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林杏 二十七歳
ピチャッ、ピチャッ。
頬に何か落ちて来てる…?
水滴か何かだろうか…。
体が重くて、力が入らない。
重たい瞼を開けると、石で出来た天井が目に入った。
ガチャッン。
鎖の音…?
自分の両足に鉄で出来た鎖が付けられていた。
鎖!?
ガチャッン。
両手首にも鎖が付けられていて、身動きが取れない状況で寝かされていた。
「な、なっ…。何…これっ!?」
カチャン、カチャンカチャン!!
鎖同士が打つかる音が部屋に響く。
「おや、目覚めましたか。」
毘沙門天があたしの顔を覗き込んで声を掛けて来た。
「アンタ、あたしの体を拘束して何する気よ。」
そう言って、キッと毘沙門天を睨む。
「さてと、貴方にはこれを飲んで貰います。」
「な、何を飲ませる気?」
「大丈夫ですよ、毒でも何でも無いんですから。」
どろっとした赤紫色の液体が入った瓶を持って来た。
どう見ても怪しげな飲み物を見せられ、警戒心が強くなった。
「いや!!やめて!!」
あたしは体を無理矢理動かして、毘沙門天に触れさせないようにした。
だが、毘沙門天はあたしの顎を強く掴んだ。
ガッ!!
顎に痛みが走った。
「いっ…っ!!」
「五月蝿い口だな、黙らせてやろうか?」
「っ!?」
毘沙門天の後ろから黒くて、手が何本も生えている男がいた。
な、何…?
あれ…。
「後ろにいるのが見えますか?」
「な、に…、あっ…、あが!?」
気を取られた瞬間、毘沙門天に液体を口の中に流し込まれた。
どろどろとした食感が喉から体全体に伝わる。
血のような鉄の味が口の中に広がり、嫌な匂いが鼻に届く。
「お、おえっ!!」
「吐くな。」
毘沙門天はあたしの口を押さえ、液体を吐き出させないようにした。
気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い!!!
ドクンッ。
心臓が強く打ちつけられ、体がビクビクと跳ねた。
自分の体が自分の物じゃないような感覚がした。
震えを抑えようとしても、震えは増すばかりだった。
どうなってるの!?
何これ、何これ、何これ!!?
「段々と体に馴染んで来ますから、いずれは貴方の体じゃなくなるんですが。」
「な、にを…っ、言って。」
「貴方は生け贄に選ばれた。つまり、貴方はある意味では神になれる器と言いましょうか。」
「神…って、何を言って…。」
毘沙門天はあたしの話を聞かずに、巻き物を2本取り出した。
「あぁ、やっと…。我、妻に会える。」
妻?
机に置いてある骨壷を見ながら、毘沙門天が呟いていた。
まさか、あの骨壷が妻って事なの?
何で、あたしがこんな目に遭わないといけないのよ。
あたしはただ、普通に暮らしていただけなのに。
「…。鱗青に会いたい…。」
そう呟くと、あたしの瞳から涙が溢れ落ちた。
一方、その頃ー
沙悟浄ー
顔面を潰された悟空は動かなくなった。
飛び散った肉片や血が、スルスルと悟空の元に集まり出した。
「この程度で、死なねぇだろ。お前は、半妖じゃなく不老不死なんだから。」
「っ…。」
牛魔王の言っている事はもっともだ。
そう、悟空は不老不死だから死なない。
死なないとは分かっていても、顔面を潰される姿を見たら驚く。
「痛てぇ…、じゃねーかよ。」
グサッ!!
「「っ!?」」
悟空は側に落ちていた影の槍の破片を、牛魔王の右耳に突き刺さした。
俺と牛魔王は悟空の行動に驚いた。
「離れろ、糞野郎。」
ドカッ!!
悟空はそう言って、牛魔王を蹴り飛ばし距離を取った。
「痛いじゃん、悟空。」
ズポッ。
牛魔王は耳に突き刺さった槍の破片を抜いた。
「痛いもクソもねーだろ。お前、鬱陶しい。」
「鬱陶しい?それはお前もだろ。俺の邪魔ばかりしやがって。」
ゾゾゾ…。
牛魔王の影が大きく増殖した。
「牛魔王様っ…?」
李の足に絡み付いた影は、ズルズルと李を引き摺ろうとしていた。
「足りないなぁ、喰って力を増やさないと。」
「牛魔王様!!やめて下さい!!」
胡が牛魔王の影を止めようと手を伸ばすが、影の方の動きが早くあっという間に、李は牛魔王の元に引き寄せられた。
「ガァァァァァァァァ…。」
牛魔王の後ろで大きくなった、影が大きな口を開けた。
「や、やめて下さいっ、牛魔王様っ…。」
「テメェ、牛魔王!!!」
悟空は牛魔王の元に行こうと、足を一歩踏み出した。
俺が行かないと、間に合わない!!
悟空がいる位置からじゃ、間に合わない!!
タタタタタタタッ!!!
悟空の身内を、もう、殺させてたまるか!!
ドクンッ。
心臓が強く脈を打った。
青い影のような物が体に絡み付き、力が漲って来る感覚がした。
大きな影が李を飲み込もうとした。
「やめろおおおおおおおお!!」
悟空の声が響き渡った。
ドゴォォォーン!!!
激しい音と共に大きな砂埃がたった。
「大丈夫か、李。」
砂埃が晴れ、姿を見せたのは沙悟浄であった。
沙悟浄の額には青色の角が2本生え、体に彫られた青色の蛇が浮き上がっていた。
「痛ってぇな…。河童野郎。」
牛魔王は鼻血を拭きながら沙悟浄を睨み付ける。
「おいおい、天下の牛魔王様がこんな事で怒るなよ。それとも何か?お腹が空いた子供みたいに、拗ねてんのか?」
「あ?」
「遊んでくれよ、牛魔王。暇だろ?お前。」
ビュッ!!
