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「今日ね、クラスの友達とこっくりさんやったさ」


ある日の夕方、娘がいつものように今日あった出来事をぽつりと言った。


唐突な単語に居合わせた私と夫が同時に「は?」と声を上げてしまった。


聞けば5年生の教室で、担任も巻き込み友達数人と簡易的なこっくりさんを行ったという。


「でもね、特になにも怖いことは起きなかったよ」


そう言う娘の背中には、焼け焦げて爛れた男がぶら下がっている。


帰宅後から気付いてはいたが、娘の守護が倒さないということはきっと何かしらの理由があると思って、あえてその時は指摘しなかった。


それに1人でトイレも風呂も入ってくれなくなる。分かっているので、夫も聞いた当初は何も言わず黙って聞いていた。


娘が風呂を終えて髪を乾かした頃に私がボソッと「あれだけやるなって言われてたのにアホだね。デカいの背負って来てるよ」と言うと、やっと夫も「本当にアホだね。自分からやったんでしょ?今回は誰も助けないからね」などと冷たく言い放つ。


非情かもしれないが、うちでは自ら降霊術を行って降ろしたものは自分で対処するルールがあり、娘にも散々口煩く日頃から言っていた。


それでも友達と興味本位でやったのなら、守護も百鬼も助けてはくれない。


大体そういった降霊術で降ろしたものは、相当タチが悪くて祓いにくい霊が多い。今回降ろしたのもまたタチの悪い霊だった。見た目もそうだが、明らかに魂を引っこ抜いて連れて行くタイプである。


蒸し返すように指摘されて急に怖くなった娘は戦慄していたが、追い討ちをかけるように夫から「あーあ。今夜夢でそいつに追われるよ。隠れたり逃げたりしてどうにか逃げ切らないと、寝ている間に連れて行かれて明日には死んでるからねアンタ」と無慈悲に死の宣告を受けて、事の重大さをやっと理解したのか、ポロポロと泣き始めた。


私もそれを聞きながら、霊の数を探る。


玄関先に2体追加で来ているのは、焼け焦げた男の影響だろう。


「もう2体外にいるよ」と告げると、夫が「正確には背負ってるの含めて5体かな、学校にも2体いる」と呆れ返っている。


「ねえ、こっくりさんの最後ちゃんと『お帰り下さい』ってやった?『はい』って了承得たの?」


ふと気になって聞けば、娘は「え?」と聞き返す。まさかと思ったが、聞けばやり方をろくに調べもせずに適当に始めたらしい。


最後は皆怖くなって10円玉から勝手に指を離すどころか、霊を送り返す動作もなく友達が紙を破り捨てて終わったと言うから、こちらも白目を剥いてしまった。


そりゃ降りた霊達が激怒している訳だ。当然だ。遊びとして降ろされて、帰り道を壊されたのだから。


夫が目頭を押さえながら降霊術の仕組みを説明すると、娘は初めて聞いた様子で驚いていた。


「ま、頑張って逃げな。明日も学校でしょ。早く寝なよ」と無慈悲に突き放された娘は、自業自得なのだが首を横に振る。「やだ……寝ない……だって捕まるもん……」と完全に気持ちの面でも既に敗北している。


夫曰く、本当に夢の中で追われて逃げ切ればどうにかなるようだが、そもそも追われると分かっていて寝たくない気持ちも理解はできる。だが明日も学校だ。朝起こす私の身にもなれ、とズルズル引きずって寝室に押し込むが、娘は私とドアの隙間から無理矢理体を捩り、リビングに戻って座り込む。


それから約1時間、夫の「早く寝な、頑張れ」と「絶対逃げられないもん、寝ない!」の押し問答が続いた。黙って聞きながら、その根性を逃走に活かせよと思った。


もう半泣きだった娘も途中から大泣きになっていた。


最終的に根負けしたのは私で、「今週末部活のイベントもあるし、このまま夜更かしされると体調崩すわ。今回だけ、本当に今回だけ対処してくれ」と今後を見通して嘆息しながら頼むと、夫は「えー、だって対価が大きいよ」と渋る。


