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鱗青は1人だけ、如来の後を追っていた。
「待ってろよ、林杏!!」
タタタタタタタッ!!
ドゴォォォーン!!
波月洞全体が大きく揺れた。
「うわっ!?」
ガシッ!!
「は?何?」
ふらついた鱗青は如来に抱き付いてしまった。
「す、すまん!!」
「いや、俺に付いて来たの?」
「だって、アンタは林杏の居場所を知ってそうだし…。」
鱗青の言葉を聞いた如来は、溜め息を吐いた。
「な、何だよ!?」
「悪いが、お前と行動をするつもりはない。1人で探しに行ってくれ。」
「は、はぁ!?その言い方はないだろ?!」
「お前と俺は仲間でもない、赤の他人だ。俺は俺の目的を遂行する。お前はお前の目的を遂行しろ。」
如来はそう言って、階段を飛び降り暗闇の中に吸い込まれて行った。
「お、おい!?何だよ、アイツ!!」
苛々しながら鱗青も降りようとした時だった。
「みぃーつけた。」
「っ!?お、お前は!?」
鱗青の背後から現れたのは、毘沙門天の治療を受け終わった真秋であった。
「毘沙門天様がお呼びだよ。裏切り者を連れて来いってね。」
グサッ。
「え?」
ポタッ…、ポタッ。「あははは、血が出たね。」真秋は鱗青の腹に剣を刺し、笑っていた。「ガハッ!!お、まえ、何をっ…。」「あははは、あははは、あははは。」「お前、頭イカれてんのか?!」
「イカれてる?あははは。確かにぃ、ふわふわしてるよ?」
「ま、まま、真秋っ。」
真秋以外の声を聞いた鱗青は、声のした方に視線を向ける。
そこに、空間に歪みを作り現れたのは金髪の長い髪を引き摺った人物。
長い前髪の所為で、男か女か判別が付かなかった。
「あっれぇ?何で、アンタがいんのぉ?」
「毘沙門天様が、よ、呼んで来いって…。は、早くその人を眠らせてよっ!!」
「あー?そうだったぁ。」
「その人を連れて来るのが、真秋の仕事でしょ。
「んー。おねんねしようね?」
ズシャッ!!
真秋はそう言って、腹から剣を抜き鱗青の背中を斬り付けた。
「アガァァァ!!」
鱗青の背中から血が噴き出す。
「あははは!!血が噴き出したぁ。」
「こんのっ、野郎…。」
「あ?」
鱗青の言葉を聞いた真秋は、鱗青の脇腹に拳を練り込ませた。
「ゴフッ!?」
「寝てろ?」
ガクッと落ちた鱗青をキャッチした真秋は、謎の男と共に歪みの中に消えて行った。
その光景を見ていたの者は、誰もいなかった。
源蔵三蔵 二十歳
「あっぶないなぁ。」 「「っ!?」」
猪八戒の放った銃弾が風鈴の目の前で止まった。
「いきなり撃つ事ないだろ?」 ゴォォォォォォォ。
風鈴の側には、炎炎と燃えている火輪が猪八戒の元に回りながら飛んで来た。
「あっぶねぇ!!」
猪八戒は潤の手を取り、1つ下の階段に飛び降りた。
ドゴォォォーン!!
同時に波月洞全体が大きく揺れた。
「ガァァァァァァァァ!!!」
鼓膜が潰れてしまいそうな程の、大きな叫び声が聞こえた。
「な、何だっ?!うるっさ!!」
「ほう、彼奴もおるのか。」 「彼奴って、ヒノカグツチが知ってる奴なのか?」
俺は耳を塞ぎながら、ヒノカグツチに尋ねる。 「起きましたか。」
石はそう言って、叫び声がする地下の方に視線を向けた。
「お前等、彼奴をどうやって起こしたのだ?確か…、何百年もの間、封印されておっただろ。」
ヒノカグツチが全く、何の話をしているのか分からなかった。
封印されていた?
妖怪か何かか?
「起こしたのは、牛魔王ですよ。」
「ほう…。」 「だから、何の話をしてんだよ…。」
俺は思わず、石とヒノカグツチの会話に入ってしまった。「お前、犬神は知っているか。」
「犬神って…、確か憑き神(ツキガミ)だったよな…?」
*犬神とは、四国を中心とした西日本に伝わる憑き神(狐憑きなどの類い)の一種とされる妖怪。 強力な呪詛の力を持ち、取りついた相手をその力で祟り殺すとされる。
俺の言葉を聞いたヒノカグツチは頷いた。
「お前の想像している犬神で合っている。だが、強力な呪詛の力を持っていた所為で封印されていた。その封印を解いたのか。」
「毘沙門天様と牛魔王が何かしたのではないですか。」
石は興味なさそうに答えた。
「僕は僕の主君の役に立つまでだ。」
ビュンッ!!
