「多分あれ早瀬さん、わざとあの場所狙って隣来たと思いますし」
「えっ?そう?案外あの時混んでたし、たまたま移動して来て近かったからじゃない?」
三輪ちゃんのそれは思い込みでしょ。
「早瀬さんってモテるじゃないですかー」
え、何いきなり。
「あっ、うん。なんかそうみたいだね」
「だから前から早瀬さん食堂とかってあんまり来る人じゃなかったんです」
「え?そうなの?」
「はい」
「食堂でここぞとばかりに近くに座ってお近づきになろうとする女子社員わんさかいましたから」
「へ~・・そうなんだ・・」
何その状況。
全然知らなかった。
「でも早瀬さんそういうの苦手みたいで避けてたっぽいです」
「へ~・・・」
「早瀬さんってモテて女性には不自由してない感じしますけど、でも最近はなんか心に決めた人がいるっていうか、誰でも彼でも受け入れるって感じの人じゃなくなったんですよね」
確かにそうかも・・。
心に決めてるあの人がいたから、最近はずっと他には特にいらないって感じだったんだろうな。
「でもまぁそういう状況だと早瀬さん自身も自分でモテてるって意識はあると思いますけど」
うん。自分で言ってたね。
絶大的な自信持ってたよね。
それにしても三輪ちゃんってホントよく見てるし鋭いよな・・・。
「多分あの食堂の時も望月さん見つけて、あえてあそこに座ったんだと思います」
「そうかなぁ・・」
「話してても早瀬さん望月さんへの視線違いましたから」
「えっ?何?そんなの見てたの?ってか全然そんなことないと思うけど!」
「いやいや、わかりますよ~。早瀬さん望月さんのこと特別な目で見てますもん」
三輪ちゃんストレートだな・・・。
でも多分それ勘違いだ。
特別なんかじゃないよ。
ただ知ってる顔が合って、普通じゃない関係の私がいたってだけ。
「だから、私あの時わざとカマかけたんです」
「えっ!?」
なんか三輪ちゃん予測もしない言葉どんどんブッコンでくる。
「何それどういうこと!?」
「彼氏さんの話。あれ話したら早瀬さんどんな反応するんだろうって気になっちゃって~つい」
いや、ついじゃないわ。
何?あれ、わざと三輪ちゃん話ブッコンだってこと!?
おかげで、あの後大変なことに・・・。
「そしたら、まんまと早瀬さん見るからに嫉妬してたんで、確信そこで持てました」
「えっ?あれそういうこと?別に普通だったよ・・?」
「何言ってんですか。どう見てもヤキモチ妬いて反応しまくってたじゃないですか」
えっ、余裕で返されてたからそんな風に思ってなかった。
帰ったら機嫌は悪かったけど・・・。
「余裕ぶってましたけど、私から見たら全然隠せてませんでしたね」
何、三輪ちゃん。どんだけ恋愛の強者なの。
あの樹より上手・・・。
「そこで、あー早瀬さん望月さんのことそんな好きなんだなーってわかりました」
「三輪ちゃん・・・それ違うんだ。そうじゃないんだ・・」
「えっ?何がですか?」
樹は私が好きだとかそういうんじゃない。
それだけモテて女性に不自由しなかった樹が、私は思い通りにならなくて、誰か他の人の存在に自分が負けてるのが悔しかっただけ。
きっと手に入ってそこそこ私が好きになったら、飽きていらなくなったオモチャのように簡単に手放してしまう。
だけど・・二人の時はそんなことも思わさないほどに甘くて優しい時間をくれた。
だから、きっと私も勘違いしちゃったんだ。
私だからじゃない。
誰にでもきっと優しいのが彼だから。
きっと同じような相手がいたら、同じように甘くて優しくする。
そして本当に好きな相手には、もっともっと甘くて優しくする。
きっとこんな風なことを一瞬でも思わないように、好きだと実感させて不安よりも幸せを与えくれるはず。
私は樹に好きだと思ってもらえる自信が持てなくて、幸せ以上に失くす不安の方が大きかったから。
「望月さん・・・?」
心配して三輪ちゃんが声をかけてくれる。
「早瀬くんさ・・・ずっと昔から好きな人いるんだって」
「他に想ってる人がいるってことですか?」
「そうらしい。ずっと報われない諦められない恋愛してきたって」
「そう・・なんですね・・」
「だからあんな風にモテるのに特定の相手作らなかったみたい」
「あぁ・・なるほど・・」
三輪ちゃんもさすがにそこまで言ったら納得している。
「でも。早瀬さんが望月さんへ向ける想いも嘘じゃないと思います」
三輪ちゃん、優しいなぁ・・・。
「私はやっぱり早瀬さんは望月さんのこと特別に想ってると思います」
「それなら、よかったんだけどね・・」
思わず作り笑いをするけど、すぐその笑顔も崩れてしまう。
「望月さんは、早瀬さんのこと、好き、なんですよね?」
三輪ちゃんが核心をついてくる。
「そう、なんだろうね・・。きっと」
もう否定するにも無理あるか。
「じゃあ・・!」
「でも・・、早瀬くんは私のこと好きじゃないから」
「いや、それはそう望月さんが思ってるだけで」
「早瀬くんさ、私には最近ずっと仕事忙しくて、ずっと夜も遅くまで仕事してるって言ってたんだよね」
必死に取り繕ってくれようとする三輪ちゃんの言葉を遮って現状を告げる。
「でも昨日・・見かけましたよね?」
「だよね」
「なら、仕事ですかね?」
「高杉くんに聞いたらホントは忙しくないんだって。ずっと定時で帰ってるって。誰か女性いるんじゃないかって言ってた」
「じゃあ、仕事じゃないってことですかね」
「だと思う。なんかもうよくわかんないや」
結局目に見えてるモノと見えないモノ・隠してる所と隠してない所。
どれが彼の本音で真実なのかももうわからない。
そもそも始まりが普通じゃなかった。
これがせめて普通に会社やあの店で偶然出会えて、偶然自然に出会えてたら、普通の恋愛始めること出来たのかな。
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