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管野アリオ
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亜佑美は誤魔化すようにスマートフォンを取り出すと、目の前の夜景へカメラを向ける。
シャッター音と共に切り取られる無数の灯り。
けれど本当は、この景色だけじゃなくて隣で、「綺麗ですね」と目を輝かせている朝陽との時間ごと残しておきたいと思ってしまう。
(……ずっと続けばいいのに)
そんなことを考えてしまうくらいには、今が心地良いこの時間。
すると同じように写真を撮っていた朝陽が、ふいにこちらを振り返る。
「そうだ」
「ん?」
「この夜景の写真とか、喫茶店での写真とか……SNSに載せてもいいですか?」
「え?」
思わぬ確認に亜佑美は瞬きをした。
「なんでわざわざ聞くの? SNSなんて自由だよ?」
そう言うと朝陽は少しだけ視線を泳がせた後、どこか照れくさそうに口を開く。
「その……木葉さんも載せるなら、被ってたら嫌かも……って思ったので」
「……!」
それを聞いた亜佑美は思わずふっと笑みを零す。
「嫌なんてことないよ?」
「本当ですか?」
「うん。っていうか私も載せるけど、良いかな?」
そう聞き返すと、朝陽はぱっと表情を明るくした。
「嫌なんて全然!」
その笑顔が眩しくて亜佑美は少しだけ目を細めた。
朝陽のSNSアカウントはまだ作りたてで、フォローもフォロワーも今のところ自分しかいない。
そんな状況で同じ喫茶店、同じ夜景スポットの写真をほぼ同じタイミングで載せたら、見る人が見れば何かしら関係を勘繰るだろう。
もしかしたら付き合っていると思われるかもしれない。
けれど、不思議とそれを嫌だとは思わなかったしそれどころか、
(……そう思われても構わないかも)
そこまで考えてしまった瞬間、亜佑美ははっと息を呑む。
誤魔化しようもない程、はっきり理解してしまった。
自分はもう、完全に朝陽に惹かれているということを。
自覚してしまうと、その事実は思っていた以上に破壊力があった。
さっきまで普通に話せていたはずなのに、今は隣にいるだけで変に緊張し、目が合えば逸らしたくなるし、少し近づかれるだけで心臓がうるさい。
(やばい……意識しちゃう……)
亜佑美は誤魔化すように夜景へ視線を向けるが、隣の存在ばかり気になってしまう。
一方の朝陽はそんな亜佑美の胸の内など知らず、「綺麗でしたね」と満足そうに笑っていた。
その無邪気な笑顔がまたずるいと亜佑美は思った。
暫く景色を眺めた後、朝陽が名残惜しそうに口を開く。
「……そろそろ戻りますか?」
「う、うん……そうだね」
二人は展望デッキを後にし、駐車場へ向かって歩き出した。
夜道は思ったより暗く、街灯はあるものの足元までは照らし切れず、しかも帰りは下り坂になっている。
亜佑美が慎重に歩いていた、その時だった。
「あっ……!」
小さな段差に気づかず足を取られ、身体がぐらりと傾いた瞬間、
「危ない!」
咄嗟に伸びてきた腕が亜佑美の身体を支えた。
「……っ!」
気づけば亜佑美は朝陽の胸元に寄りかかるような体勢になっていて、亜佑美の顔が一気に赤く熱くなる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「う、うん……ご、ごめん……」
慌てて離れようとする亜佑美に朝陽は心配そうに眉を下げ、
「下りだし、暗いですからね」
そう言ってから少し躊躇うように右手を差し出す。
「あの、もし良かったら……掴まってくれて大丈夫なんで!」
「……!」
差し出された手を見た瞬間、亜佑美の鼓動が大きく跳ねた。
朝陽と手を繋ぐ、そう意識してしまい変に緊張する亜佑美だけど、転びそうになったのは事実だし、折角の厚意を無下にするのも忍びない。
「……それじゃあ、お言葉に甘えて……」
少し悩んだ末に亜佑美は朝陽の手を取った。
そして指に触れた瞬間、朝陽の手が思っていたより大きくて温かいことに気づいた。
「……っ」
繋がれた手から熱が伝わってくるたびに、胸の奥が落ち着かない。
そんな中、朝陽は亜佑美を気遣うように歩幅を合わせ、ゆっくり車までエスコートし、駐車場へ着くと繋がれた手が離れていく。
その瞬間、亜佑美はほんの少しだけ寂しさを覚えてしまっていた。
「それじゃあ、帰りますか」
車に乗り、シートベルトを締めたタイミングでの朝陽の言葉に亜佑美は静かに頷く。
「……うん」
そして車が走り出し、窓の外には夜の街並みが流れていく中、
(もっと一緒に居られたら良いのに……)
そんな気持ちを抱えながら亜佑美は揺れる車内でそっと窓の外を見つめていた。
帰り道は思った以上に混んでいた。
県境付近で渋滞にも捕まり、気づけば時刻は夜九時を回ろうとしていた。
「だいぶ遅くなっちゃいましたね……すみません」
「ううん、そんなこと無いよ。送ってくれてありがとう」
亜佑美の住むマンション付近まで辿り着き、車はゆっくり速度を落とした。
そこでふと、亜佑美はあることに気づく。
(そういえば夕飯食べてなかったな)
喫茶店でパンケーキを食べたのが夕方近くだったこともあり、夜景を見終えた頃もまだ、二人ともお腹は空いていなかった。
けれど流石にこのまま食べないのはお腹が空く。
それに朝陽は男の子だし、流石にお腹が空いているかもしれない。
ただ、ここまで来てしまっては今更どこかへ寄ろうとも言い出せない。
そしてマンション駐車場に車が到着したその時、
(……まだ、一緒に居たい……)
その気持ちに背中を押されるように、亜佑美は意を決して口を開く。
「あの……!」
「はい?」
「もし時間大丈夫だったら……」
一瞬躊躇うも勇気を出して、
「家で……ご飯でも、どうかな?」
そう提案した。
コメント
1件
うわあ、11話も読了お疲れ様でした…!もう完全に亜佑美が朝陽に惹かれていくのが伝わってきて胸がきゅんきゅんしました。 特に「手を繋ぐ」シーン、お互いの気遣いと照れが混ざっててすごく良かったです。「掴まってくれて大丈夫」って言う朝陽の控えめな優しさにやられました…。 そして最後の「家でご飯どう?」はまさかの亜佑美から!あの静かな積極性、めちゃくちゃグッときました。続きが気になって仕方ないです…!