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挙式終了後、チャペルからフラワーシャワーを浴びながら現れた新郎新婦に、盛大な歓声が上がった。
チャペルから続くガーデンに花婿と花嫁が降り立つと、二人と写真を撮影するために、多くの人たちが集まっている。
人の輪から少し離れた所で、奏は二人の様子を見ていると、新郎新婦、そして挙式で奈美と一緒にヴァージンロードを歩いた男性が写真撮影をしていた。
「奏! こっちに来て一緒に写真撮ろうよ!」
写真撮影が落ち着いてきたところで、奈美が手招きしながら奏を呼ぶと、花嫁の隣に並び、ファインダーにおさまる。
「実は、私と一緒にヴァージンロードを歩いた方、私の上司でもあり、豪さんの中学時代の親友なの」
「そうだったんだ! 挙式の時の様子を見て、旦那さんと親しそうだなって思ってたんだけど、そんな繋がりがあったんだね」
二人の会話を聞いていた豪の親友が、目を細めながら奏に話し掛けてきた。
「初めまして。新郎の中学の同級生でもあり、新婦の職場の上司でもある谷岡 純と申します」
実年齢よりも若々しい雰囲気のイケメンの口元から白い歯が覗く。その笑顔が、普段あまり男性と接する事がないせいか、やたらと眩しい。
「初めまして。新婦の小中学校の同級生の音羽奏と申します」
彼女も谷岡に軽く一礼すると、彼は爽やかな笑顔で、臆する事なく奏に言う。
「高村さんの親友ですか! いやぁ、高村さんの友人で、こんな素敵な方がいらっしゃるとは。後で連絡先交換させて頂いても良いですか?」
いきなりこんな事を言われ、奏は引き攣りそうな笑みを見せていると、豪が苦笑しつつもすかさずフォローしてくれた。
「おい純。いきなり連絡先交換して欲しいって言われて、音羽さんが驚いてるだろ? 連絡先を交換するなら、せめて披露宴が終わってからにしてくれよ?」
すると、ウェディングプランナーの方が、新郎新婦に近付き、そろそろお時間になります、と伝えに来た。
「ねぇ奏」
花嫁が奏の腕にポンっと触れると、持っていたブーケを彼女に差し出した。
「これ、奏に受け取って欲しいの」
白い薔薇が丸くコンパクトにおさまったブーケに、奏は瞠目させる。
「え……? 私に……?」
「もちろん」
はい、と両手でブーケを手渡す奈美は、アーモンドアイを細めながら奏に穏やかな眼差しを送る。
「さっきも言ったでしょ? 奏には幸せになってもらいたいって。ブーケだけは、奏に渡したいって思ってたの。だから、受け取ってくれる?」
この奈美って女性は、なんて友達思いなんだろう。
胸の奥が苦しくなるほどキュっと締め付けられ、奏は視界が滲んでいくのを感じながらも笑顔を見せた。
「奈美。本当に…………ありがとう……」
奏は、おずおずとブーケを受け取ると、少しの間、新婦の想いがたくさん詰まったそれを見つめる。
「じゃあ、そろそろ準備があるから行くね。披露宴でのBGM、よろしくお願いします」
奈美が一礼すると、新郎と共に控え室へ向かっていく。横には豪の友人、谷岡がいたままだ。
「突然あんな事を言って驚かせてしまってすみません。でも、本当に音羽さんが良ければ、後で連絡先交換したいと思ってるので。それでは、失礼します」
谷岡は奏に一礼した後、ゆったりとした歩みで披露宴会場へと向かって行った。
(え? 私と連絡先を交換したい? ウソでしょ……)
呆気に取られながら、谷岡の背中を見送る。
あまりにも突然の事に、奏はしばらくの間、親友がくれたブーケを手にしたまま、誰もいなくなったガーデンに立ち尽くしていた。
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