夫もその守護達も相当強いが、彼等を動かすには対価が必要になる。夫自身も祓えるが、こちらも連勤を控えているのでやりたがらない。相当体力を持っていかれるから嫌なのだろう。


そしてこの日に限って夫は仕事が休みで、守護達も各々の用事で出掛けていた。


守護の誰に対処してもらうかによって対価も変わるが、この日いた守護の中で1番強く、対価が高額なのは(誰しも聞いたことのある名前の)悪魔だった。普段個々には頼まないので一応聞けば、対価が宝石と言われて白目を剥いた。無理に決まっているだろう、訳あって今月は尋常じゃないほど金欠だ。


逆にこの日傍にいた守護の中で比較的に安価で済むのは、鬼の姉妹と白蛇だった。


鬼の姉妹は酒、白蛇は美味しい天然水を好む為、入手方法がスーパーで済む。


他にも本当は文句は言うが無償でやってくれる天使もいるのだが、生憎この日は不在だった。


更に1時間近く交渉した結果、鬼の姉妹が焼け焦げた男の霊の対処を引き受けてくれることになった。もうこの時点で22時を回ろうとしていた。


「3本や」と言って、姉妹が夫の右腕を使い3本指を立てる。3本お酒を提供することが対価らしい。


酒代は私ではなく、娘のお小遣いから出させることにした。この間の運動会での頑張りを褒められ祖父母からもらった臨時収入をこんなことでほぼ全部吹っ飛ばすことになるが、これで本人が事の重大さを学べば良い授業料だ。


まずは明日の仕事終わりに日本酒を買うと約束すると、夫の憑依守護の鬼2人が半分ずつ表面に出てきた。ふわっと表情やオーラ、仕草が別人になる。


「そこに立ちや」


夫に憑依した鬼の姉妹が、娘をリビングのドアの前に立たせた。


「なぁ、何人でやったん?こっくりさん」


夫に憑依した鬼の妹が訊く。


「5人……友達と担任の先生と合わせて5人……だけど、後から来たのも含めたら6人」と娘が泣きながら答える。


「最初に降ろした時、紙に触ってたのは何人?」


「5人」


「……はぁ、だから多いんやね。アンタも最初から触ってたんやね?」


「うん」


「……分かった。目ぇ瞑ってた方がええよ」


途中で表面が姉の方に切り替わり、目を瞑る娘の左側に手を翳して1分ほど何やらチャージを始めた。


鬼の姉妹は妖術も使うが、生粋のパワー型だ。憑依中も有り得ない程の握力を出せる。今回は妖術で仕留めるらしい。


普段使わない2人分の霊力を左手に溜めて、やがて不意打ちのように娘の背後に立っていた焼け焦げた男へと放った。


勢いが良過ぎてドアにガン!!と騒音を立ててぶつかる。霊力の重そうな塊が男に当たった直後、男が四散した。


その瞬間、部屋全体に男の「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙……」と言う文字に表すのも難しい断末魔が肉声で響いた。


あまりにもハッキリ聞こえたので、一応ダメ元で「アンタ今の聞こえた?」と娘に質問すると、完全に放心した顔で「……今の叫び声何?後ろにいた奴なの……?」と呟いた。どうやら聞こえたらしい。