牛魔王は素早く沙悟浄の前まで飛び、拳を下ろした。
ドゴーンッ!!
ガシッ!!
沙悟浄は牛魔王の拳を片手で掴み、受け止めた。
「さっきまでの沙悟浄…と違うのか?」
「彼奴の中の妖怪の力が目覚めたんだろう。」
「妖としての力…。」
悟空は自分の体の中にいる雷龍と話していた。
「牛魔王の様子も少し、おかしい。アイツはいつも、冷静なのに今は…、何だ?」
「どうした、悟空。」
「アイツは妖だ。だけど、今のアイツは人のように感情が表に出てる。」
「…。もしかしたら、彼奴もまた可哀想な男なのかもな。」
「それは、どう意味だ?」
「まずは、丁達をどうにかしなければならんだろ。」
雷龍は話をすり替えるかのように話を逸らした。
孫悟空ー
雷龍の言っていた事が気掛かりだが、今は丁達のを解くのが最優先だ。
沙悟浄が牛魔王の気を引いてるうちに、李を…。
「おい、李。」
「ひっ!?」
「大丈夫か。」
カタカタと震えてる李の背中を摩る。
「お前は、昔と変わらないな。本当は怖がりの癖に強がる癖がある。」
「な、何で…。アンタがそんな事を知ってんだよ。」
「知ってるに決まってんだろ。お前等は、俺の護衛隊だったんだから。」
「え?」
「李!!大丈夫か!?」
胡と高が李に駆け寄る。
「あ、あぁ…。あの、俺達がアンタの護衛隊だったって…。」
「え?李、それは…、どう言う事…っゔ!?」
李に尋ねようとした胡が頭を抑え出した。
「胡!?ゔっ!?頭が…、割れそうだ。」
「ゔっうぅ…。」
李と高も頭を抑えながらその場に座り込む。
「丁、こっちに来い。」
俺の事をジッと見つめている丁に声を掛ける。
「…。」
丁は黙って、俺の目の前まで歩いて来た。
改めて丁の体を見つめると、変わり果ててしまったんだと実感する。
猿の姿だった丁が俺と同じように人の姿になり、牛魔王と毘沙門天の手によって怪物にさせられた。
「僕は…、貴方の事を知っている…のでしょうか。」
「あぁ、よく知ってるよ。」
そう言って、丁の額に手で触れた。
触れた額から白い光が放ち始め、丁は自然と瞳を閉じた。
「これが、狙いだったかっ。」
ビュン!!
白い光を見た牛魔王が俺に向かって、影の棘を飛ばす。
キィィィンッ!!
影の槍を弾いたのは、鏡花水月を持ち振るった沙悟浄だった。
「ッチ!!」
「良い顔になって来たなぁ、牛魔王!!」
シュッ!!
沙悟浄は牛魔王の頭上まで高く飛び、鏡花水月を振り下ろす。
キィィィン!!!
牛魔王は鏡花水月の攻撃を防ぐ為、影で刀を作り受け止めた。
ジャキンッ!!
目を閉じると、丁の脳に鎖に繋がった南京錠が見えた。
雷龍が体の中に入っているおかげで、丁の頭の中が見えている。
この南京錠を壊せば、丁に掛けられた術が解ける。
「意識を研ぎ澄ませ。」 「あぁ。」
小さく息を吐く。
バチ、バチバチ。
手のひらから雷が走り、南京錠へと伝わる。
パキンッ!!
雷が南京錠に触れようとした瞬間、何かに弾かれ た。
「弾かれた?」
「そのまま、雷を送り込め。」
「あぁ。」
「悟空、その場から離れろ。何かが、来る。」
雷龍が言葉を放った後に、地鳴りが起きた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
「な、何だ?!」 「地鳴りか?」
李と胡が地鳴り耐えながら言葉を放った。
ドゴッ。
ドゴドゴドゴ!!!
「良いタイミングで起きたなぁ。」
「あ?何言って…。」
牛魔王の呟きを疑問に思った沙悟浄は、首を傾げる。
ドゴォォォーン!!!
「ガァァァァァァァァ!!!」
地面が割れた瞬間、大きな怪物が現れた。
怪物の体には沢山の武器が刺さっており、奇妙な鳴き声を響き渡らせた。
「うるせぇ…、声だな。」
俺は耳を抑えながら、現れた怪物に視線を送る。
「可愛いだろ、俺のペットだ。」
牛魔王がそう言うと、怪物が牛魔王を手のひらに乗せた。 「ペット…って、この怪物の事かよ。」
「怪物とは失礼だなぁ、河童。」
何だ、あの異様な怪物は…。
妖じゃない、別の何かだ。
「待ちやがれぇええええ!!」
空いた穴から現れたのは、羅刹天だった。
「待てよ、羅刹天!!」 「うるせー!!さっさと来い!!」
「怪物が逃げ出したのは、お前の所為だろ…。」
穴から出て来た男に見覚えがあった。
「三蔵のおっさんか?何で、羅刹天と一緒にいるんだ?」
「悟空!?それに、沙悟浄もいるのか?!」
「あ、あぁ…。」
「オラァァァ!!」
三蔵のオッサンと話していると、羅刹天が怪物に斬り掛かった。
だが、羅刹天の刀を怪物には効いていない様子だった。
「まとめて殺しやるよ。俺の食料になって貰う。」
牛魔王はそう言って、不敵に笑った。