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その日の21時。繁華街のコインパーキングには、警察によって渡されたワイヤレスイヤホンと無線機を装備した駿の姿があった。
そんな駿を梓、つかさ、聖奈、沙月は不安な眼差しで見つめる。
聖奈と沙月は両親に、梓の家に泊まると嘘をついてこの場に居る。
「そんな顔するなってば!大丈夫だから!刑事さんだって居るんだから!」
駿は微笑みながら梓の頭を撫でる。
「だって・・心配だもん・・」梓は涙を浮かべてうつむく。
「皆川先生!くれぐれ無茶だけはしないでくださいね?」つかさが真剣な眼差しを駿に向ける。
「そうだよ?駿くん!何かあって、梓を悲しませたりしたら許さないんだからね?」
聖奈と沙月が駿に発破をかける。
「大丈夫だよ!悲しませたりしないから!安心してくれ!」
駿たちがそんな会話をしていると、刑事2名が近づいてくる。
「皆川さん!そろそろ時間ですので、配置にお願いします!」
「分かりました!」駿は背筋を伸ばし、刑事の方へ向き直る。
「駿・・頑張ってね?」梓は涙を浮かべて、駿の手を両手で包み込む様に握る。
「ああ!分かってる!必ずお母さんを連れてくるからさ!待っててくれな?」
駿はそう言って微笑むと目を閉じて深呼吸をする。
駿の頭にはこれまでの出来事が走馬灯のように駆け巡った。
いじめにあってた梓の為に、聖奈と沙月に話をつけに行った事。
教師でありながら風俗を利用し、それをたまたま梓に目撃されてしまった事。
母が行方不明で寂しい思いをしている梓を自宅で匿った事。
梓と過ごしたこの数日間の楽しかった思い出。全てが頭の中を駆け巡った。
「じゃあ、雛形先生・・みんなをよろしくお願いします。」
ゆっくりと目を開けた駿は、つかさに梓、聖奈、沙月を託して、刑事と共に、繁華街へ消えていく。
駿が去ってしばらくした頃、つかさを含めた4名は、車の中で駿の帰りを祈るように待っていた。
「大丈夫よ!金森さん!皆川先生は大丈夫だから!」つかさが梓の肩にそっと手を乗せて、優しく語りかける。
「うん・・大丈夫・・駿は無事だって信じてるから」梓は不安な表情のままうなずく。
「そい言えばさ!なんで雛形先生は認めたの?」
聖奈がおもむろに口を開いた。
「ん?何の話?」つかさは聖奈の突然の問いかけに首を傾げる。
「いや、あれだよ!駿くんの家に梓が泊まってる事だよ!」聖奈の言葉に
「いや、だらからあれは、梓が駿の家に行けないなら死ぬ!って言ったからでしょ?」と沙月が言う。
「ああ、みんな知ってたのね?」つかさは事情を知っている皆に驚いたように言う。
「あ・・ごめんなさい・・勝手に言っちゃった」
梓は申し訳なさそうにつかさに頭を下げる。
「いや、いいのよ?謝らなくても」と梓をフォローし
「それを知ってるんなら、何でそんな事聞くの?」と続けた。
「いや、そりゃさすがに、死ぬって言われたら認めるしかないとは思うけどさ、それだけが理由なのかなぁ?って思っただけ」聖奈は若干ニヤけた様子で言う。
「どういう意味?」沙月が聖奈に問いかける。
「あなたは相変わらず鋭いのね」つかさ困った様子で言う。
「あ!やっぱり他に理由あるの?」
聖奈は待ってましたと言わんばかりに、後部座席から身を乗り出し、運転席に座るつかさに顔を近づける。
「ち、近いわよ!」つかさは聖奈の圧にたじろく。
「え?他に理由があったの?」梓は驚いたようにつかさの顔を凝視する。
「ま、まぁ、あれよ!たぶん学生時代の私と金森さんを重ねて見てたのかもね」
つかさは自分の高校生活を思い返し、微笑みながら言う。
「え!?雛形先生の学生時代!?え?なにそれ!なにそれ!めっちゃ知りたいんだけど!」
聖奈は満面の笑みでつかさに詰め寄る。