消滅する時の断末魔は、比較的に肉声で聞こえやすいそうだ。確かに言われてみれば、何度か返り討ちになった霊体の断末魔を肉声で聞いたことがある。


放たれた塊は男の胴体を貫き、玄関の外にいた2体の霊を串刺しにした。その2体は焼け焦げた男より弱かったのか、刺さると同時にあっさりと四散した。


一撃放った後、ふわっと表面が夫に戻った。


「酒が足りなくて姉妹だけだと3体しか消せんかった!」と夫がいつもの調子で言う。「あとの奴は残しといていい?」と娘に訊けば、娘はブンブンと首を横に振った。


「えー、あと2体かぁ。もう姉妹はエネルギー切れで連続して使えないから、次誰に頼もうかなぁ……」


夫はしばし内部の守護達と相談している様子で、やがて「明日天然水買わせて」と言ってまた表面を変えた。


次に出てきたのは、白蛇だった。彼女は自分の分身のような蛇を沢山操る。ただし、蛇の名残りが強くて夫と同化すると人間味を失う。


仕草も蛇のようにゆらゆらと首が揺れ、立っているのが覚束無い。


彼女は夫に憑依した状態で私の目の前に立ち、徐に私の腕に爪を刺した。正直めちゃくちゃ痛い。夫の爪は一昨日深く切っていたはずなのに、明らかに人の爪ではない尖った何かが刺さった感触があった。


「え、何で刺したの」と突然のとばっちりに文句を言えば、続いて頬を片手で握り潰された。頬にも尖った何かが突き刺さる。


「いでっ!」と変顔になる私の反応を楽しんだ様子でふふふと笑い、目を伏せた後、学校の方面を向いた。


彼女はいつも白蛇の姿か、もしくは綺麗な背の高い白い着物の女性の姿をしているのだが、この時は珍しく巫女の服装をしているのが霊視で視えた。大技を使う時の正装のような感覚なのだろうか?


前に聞いた話では、彼女は白蛇として祀られる前、人として生きた時代があったという。巫女の仕事をしながら、寺子屋で先生をやっていたらしい。その時の生前の姿なのだろう。


彼女はすっと片手を真っ直ぐ伸ばし、ゆらゆらと揺れる。すると足元から地中を潜ってそれなりに太い白蛇が数匹這い出てきた。


這い出た白蛇は学校の方面へと向かって行き、3分ほど経った頃に学校方面から「ぎゃっ!!」という短い断末魔が微かに聞こえた。


討伐が終わったらしい。少しして、白蛇達が戻ってきた。それを見届けてから、彼女は夫の体を私に託すようにして引っ込んだ。


全体重が私にのしかかり呻いていると、表面が夫に戻った。体勢を建て直した夫は娘を寝室に押しやり「もう大丈夫だから寝な」と言い、娘が半分放心しながらもベッドに潜るのを見守った。


その後、思わず「なんでさっき私刺されたん???」と聞いてしまった。


「知らんよ」と夫が苦笑する。「いつもの新薬の実験だと思う。終わった途端にどっか行っちゃった。毒ではないしょ、多分」などと言う。


先程の尖った何かというのは、蛇の牙らしい。狐もそうだが、蛇も齧られたり刺されると、触れているのは夫の指先なのに明らかに人のパーツと異なる感触になる。


ありゃ完全にとばっちりだと思いつつ、夫達にお礼を述べた。


「全くもう、本当に今回だけだからね。疲れるんだからね、憑依して祓うの」


夫は「はぁー、疲れた」と椅子の上で伸びた。確かに除霊というか、強い霊のお祓いは疲れる。私の場合は疲労にプラスして手の甲が大荒れする。


「終わった終わった」とひと仕事終えた様子で夫は早々にゲームもせずベッドに潜った。よっぽど疲れたのだろう。私も翌日仕事があったので早めに就寝した。


その日の夜は特に怖い夢を見ることもなかったようで、娘は翌朝起きるなり「昨日の変な声、凄かった……」と随分と時差のある感想を呟いていた。


登校前に「本当に、次はないからね。もう降霊術は参加するなよ」と釘を刺す。「心霊スポットに遊びで行くのもダメだからね。自分から進んで行った場合は誰も助けないよ」と強く言うと、娘も懲りた様子で「もうやらない」と指切りげんまんをして出て行った。




本当にもう、次やった時は誰も助けないからね。






私が死に呼ばれるまで。

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