しろ。死んでもなお続けろ」
自分自身に拷問呪文をかけた母親が、激痛に叫んだ。
呼吸困難に陥りながら、拷問呪文を唱え、激痛に脳を焼かれている。
奴隷を奴隷自身の奴隷とし、自らに拷問呪文をかけさせる。
意外と気づかれないが、ここに気づけばこのように自動自殺装置を作れる。
発想力さえあれば、拷問する手間も省けるのだ。
これなら発狂した母親が父親を殺し、自害したように見えるだろう。
オレのアリバイも成立する。
かわいそうとは思わない。
理不尽は押しつける物であって、オレが押しつけられるものではないからだ。
オレはバルジウスを止める為に裏市へと走る。
大丈夫だ。
まだ止められる。間に合うはずだ。
そんなことを呟きながら。