「ダーリルっ!」
「ミーナか、来ていたのか」
仲睦まじい夫婦の朝食が済んだのを見て、ミーナが飛び出していく。
「あれ? ダリル様、鍵は掛けておられないのですか?」
「一部の知り合いには何かあった時のために合鍵を渡してあるからな。いや、それも独り身だったからこその憂いか。サツキがいるのならそれもじきに必要なくなるのかな」
そうサツキの頬に手を添えて語りかける。またサツキは腰から砕けたように立てなくなってしまった。
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「狼さん……あなたはあの山で出逢ったひとですよね?」
「ああ、生き倒れたそなたをここまで運んだのだ」
私の自室で、狼さんを撫でながら確認する。はっきりそうと聞いた訳ではないから。
「……ではダリル様とは一体どういった方なのですか?」
狼さんは恐らくこの世ならざる者。ではその狼さんと共にあるダリル様、私が預けられたあの方はどのような方なのでしょう。どうしてこんなに胸が苦しくなるの……?
「ダリルとは、この街において管理人のような者だ。そなたらのような迷いし者に道を示してくれる……その職務は孤独でな、そなたのことを気に入って娶る気になったようだ」
そんな、一体私の何が──
「そなたも気づいておろう? この獣の身でそなたの身を清めたり服を着せたり脱がせたりなど出来ん。必要なこととは言えそなたの全てを見ておる。もうひとつ言えばあやつは相手の心根も見透かすのだ。その上でそなたを愛した、と」
丸裸にされた事の裏付けがとれてまたもや赤面して狼さんの腹に埋もれる。そして私の内面まで……?
「それではあの方はただのヒトではないという事ではないですか」
それはまるで超越した者ではないですか。そんな私の問いかけに狼さんは頷き、
「その孤独な超越者に見初められたのだよ、そなたは」
それはなんと呼べば良い感情なのでしょうか。今までにはない、これはもしかしたら──愛と呼ばれるものなのでしょうか。
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