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自宅マンションに戻ってきた圭もまた、驚く事ばかりの一日だった。
ここ一ヶ月、居心地がいい、という理由で通うようになった『家庭料理 ゆき』の娘、美花が、実はHanaだった事を始め、彼女が弟の恋人、音羽奏と小中学校時代の同級生だった事も判明。
「人って、どこでどう繋がってるか、本当に分からないものだな……」
圭の中に、打ち合わせ最後に見せてくれた、笑顔を浮かべて両手でハートマークを作っている美花の姿が過ぎっていく。
あの時の彼女の笑顔を見た圭は、不覚、といったら語弊があるが、自身の鼓動を弾ませながらも素敵な笑顔だ、と感じていた。
ただの軽薄なギャルっぽい女、と『家庭料理 ゆき』で偶然再会した時は、彼女に対して悪い印象しかない圭だったが、今は変わりつつあった。
彼女はきっと、何事にもまっすぐで一生懸命、純粋な女性なのだろう。
美花の凜とした思いが、心が汚れ切っていると自覚している彼にとって、眩しく感じていた。
(きっと彼女の性格は、母親である女店主に似たのかもしれないな……)
圭は、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを開けると、ひと口含み、パソコンを立ち上げる。
美花、もといHanaの動画投稿サイトのトップページを開き、楽曲の視聴を始めた。
「それにしても、よくこんなにメロディが思い浮かぶよなぁ……」
圭は、数々の楽曲を聴きながら、喉を唸らせる。
日常に溢れている音からインスピレーションを受けるのだろうか? それとも、ふとした瞬間に、メロディが降りてくるのだろうか?
今でもDTMが異世界だと思っている圭は、腕を組みながら首を傾げる。
パソコンのスピーカーから流れているのは、弾けるようなメロディのポップスで、ドラムの刻むリズムが心地いい。
「あっ…………フレーズが思い浮かぶ時の事も、インタビューで聞けば良かったな。失敗した……」
彼は、パソコンの横に置いてあった、メモ用紙とボールペンを手元に引き寄せると、小汚い文字で走り書きする。
「まぁ彼女とは、また仕事で接する機会があるだろうし、その時に聞けばいいか」
数曲視聴したところで、圭はパソコンを閉じると、残りのビールを一気に飲み干す。
(さすがに今日は…………気疲れしてるな……)
彼は、寝室に向かうとベッドに入り、泥のように眠った。