石がそう言って、俺の目の前まで距離を詰め刀を振り下ろした。
キィィィン!!
岩の壁側まで追い込まれた俺は、攻撃を防ぐ事だけで精一杯だった。
「アンタ等の仲間の悟空って、何なの。」
「は、はぁ?」
「僕の主君は悟空って、奴の事を気にしてるんだよ。」
ギリッ。
石は刀を握る手を強めた。 「哪吒は、何であんな男が良いのかな?ねぇ、教えてよ。」
哪吒が悟空の事を好き…なのか?
それで、石は悟空に対して怒ってる…?
「おまっえ、哪吒が好きなのか?」
「っ…。」
俺の言葉を聞いた石は、一瞬だけ動きを止めた。
だが、すぐに左肩に痛みが走った。
「ゔっ!?」
いつの間に、石の刀が肩に刺さったんだ。 「好き?愛してる?そんな言葉で、表現出来るものじゃないんだよ。僕がこうして、生きているのは最初に哪吒が産まれたからだ。」
「産まれたからって…、お前は毘沙門天に作られたんだろ?」
「哪吒をモデルに僕達は作られた。哪吒が産まれたから僕は生きてる。」
「じゃあ、何で!!俺達の邪魔をするんだよ!?哪吒が命令したのか!?だから…。」 「お前が呼び捨てにするな!!」
グチャァ…。
石は叫びながら、肩に刺した刀をグリグリと動かした。
左肩に激痛が走る。 「ゔっ!!」
「お前等が、悟空の側にいる限りお前の道は潰す。」
さっきまでの顔付きと違う。
目が…。
コイツは本当に悟空や俺達を憎んでいるように見えた。 「大人しく死んどけ。」
「何してんの、主人。」
ゴォォォォォォォ!!! 目の前が青い色の炎一色になった。
この青い炎は…。
「渡し守り!?」
青い炎の中から現れたのは、渡し守りだった。
勝手に式神札から出て来たのか!?
「何、やられてんの。潤!!お前も何やってんの!!」
現れた渡し守りは潤に向かって叫んだ。 「ヒッ!?ご、ごめんなさいっ!!」
「渡し守り、出て来たのか?」
俺がそう言うと、クルッと俺の方を向き睨み付けて来た。 「ご主人には、アイツ等の考えてる事や思いは分からないよ。」
「わ、渡し守り…?」 「ご主人はアイツ等を理解したいの?他人を理解しても分かり合えない事だってある。皆んな仲良くなんて、理想郷にしか過ぎない。そんな事はご主人だって、分かってるでしょ。」
俺は…、石の考えてる事を理解しようとしていた。
その代償に傷を負った。
石は哪吒の事が好きだと分かった。
アイツ等がどんな思いをして、俺達と戦ってんのか分からない。
だけど、俺達の邪魔をするなら…。 青い炎から距離を取る石に向かって、霊魂銃を構え弾を放った。
パァァァァン!!!
ブシャッ!!
銃弾が石の右足に当たった。 「石、俺達の邪魔をするなら戦うだけだ。俺達は俺達の目的があって旅をしてる。もう、大事な物を失わない為にだ!!」
「くだらない。大事な物を失わない為だって?笑わせる。」
石はそう言って、指を素早く動かした。
「太陽神聖(タイヨウシンコウ)。」
シュン、シュン、シュン、シュン、シュン。
石の周りに沢山の神々しい様々な武器達が現れた。
ヒノカグツチは、その武器を見て驚きながら言葉を放った。 「なっ!?あ、あれは…。どうして、神器達が!?」
「あらら、石ってば本気じゃん。本気で殺す気?」
風鈴は少し遠くの距離から石を見つめていた。
神器の光…?