「まぁ、聞きたいんなら話すけど・・誰にも言わないでよ?これ、人に話すの初めてなんだから」
「言わないから!教えて!教えて!」
皆ぬうながされ、つかさは学生時代の思い出を語る。
「実は私もね・・高校生の頃・・金森さんと同じように・・その・・先生の事が好きだったのよ///」
つかさは顔を赤くしながら自分の過去を語る。
「うっそ!?そうだったの?」聖奈な予想外のつかはの発言に声を張り上げて驚く。
「どんな先生だったの?」
「まぁ、私ね、学生時代はずっと空手やってたのよ!その顧問の先生だったんだけどね、まぁ、なんて言うかなぁ、誰かの為に精一杯悔しがれて、誰かの為に精一杯喜べるかっこいい先生だったの。気がついたらそんな先生を目で追うようになっててね」
梓の問いかけにつかさは恥ずかしそうに言う。「へー!なんか純愛って感じ❤︎」聖奈と沙月は2人で両手を繋ぎ向かい合ってはしゃぐ。
「雛形先生は、その先生には好きって伝えれたの?」
梓の問いかけにつかさは
「ううん・・結局卒業まで伝えれなかった・・」
過去の出来事に思いを馳せるように窓の外を見る。
「え!?なんで!?好きだったんでしょ?」
聖奈は驚いたようにつかさに顔を近づける。
「たぶん拒否されるのが怖かったんじゃないかなぁ・・・」
皆はつかさの言葉を黙って聞く。
「子供は恋愛対象じゃないと言われたらどうしようって思ったんだと思う・・でもね・・私もまだ諦めきれてない部分があってね・・教職の道に進んだのも・・もしかしたら再会できないかな?って期待があったからなのよ・・ふふふ女々しいわよね・・私って・・」
「そんな事ないよ!」聖奈が身を乗り出す。
「え!?」つかさは驚いたように目を見開く。
「好きな人にもう一回会いたいって純粋な気持ちで教師の道に!なんて簡単に出来る事じゃないよ!」
「そうだよ!全然女々しくなんかないって!」沙月も聖奈同様につかさに励ましの言葉をかける。
「ありがとう・・・」つかさは目から涙が溢れ出る寸前だったが、すんでのところで止まる。
「いやいや、こんな話してる場合じゃないわよ!皆川先生よ!皆川先生!」
つかさは慌てた様子でスマホをポケットから取り出して時刻を確認する。
「もう30分か・・長引いてるのかしら?」
つかさは駿を心配するように窓の外を見る。
「ん?なんか外が騒がしいわね?」
外からは何やら人が騒いでる声が聞こえ、人だかりが出来つつあった。
「ま、まさか!駿に何かあったんじゃ?」
梓は不安な表情で車から飛び出す。
「ちょ!ちょっと!梓!」聖奈はそんな梓を追って車から降りる。
「だめよ!金森さん!今はまだ」
車を降りたつかさが裏路地へ走って行こうとする梓の手を掴む。
「離してよ!駿が危ないかもしんないじゃん!」
梓の目には涙が浮かんでいる。
「それは・・そうかもしれないけど・・」
つかさが口ごもっていると、梓のスマホからLIMEの通知音が鳴り響く。
「LIME?」梓は不思議そうにスマホを取り出して確認すると、それは駿からのLIMEだった。
「しゅ、駿からだ!駿からLIME!」
梓が声を張り上げると、皆が梓のスマホを確認する。
そこには
「いま、お母さんとそっちにむかってる」
とメッセージが来ていた。
「お母さんと!?」梓は駿からのLIMEを見て目を見開く。
「よかったじゃない!金森さん!」
つかさが目に涙を浮かべて梓の体を抱き寄せる。
「うん・・ぐすっ・・」梓はようやく母親と再会できるという喜びと、駿の身の安全を確認できた安堵から大粒の涙を流す。
すると「あ、あれ!梓!あっち!」聖奈が声を張り上げて指差す。
指差した方角からは、駿と梓の母こずえがこちらに向かってくるのが確認できた。
「お、お母さん!!!」
梓は、駿とこずえの元へ小走りで向かう。