テラーノベル
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店をあとにした二人は、並んで歩き出した。颯介の歩く速度が、さっきよりわずかに速い気がする。
高価なプレゼントを受け取ったばかりの凛は、まだ少し恐縮していたが、ふと何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば、沢渡さんは?」
「店を出たときに、向かいのビルの陰にいるのが見えたよ」
「ああ、だから急に速足で……」
颯介が急いで歩き出した理由を、凛はようやく理解した。
「ちなみに、走るのは得意?」
「え? なんですか、急に……」
「いや、走って彼女をまこうかと思ってさ」
青春映画のワンシーンのような光景が浮かび、凛の胸が一気に弾む。
「いいですよ。私、運動会ではいつも一等賞でしたから」
「おっ、言ったな! でもヒールで本当に走れる?」
「全速力は無理ですが、大丈夫ですよ」
凛が胸を張ると、颯介はにっこり笑った。
「じゃあ、行くぞ。よーい、スタート!」
掛け声と同時に二人は駆け出した。
走り出した瞬間、颯介が凛の手をぎゅっと掴む。
二人は手を繋いだまま、昼下がりの銀座の街を軽やかに駆け抜けていった。
ウィンドーショッピングをしていた人々が、その勢いに思わず振り返る。
大人の美男美女が手を繋いで走り抜けていく姿は、まるで映画のワンシーンのようだった。
走るたびに凛の胸元で、颯介に買ってもらったネックレスが小さく弾む。
凛はなんだか楽しい気分になり、心が弾んでいた。
颯介もまた爽やかな笑顔を浮かべ、凛の手をしっかり握ったまま走り続けていた。
どれほど走っただろう。
気づけば二人は銀座を抜け、新橋を過ぎ、愛宕神社の方角へ向かっていた。
神社の看板が目に入ると、颯介が口を開いた。
「せっかく近くまで来たから、参拝してもいい?」
「愛宕神社にですか? もちろん!」
凛が笑顔で答えると、二人はようやく走るのをやめ、ゆっくりと歩き始めた。
念のため後ろを振り返ってみたが、奈美の姿はどこにもない。どうやらうまく振り切れたようだ。
呼吸が落ち着いたころ、颯介が静かに言った。
「いい走りっぷりだったな、さすが一等賞の常連だ」
「ありがとうございます。真壁さんの走りも、なかなかでしたよ」
「たまにランニングしてるからね」
「へぇ……ジムでですか?」
「ジムでも走るけど、代々木公園まで行くことが多いかな」
「そうなんだ……」
あれだけ走ったのに、息ひとつ乱れていない颯介を見て、凛は感心した。
一回り以上年上のはずなのに、走ったあとでも爽やかな表情を崩さないのは、日頃から鍛えている証拠だ。
愛宕神社の入口に着くと、颯介が尋ねた。
「ここ、来たことある?」
「いえ、初めてです。商売繁盛や出世のご利益で有名なんですよね?」
「うん。『出世の石段』を上ると出世できるらしいよ」
「ああ、だから……うちの営業部の人たちもよく行ってるんですね」
「不動産会社なら、もってこいの神社だからね」
「そうなんですか?」
「うん。愛宕神社は、火伏・防火・防災の神様としても有名だからね」
「へぇ、そうなんだ……」
凛は「なるほど」とうなずいた。
「階段は急だけど、大丈夫?」
「大丈夫です。まだ余力はありますから」
凛が微笑むと、颯介は小さく頷き、石段を登り始めた。
途中まで石段を登ったところで、凛はついに観念したように漏らす。
「けっこうきついですね、この階段……」
「少し休むか?」
平然とした顔で言う颯介を見て、負けず嫌いの凛はこう返した。
「大丈夫です」
「無理しないで、辛かったら言えよ」
強がる凛を見て、颯介は笑いをこらえながら先へ進む。
(くぅ~、日頃の運動不足がたたったかな……いつもなら平気なのに)
心の中で弱音を吐きつつ、凛は必死に颯介のあとを追った。
ようやく上まで登ると、先に着いていた颯介が手を差し出した。
くたくたの凛はその手につかまり、最後の一段をぐいっと引き上げてもらう。
「お疲れさん」
「はぁ~、やっと着いた……やっぱりヒールだときついですね」
「悪かったな。ここに来ると分かってたら、かかとの低い靴を買ったんだけどな」
「そんな、わざわざ買わなくても……」
凛はそう言って、そっと颯介の手を離した。
愛宕神社は、自然の地形としては東京23区内で最も高い山とされている。その頂上に立っていると、まるで別世界に迷いこんだようだ。
都会の喧騒が絶えない街中とは違い、とても静かで落ち着く場所だった。
見上げれば、もみじが鮮やかに色づき、秋の深まりを静かに告げていた。
「こんなに落ち着く場所だとは知りませんでした」
「都会の真ん中にしては、癒されるな」
「はい」
参拝を終えた二人は、色づき始めた紅葉を眺めながら、裏手の坂道をゆっくり下っていった。
歩いていると、爽やかな秋風が頬を撫でていく。
真っ青な秋晴れの空の下、談笑しながら色とりどりの木々を楽しみつつ、二人はふもとの通りへ向かった。
その頃、二人を見失った奈美は、苛立ちを募らせながら悔しさを噛みしめていた。
(なんなの、あの二人! あれじゃ完全にカップルじゃない。デートって言ってたけど、まさか本当に付き合ってるんじゃないでしょうね。それに高級ブランドのジュエリーまで……いったいどういうこと? ああもう、本当にあの女、むかつく!)
悔しさに歪んだ表情の奈美は、二人を見失った場所に立ち尽くし、両手をぎゅっと握りしめた。
コメント
33件

二人の走り抜ける姿を頭に思い浮かべながら、5月に東京へ旅行する予定なので、愛宕神社へ行ってみたいと思いました❣️
悔しかったら一緒に走って追いかけたら良かったんじゃない? でも、それをしたら皆んなに見られて恥ずかしい思いをしたよね🤣 残念だったわね。
2人とも走ってナミを振り切るなんてすごい‼️ その後に階段なんておばちゃんは無理😆 そろそろお互いの気持ちを確かめてもいいのでは⁉️