テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
お兄ちゃんは、まだ布団から起きあがれなかった。でも、お母さんの前では「大丈夫」って笑おうとする。
その笑顔がかえってせつなくて、
わたしはどうにかしたいと胸の奥で強く思った。
そのとき、おばあさんが広場でこんな話をしていた。
「十年に一度の星のおまつりのころ、森の奥に“ひかりの花”が咲くんだよ。
その蜜でつくったキャンディは、弱った体をあたためてくれるってね」
わたしの耳はピンとたった。
──ひかりの花。
それがあれば、お兄ちゃんは少しでも楽になるかもしれない。
夜になって、わたしは家の窓からそっと外へ出た。
森はまっくらで、木の影が大きな怪物みたいに見える。
でも、胸の中の「お兄ちゃんを元気にしたい」という気持ちが、
こわさを押しのけてくれた。
森の奥へ行くと、やがて小さな光が点々と地面を照らしていた。
近づくと、それはつぼみのような花だった。
まだ開いていないけれど、まるで心臓みたいに「とくん、とくん」と光っている。
「これが…ひかりの花?」
わたしがしゃがんで手を伸ばすと、
花のまわりに金色の粉がふわっと舞った。
星の粉だ。
女王さまの気配がまた、近づいてきている。