クソッ、目が開けられない。 「何だよ、あの光はっ。」
「神さえも驚くか。僕が神器達を呼び出し、操れる事が。」
「お前は、人でもなければ神でもな…。っ!?お、お前達、もしや!?大罪を犯したのか!?」
ヒノカグツチの言葉を聞いた石は、フッと笑った。
同時刻、天界ー
霊堂の前に集まった数千人の憲兵達の前に、天部が立っていた。
「天帝が管理している霊堂、武器庫の守備範囲を強化しまします。」
「「「ハッ!!!」」」
天部が憲兵達に指示を出し、守備範囲を広げ強化をしていた。 「おい、観音菩薩。何、してんだ。」
霊堂の中を歩き回っている観音菩薩に、明王は声を掛けた。
「気になる事でもあんのか。」
「…。」
観音菩薩は明王の問いには答えず、霊堂に保管してある神達の遺骨の名前が書かれた巻き物に、目を通していた。
「おい!!聞いてんのか?」 「あぁ、聞いてる。少し静かにしてくれ。」
「お、おう…。」
シュルッ…。
物凄い速さで観音菩薩は巻き物に目を通す。
「まさか…。」
タタタタタタタッ!!!
「おい!?どうした!?」
「ない、ない、ない…。」
「ないって、何が?」
「…。明王、吉祥天以外の遺骨が何個か無くなってる。」
「なっ!?嘘だろ?毘沙門天の野郎は、他の神の遺骨も持ち出したのか!?」
カツカツカツ。
外にいた天部も霊堂の中に入って来た。
「明王、五月蝿いですよ。何かありましたか、観音菩薩。」
「天部、明王。世界の掟が崩れるかもしれん。」
「「っ!?」
観音菩薩の言葉を聞いた2人は驚きのあまり、言葉を失ってしまった。
「世界の掟が崩れ…って、どう言う事だよ!?」
明王はそう言って、観音菩薩に尋ねた。
「僕は毘沙門天がどうやって、哪吒達を作り出したのか引っ掛かっていたんだ。妖の血を使った以外に、器を作る必要があった筈だ。」
「もしや…。言いたくありませんが、遺骨を使ったのですか?」
「哪吒達の事を人と妖怪の半妖だと、思っていたけど…。本当は、人じゃなく神と妖怪の半妖だったと言う訳だ。」
「だから、哪吒等は神器を使えた…と言う事ですか?」
天部の言葉を聞いた観音菩薩は頷いた。
「神生みの儀式は伊邪那美命(イザナミ)様が亡くなったと同時に、禁止にされていた。これ以上、神が人よりも増えたら世界の理屈が変わってしまうからね。」
「だけど、毘沙門天は妖を使って神のような存在を作り出してしまった…と。」
「毘沙門天は本当に、この世界を壊して新しい世界の仕組みに作り変える気でいる。」
観音菩薩と天部の会話を静かに聞いていた明王が、言葉を放った。
「観音菩薩は、どうする気なんだ。」
「だからこそ、経文が必要なんだよ。経文を全て集め天竺(テンジク)に行かなければならないんだ。三蔵一行に。」
「今更なのですが、お尋ねしたい。何故、三蔵達が天竺に行かなければならないのですか?経文を集めるのは、我々でも良いのでは?」
天部はそう言って、観音菩薩に尋ねた。
「それが、運命だからだ。そして、これが三蔵達の最後の旅になる。そう言う契約をして、金蝉は生まれ変わった。悟空と金蝉の縁は、本来なら500年前に無くなる筈だった。」
「筈だった?」
明王が尋ねると、観音菩薩は言葉を続けた。
「金蝉はそれを拒んだ。人は亡くなり魂は、六道に辿り着く。天道にいる如意輪観音菩薩(ニョイリンカンノンボサツ)と契約をした。悟空との縁を繋げる代わりに、長い旅を経た後、縁を切ると。」
*六道とは、人は6つの苦しみと迷いの世界である。[ 天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道 ]に輪廻転生すると、考えられる。*
「切れてしまった縁は戻らない。その縁を結び直す代償…と言う事ですか。」
「毘沙門天が封印した、鳴神の封印を解きます。」
「「っ!!」」
観音菩薩の言葉を聞いた2人は、目を丸くさせた。
「毘沙門天の封印を解けるのですか?観音菩薩よ。」
「実際に見てみない事には分からないけど、僕なら大丈夫だ。」
「未来が見えたのですね。」
「鳴神の復活が、この先の未来を変える。」
「分かりました。急いで、下界に降り為の扉を開放します。」
「いや、その必要はない。」
「え?」
天部の言葉を聞いた観音菩薩は、黒い札を取り出した。
「おいで、玄狐。」
ボンッ!!!
白い煙の中から、大きな黒毛の狐が現れた。