奏が中野に純潔を奪われてから二ヶ月後。
中野からの連絡は来なかったが、吹部の部室にはちょくちょく顔を出しているようだった。
生理が来ない事に気付いた奏は、親にバレないように妊娠検査薬の二回用を購入し、検査してみたが、いずれも陰性だった。
しかし、更に一ヶ月が過ぎても生理が来ない事に不安になった奏は、ついに中野に連絡を取る事にした。
あの時、あの男は避妊具も付けずに膣外射精をしたのだ。もしかしたら、という事も、あるかもしれない。
奏は携帯の電話帳から中野の番号を表示させて通話した。
『もしもし』
『あ、私。奏だけど……』
奏の声を聞いた瞬間、明らかに不機嫌な声のトーンになる中野。
『何だよ、どうした?』
『あの……生理が来ない……』
『はぁ? ちょっと待ってろ』
中野に待てと言われ、数分ほど奏が待っていると、もしもし、と聞こえてきたのは女の声だった。
『……え?』
『あなたね。祐樹の浮気相手。で、生理が来ないって?』
奏は頭の中が真っ白になった。
(浮気……相……手…………?)
中野には本命の彼女がいた事を、ここで初めて奏は知ったのだ。
『それで、祐樹とは何回ヤッたの?』
顔も名前も知らない中野の彼女から、キツい口調で問い詰められる。
『三ヶ月くらい前に一度だけ……』
『そう。だったら、早く産婦人科に行って検査してもらってきて。どこの産婦人科に行くの?』
『駅前の……立川産婦人科に行こうと思ってます……』
『わかった。もうこれ以上祐樹に関わらないでくれる?』
『……はい』
耳が痛くなりそうなほど、ブツリと大きな音を立てながら電話が切られる。
(私……祐樹くんの……彼女じゃなくて…………浮気相手だったの……?)
愕然としたまま通話を終了させ、奏は自室に篭り、顔をくしゃくしゃにさせながら泣き腫らした。
翌日。
奏は学校を休み、駅前の立川産婦人科に行った。
ここの産婦人科は評判も良く、院長は女医だった。
院内は混雑し、予約せずに行ったので、奏が診察を受けたのは昼頃。
内診で脚を大きく開かされ、エコーで詳しく検査した所、妊娠はしていなかった。
安心はしたものの、思春期真っ只中の奏にとって、望まぬ妊娠の確認のために産婦人科の診察室で脚を開き、医師に大事な場所を見られながら膣の中にプローブを入れられた事が、精神的に堪えていた。
『今回は妊娠していなかったけど、膣外射精は避妊ではないのよ。性行為をする時は、避妊だけは忘れないようにね。これから、あなたのお姉さんにも結果を伝えるために連絡入れるから』
医師の言った言葉に、奏は疑問を抱く。
(お姉さん……?)
奏には兄弟姉妹はいない。一人っ子だ。
お姉さんと聞いて思い浮かんだのは、昨日、どこの産婦人科に行くか聞いてきた、中野の彼女だ。
(…………そこまでするの?)
奏は、中野の彼女の執念深さに恐怖すら感じた。