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22 - 【最終章】第4話 夫の心境

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2023年09月27日

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「ただいま」

二十時頃、やっとの思いで帰宅した。仕事が忙しくなって遅かったとかじゃない。ただ、薬の扱いに困って悶々としていたらこんな時間になってしまっただけだ。

宮川に出してもらった薬は鞄の中にある。使うか、使わないかは別としても、きちんと管理しないといけない品が入っていると思うだけで、少し緊張してしまう。

「おかえりなさい!お疲れ様でした」

ニコニコ笑いながら唯が出迎えてくれた。とても嬉しそうな笑顔に癒されるが、色々な事に対し申し分けない気持ちにもなる。


背広から室内着に着替え、食卓につく。今夜は夕飯はシチューにしてくれたみたいだ。

「いただきます」

手を合わせ、食事を始める。一緒に出してくれたサラダに手を伸ばした時、唯が何やら変な臭いのする飲み物を出してきた。


(栄養ドリンク、か?)


「…… 何これ?」

「えへへ、司さんお疲れみたいだから栄養つけてもらおうと思って。試供品の栄養ドリンクだよ」


(あまり寝れてない事がばれていたんだろうか?)


でも、やけにニヤニヤと笑うな。

「…… 美味いのか?これ」

臭いから考えるに、決して美味しそうでは無い。

「私はそういうの飲めないの、吐いちゃうんだよね」


(いや、待て。自分が吐くようなモノを俺に飲めって、随分いい根性してるな)


けどまぁ、俺の為を思って出してくれたんだ。飲まないのも悪いと思い、一思いにグッと飲み込んだ。

「——うわぁっ!」


(マズっ!何だこれ?よく飲み込んだよ、俺!)


反射で吐かなかった自分を褒めたくなった。

「美味しくない⁈」


(すごく、気持ち悪い…… )


「…… 出来ればもう飲みたくないかな」

「そうかぁ、司さんも苦手な人だったんだね」


(それで終わるなよ…… うぐっ——)



その後、唯は風呂へ。一緒に入る夫婦も多いだろうが、うちは別々に入る。本当なら一緒に入って、風呂につかりながらまったり色々話したりしたい所なんだが…… それで済む訳がないので当然出来ない。

唯が風呂の間はいつも居間で彼女が終わるのを待つ。テレビを観たり、本を読んだりして待ち時間をのんびり過ごす。読みかけの本があったのでそれを広げたんだが、何故か集中出来ない。食後くらいから、緩やかに体の中から変な感じがする。

もやもやとするというか、ちょっと体が熱い。

「…… まさか、あの栄養剤のせいか?」

そう思った俺は台所に行き、空き缶を捨てるゴミ箱を開けてみた。栄養剤らしきビンが一番上にあり、それを取り出してラベルを確認する。

『赤マムシドリンク』


(——んなっ!なんじだコレ!ちょっと待て、何を考えてるんだオイ!)


いや、考えている事はわかる。

わかるんだが…… 頭がクラクラしてきた。

駄目だ、色々と。

ちょっと横になろうと思い、俺は自分の部屋へ行き、ベッドに倒れ込んだ。


(…… あんなもん、無理して飲むんじゃなかった)



コンコンっと、部屋をノックする音が聞こえる。

「お風呂空いたよ?」

「わかった」

短く返事をした。でも、即座に動く気になれない。というか、今唯の顔をまともに見れる自信が無い。媚薬とかではないんだ、別にそんな劇的に衝動が強くなるような効果はあるはずなどない。そうわかってはいるんだが、自分の中に『赤マムシドリンク=精力増強』の図式がどうもあるようで、何となくそんな効果が出てきてしまっている気がしてならない。

だがこのまま部屋に篭ったままでいても唯に心配をかけるだけだ。そう思った俺は、仕方なくベッドからゆっくり起き上がり、着替えを持って風呂場に向った。



風呂場に入るなり、真っ先に冷たいシャワーを頭から掛け、気持ちを落ち着けようと何度も深呼吸をした。さっさと済ませてもう寝よう。寝ればきっと落ち着くはずだ。

頭や体をざっと洗い、お湯の中へ。

「…… ふう」

湯船に浸かると、少し落ち着いてきた気がしてきた。

長湯は出来ないが風呂につかるのは好きだ。色々な入浴剤を試してみたりするのも結構楽しいと思っている。


(今度休みでも取って、唯を温泉にでも連れて行ってやるかな。新婚旅行も出来ていないし)


そんな事を色々考えているうちに思いのほか長湯してしまったようで、少しのぼせてきた。

それと同時に、先程より強くなりだす、衝動。


(何でだ?あんなに落ち着いてきてたのに……)


なんだか頭がくらくらしてきた。長湯だけのせいじゃない、衝動を無理に押さえ込もうとしていて、無理がかかっている感じがする。


一体何が原因だ?

血行がよくなって、一気に栄養剤の成分が回ったんだろうか。

ちょっと待ってくれよ…… そんな事って。


否定しようとしても、事実そうなってしまった以上は現実を受け入れるしかない。


(まずは水を飲んで緩和させよう。それから部屋に戻る。——そして、さっさと寝る!)


決意を胸に、慌てて風呂場から出てパジャマに着替え、台所へ走る。冷蔵庫から水の入ったペットボトルを出し、コップにそれを注ぎ、何杯も、何杯も水を飲んだ。

水分を多く取って少しでも緩和効果を上げたい。出来るのかは知らないが、藁にもすがる思いだった。

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