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黒猫のイレイラ

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黒猫のイレイラ

48 - 【番外編・②】第2話 嫉妬心の具現化(桜塚イレイラ・談)

2024年03月07日

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到着の知らせを受けて、セナさんの案内で応接室へと移動する。

このまま式の日まで神子の二人は宿泊するらしく、夕食の席にも招待するそうだ。神子達は基本的に食事は必要無いので、私に付き合ってもらう感じだろうか。それなら申し訳ないなと思う。


セナさんの開けてくれた扉からカイルと私の二人で室内に入り、一礼する。きちんと自己紹介の挨拶をしようとしたら「——堅苦しい挨拶はいらない」と先に遮られた。この声はきっとウィルさんだと思う。

「お久しぶりですね、随分と大きくなって」

オオカミのような耳をピンッと立てた、灰色の髪の男性が穏やかな笑顔で挨拶をしてくれた。ストレートの髪が腰までと長く、緩く後ろで束ねている。カイルと同じ様な司祭服に身を包み、親戚の子供でも見る様な眼差しを私へ向ける。多分、この方がハクさんだろう。

「『大きく』どころの話じゃ無いだろ。前と全然違うじゃねぇか。——でもまぁ、黒い瞳と小柄な可愛らしさは変わんねぇな」

ハクの言葉を否定しつつも、ウィルさんがちょっと褒めてくれた。

彼の頭から、ライオンの様な丸みのある耳が、たてがみを連想させる金色の髪からのぞいていてちょっと可愛いなと思う。その愛らしい耳に似合わぬ巨体を前にかがめ、ウィルさんが私の頭を無造作に撫でてきた。 筋肉の凄さが司祭服を着ていようが溢れ出していて、純粋にすごいなと感じる。でも威圧感が無いのは、人懐っこい笑顔を向けてくれているおかげだろう。


ハクさんとウィルさんの二人を交互に盗み見る。 この二人が婚姻関係にあると以前カイルからチラッと聞いていたので不思議な気分だ。 どっちが…… どっちなんだろうか。読書好きの延長でBLも嗜んでいたので正直気になる。個人的にはハクさん攻めを推したい!ガタイがいいウィルさんが、細マッチョ系のハクさんに押し倒されるのは、なかなかに——


「ウィル、僕のイレイラに触るな」


カイルが唸る様な低い声をあげ、私は腐海から引き戻された。危なかった、色々と脳内が暴走する寸前だったぞ。

腐海真っしぐらでウキウキしだしそうだった私とは違い、背後に立つカイルが私とウィルさんに対し嫉妬心丸出しなのが振り返らなくてもわかった。


(心配せずとも、彼はハクさんのモノでしょうに…… )


「おぉ!久しぶりだな、イレイラ。随分大きくなって驚いたぞ。まるで人間みたいだが、何かあったのか?」

そこへ、知らぬ声が追加で聞こえてきた。ハクさんとウィルさんが私の後ろへ視線をやっているので、声の主は背後に居る様だ。もう一人参加するとカイルが言っていた。きっと“サビィル”さんとやらが来たのだと思い、私は振り返った。


「——っ⁈」


“ヒト”が居るものだと思って振り返ったのに、そこにヒトの姿はカイルしか居ない。セナさんはお茶の用意を部屋の端で始めているし、そもそもあんな声じゃ無い。——という事は、カイルの肩に先程までは居なかったはずの、肩に留まっていらっしゃる…… まさか、この子の…… 声?


「ん?どうしたのだ?まさか、久しぶり過ぎて親友の姿を忘れたのか?」


カイルの肩に留まる子が不服そうな声をあげ、片側の羽を広げる。言葉を話してはいるが、その姿はどう見ても白梟だ。

「ふぁぁぁぁぁっ!——しゃ、喋った!」

興奮が抑えきれない様子を隣にし、カイルが訝しげな顔を私に向けてきた。

「…… イレイラ?ねぇ、嫌な予感がするんだけど」

「え?あ、ごめんなさい!ふくっ、梟が留まってるから!あの、私、鳥が好きで!」


(待って!そもそもこの子いつ来たの?さっきまで居なかったし、音もしなかったのに)


一部を除き、梟は飛んでいても羽音がしない事をすっかり忘れ、興奮気味になってしまう。

「やっぱり!だからサビィルには会わせたくなかったんだ!」

悔しそうな顔をしつつも、カイルは肩に乗る白梟を追い払う気配は無い。私のテンションの上がり方に腹は立っても、サビィルとは仲が良いからなのだろう。

「えっと、アナタがサビィル、ですよね?可愛いですね。触ってもいいですか?」

どうにか興奮するテンションを抑えつつ懇願する。もういっそお腹に顔を埋めてしまいたい、しっかりと触ってみたい!

「触るのは構わんが。イレイラどうした、まさか本当に忘れたのか?」

サビィルが不思議そうに頭を傾げた。そんな私達のやり取りを見て、お茶の用意が終わったセナさんが口を開く。

「イレイラ様は転生され、人間になったのですよ。その際記憶を持たずに生まれたので、貴方の事は覚えていないのです。わかりましたか?」

「——っんお⁈転生?いつの間に死んでいんだっ!イレイラ、私は悲しいぞ。でも、また会えたのは嬉しいな」

「貴方はお仕事でずっと留守がちにしていましたから、仕方のない事です」

セナさんとサビィルが話す間、白梟の首や羽やお腹などをそっと撫でる。こんなに触っても怒るどころかむしろ気持ち良さそうに目を細め、じっとする姿がたまらなく可愛い。カイルが私を撫で回す気持ちがすごくわかるっ。

うっとりとした瞳を隠す事なく撫でる。とにかく、撫でる。 するとサビィルの真横にあるカイルの表情が、目に見えて不快感に溢れていく。先程ウィルに対して見せていた嫉妬心丸出しの顔の比じゃない不貞腐れっぷりだ。

「そうですね!私も会えて嬉しいです。サビィルと親友だったとか、幸せ過ぎて撫で過ぎちゃいそうです」

カイルが不機嫌だとはわかっているのだが、止まらない。心地よ過ぎてまるで天国の様だ。


「…… んー、これは明日また謁見し直しかもしれませんね」


「あぁ、この不貞腐れっぷりじゃ、もう止まらんだろうな」

ハクさんが苦笑し、ウィルさんがそれに同意する。

セナさんがそんな私達に構う事なく二人をお茶の席へと案内し、紅茶とケーキとでもてなし始めた。


「申し訳ありません。正直、サビィルが居るとこうなるだろうと予測出来てはいたので出来るだけイレイラ様に会わせないようにしていたのですが…… 」

セナさんが溜め息をつき、ハクさんとウィルさんに謝罪した。

「仕方がないですよ。イレイラとサビィルは昔から種族の差も無しに、仲良く戯れあっていましたしね」

「あの時はまだ、猫と梟が遊んでんなくらいの見た目だったからカイルも必死に我慢していたが…… ここまでハッキリと、ほぼ浮気状態を目の前でやられちゃぁ、耐えろって方が無理だな」

ハクさんに続き、ウィルさんも呆れながらそう言って首の後ろをかいた。

「私達はお茶でも楽しませてもらいましょうか」

「そうだな」

本来ならもてなさねばならぬ二人を完全に忘れ、私とサビィルはこの後もしばらくじゃれ合ってしまい、見事カイルの怒りを買ってしまったのだった。

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