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翌朝、葉月は少し遅めに起きた。

土日は朝八時半に朝食と決めているので、いつもよりも少し朝寝坊ができる。




(うっ、久しぶりにワインを飲み過ぎて頭が痛い……)




葉月はノロノロと転がるようにベッドから下りると、ジーンズとストライプのカットソーに着替えた。



一階に降りると、顔を洗ってから長い髪をアップにする。

そしてリビングへ行くと、葉月よりも早く起きていた航太郎が、テレビを見ようとリモコンを手にしていた。

昨夜葉月が帰宅した時、航太郎は友人とオンラインゲーム中だったので、あまり話をしていない。




「航ちゃん、おはよう」

「おはよう。昨日はどうだった? イケオジいた?」




航太郎はリモコンを持ったまま、キッチンカウンターまで来た。

合コンで父親候補がいたかどうかが気になるらしい。




「うーん、ペケかな?」

「なんだよー、期待してたのになー」




航太郎はがっかりしながらソファーへ戻り、テレビをつけた。

そんな息子に葉月が言った。




「飲み会自体は楽しかったけどさぁ、なんかお友達って感じだよねー。大体、おじさんおばさんの合コンなんて無理があるのよ。若い頃とは違うんだし。だからイケオジのお父さんは期待しないで」

「ちぇっ、つまんないのー」




航太郎は明らかに残念そうな表情でテレビをつけた。そして録画していた番組を再生する。


葉月はフレンチトーストの卵をかき混ぜながら、息子に聞いた。




「何見てるの?」

「この前録画した『桐生賢太郎の鉄道写真講座』」

「ああ、いつも見てるやつね……ん? えっ? ちょっと航ちゃん! その人『ケンタロウ』って言うの?」




葉月はギョッとして叫んだ。

驚いている母親の声に、航太郎が振り返る。




「どうしたの?」




葉月は慌ててキッチンを出ると、ソファーまで行き息子の隣に座った。




「その『キリュウケンタロウ』っていう人の顔は出てくる?」

「うん、出るよ。だっていつも本人が撮りながらレクチャーしてくれるんだもん。あ、ほら、出るよ」




その時、テレビの画面を見た葉月が、



「あっ!」



と声を出す。

画面には、カメラを構える賢太郎のアップが映っていた。

そして次に、山と山の間に掛かる橋梁へレンズを向ける賢太郎の身体全体が映し出される。



母親の驚いた声を聞き、航太郎が振り返った。



「どうしたの?」

「こ、この人、昨日行ったお店にいたわ」

「えーーーっ、マジでっ? でもなんで辻堂にいるの? この人たしか東京に住んでるんだよ?」

「なんか神奈川県内で写真を撮ってるとか言ってたよ。写真集用に?」

「母ちゃん喋ったの?」

「ううん、喋ってはいないわ。たまたま隣のテーブルだったから会話が聞こえてきただけ」

「うわーっ、それ昨日知りたかったな―。知ってたら、俺店まで行ってサイン貰ったのになー」

「もしかして、あんたが持ってる写真集ってこの人の?」

「そうだよ。だって賢太郎さんは憧れの人だし、俺、ムッチャ尊敬してるから!」

「そうだったんだ……」



そこで葉月はハッとする。



(え? ち、ちょっと待って! 『ケンタロウ』って名前……もしかして『賢い太郎』の『賢太郎』? ってことは、大崎さんが事故調査に行ったカメラマンの人もこの人ってこと?)



葉月は、『ケンタロウ』という名前になぜ聞き覚えがあったのか、今になってようやくわかった。



「で? で? 神奈川のどの路線を撮るって言ってた?」

「そこまでは言ってなかった」

「そっかー。でもさ、もし江ノ電を撮りに来たら、会えるかもしれないよねっ? ねっ?」



航太郎は嬉しそうにソファーの上でボンボンと跳ねている。



「どうかなー?」

「俺、毎日線路沿いをチェックしなくっちゃ」



興奮している息子を見て、葉月は頬を緩めながらキッチンへ戻った。

その時、カウンターの上にある葉月の携帯が鳴った。メッセージが来たようだ。




「誰だろう?」




葉月がメッセージを見ると、元夫の啓介からだった。

啓介は、航太郎との面会を希望する時に、いつもこうして葉月にメッセージを送ってくる。

メッセージを読むと、やはり航太郎への食事の誘いだった。




「航ちゃん、お父さんが食事に行こうって言ってるよ。どうする? 前回は断ったから、今度は行ってあげたら?」




すると、航太郎は録画を一時停止てから言った。




「ううん、忙しいから断っといて」

「え? でもお父さんがっかりするよ?」

「がっかりするわけないじゃん。きっとホッとしてるよ」

「そんな事ないと思うけどなー。だって、この前断った時、相当がっかりしてたし」

「大丈夫だよ。向こうには新しい奥さんがいるんだから、淋しくなんかないでしょ?」




本来なら『お父さんには新しい奥さんが』と言うところを、『向こうには』と言い替えた息子の変化に、葉月はすぐに気付いた。

それは、明らかに父親と距離を置こうとしているようにも思える。




(嫌がっているのを無理に行かせて、こじれても困るしなぁ……)




そう思った葉月は、息子にこう告げた。




「わかった。じゃあ断っとくから」

「うん、よろしくー」




葉月はカウンター越しに息子をチラリと見る。

だいぶ逞しくなってきた息子の背中には、どことなく淋しさのようなものが漂っているように感じられた。

恋人の条件 ~恋に懲りたシングルマザーですがなぜか急にモテ期がきました~

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コメント

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ユーザー

繋がってきましたね あとはどこで出会うか? 航太郎君が先か 葉月ちゃんが先か 楽しみです 航太郎君が家族を裏切って自分だけ大切な父親に会いたくない でもなんでも相談出来る大人の男の人が欲しい そんな気持ちがひしひしと伝わってきて マリコ様のお話は深いなぁと思いながら読ませていただいてます

ユーザー

航太郎君は鉄道写真だったんですね😊 大ファンの賢様と葉月ちゃんとのニアミスに急いで駆け付けるほどの航太郎君🤩⤴️⤴️ 展開が楽しみ❣ 元旦那さん再婚してたんですね~😲 離れて暮らしてると子供の記憶は小さいままだけど、子供は成長していて色々見えて知ってるのに父親は気付いてないよね~😮‍💨

ユーザー

出会いにワクワク。どんな風に絡んでくるのか楽しみ。

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