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Hoicoro
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#曽野舜太
萌
33
※こちらは第九章(白霧山へ出発前)あたりの設定です。
本編執筆中に思いついた話ですがネタバレになるので、完結まで公開できなかったものです。
〇五人の帝国珍道中
帝国ソレイユの城下町は、昼下がりの陽光に満ちていた。
大通りには色鮮やかな天幕が並び、焼き菓子の甘い匂い、香辛料の刺激的な香り、食べ物や魔道具を売る声が飛び交う。
その喧騒の中を歩く五人。
大勢の人々が行き交う大通りにも関わらず、彼らの歩く道筋だけ、自然に人混みが開かれていく。
「……お前ら、目立ちすぎやろ」
ダイチが心底嫌そうに顔をしかめる。
まず、ハヤト。
この国の第一皇子である彼は、一応お忍びのつもりだった。
普段の皇族衣装ではなく、生成りのシャツに濃紺の上着。装飾も控えめで、髪も同じく濃紺の帽子の下へ緩く隠している。
それでも無駄だった。
身に纏うオーラ。
歩き方。
微笑んだ時の柔らかな気品。
隠しているはずの金色の髪が、陽の光を受けて帽子の下からちらりと輝くたびに、通りすがりの人々が二度見する。
「あ、あれ……ハヤト殿下では……?」
「まさか、でも……」
「殿下!?」
結局、三歩進むごとに声を掛けられていた。
ハヤトは困ったように笑いながらも、一人一人に丁寧に会釈を返す。
「今日は私用で来ているだけだ。どうか気にしないでくれ」
そう言われて気にしない民など、いるはずがなかった。
次に、ジュウタロウ。
彼は隠す気がまるでないのか、いつもの白い騎士服に、白いマントを羽織っていた。
雪原からそのまま抜け出してきたような銀髪。
鋭く冷たい銀の瞳。
人間離れした整った顔立ち。
長身で、姿勢は凛としていて、ただ歩いているだけで周囲の空気が数度下がったように感じられる。
市場の女性達が、ぽかんと口を開けた。
男性までもが、思わず足を止める。
「……今の、絵画?」
「いや、彫刻だろ……たぶん」
「綺麗……」
ジュウタロウは視線に慣れているのか、何の反応も示さない。
ただ、少しだけ眉間に皺が寄っていた。
そして、シュンタ。
鮮やかな異国柄のポンチョを羽織り、つばの広いカウボーイハットを軽く傾けている。
胸元が少し開いたシャツからは、日焼けした肌と細い首飾りが覗き、歩くたびに腰元の装飾品がジャラっと小さく揺れた。
真紅の髪。
真紅の瞳。
人懐っこい笑顔。
目が合った女性へ軽くウィンクする。
「今日もええ天気やな、お嬢さん」
きゃあ!と声が上がった。
さらに指先で投げキッスを飛ばすと、露店の向こうで若い女性が本気でよろめく。
「倒れたで!?」
ダイチがぎょっとする。
「大丈夫大丈夫、隣の子が支えとる」
「そういう問題ちゃうわ!」
シュンタは悪びれもなく笑った。
「市場は楽しまな損やろ?」
「楽しみ方が違うねん!」
そう言うダイチも、決して地味ではなかった。
群青色の髪は陽に透けると鮮やかに青く光り、サファイアブルーの瞳は明るくよく動く。
旅で鍛えられた身体は逞しく、厚手の旅装の上からでも肩幅や腕の強さが分かる。
精悍な顔立ちの中にまだ少年のような人懐っこさが残っていて、露店の女性達がつい目で追ってしまう。
本人だけが、それに全く気づいていなかった。
「いや、ほんまにみんな目立ちすぎやからな。もうちょい周りに溶け込む努力せえや……」
「ダイチも見られているぞ」
ハヤトが穏やかに言う。
「は?俺が?」
「自覚がないのか」
ジュウタロウが静かに呟く。
「ないやろなぁ」
シュンタがにやにや笑った。
「なんやねん、全員で俺を変な目で見るな!」
そんな四人の少し後ろ。
ジントは黒いローブを目深に被り、俯き気味に歩いていた。
長い前髪も、黒い瞳も、ほとんど見えない。
けれど風が吹くたびに、艶やかな黒髪がローブの隙間から覗く。
それを目にした近くの人々が息を呑んだ。
「あの髪……」
「黒……?」
「まさか……」
誰かが小さく悲鳴を上げた。
母親が子供を抱き寄せ、露店の男が顔を強張らせる。
ジントの歩幅が僅かに小さくなった。
ダイチがそれに気づき、さりげなく隣へ並ぶ。
「気にすんな」
「……してない」
「してる顔やん」
「見えてないでしょ」
「見えんでも分かるわ」
「…………」
ジントは返事をしなかった。
ただ、さらにローブを深く被る。
「あっ!!」
その様子を見て、シュンタが声を上げた。
「オレ、ええもん持っとる」
ダイチが警戒した顔をする。
「お前の“ええもん”って大体ろくでもない気がするんやけど」
「失礼やな。今回はほんまに便利なやつや!」
シュンタは腰のポーチを探り、小さな銀色の魔道具を取り出した。
丸い月のような石が嵌め込まれた、手のひらほどの道具だった。
「色変えの魔道具。髪とか瞳の色を変えられるんやで!」
「そんなもんあるんか」
「商人とかがまあ裏で色々使うんよ。効果は一時間くらいやけどな」
シュンタはそれを軽く揺らし、ジントへ差し出す。
「使ってみる?」
ジントは少し驚いたように顔を上げた。
ローブの奥から、黒い瞳が覗く。
「……オレに?」
「嫌ならええで。ただ、ちょっと歩きやすくなるかもしれんやろ」
ジントは黙った。
周囲の視線。
小さなざわめき。
それらを避けるように、彼の指がローブの端を握る。
やがて、おずおずと魔道具を受け取った。
「……どうすればいいの?」
「なりたい色を思い浮かべるだけ。強く、はっきりな」
「……なりたい色」
ジントは小さく呟いた。
そして、目を閉じる。
魔道具の石が、淡く光った。
その光は、太陽のように眩しいものではなかった。
静かで、柔らかく、夜の闇に浮かぶ月のような光。
さらり、とローブの隙間から零れていた黒髪が揺れる。
黒はゆっくりと色を失い、淡い金へ変わっていった。
太陽の色ではない。
光を浴びた麦の色でもない。
もっと冷たく、淡く、透き通った金色。
月光を溶かして糸にしたような色だった。
ジントがゆっくり目を開ける。
黒曜石のようだった瞳は、月を映したような優しい乳白色へ変わっていた。
それを見た瞬間、ダイチが固まる。
「……え」
ハヤトも息を呑んだ。
ジュウタロウの銀の瞳が、僅かに見開かれる。
シュンタも口を開けたまま完全に言葉を失っていた。
ジントは、不安そうに四人を見る。
「……変?」
四人の心臓が、ほぼ同時に跳ねた。
「変なわけあるか!」
最初に叫んだのはダイチだった。
声が大きすぎて、近くの通行人達が振り向いた。
「めっちゃ……めっちゃ……!」
「何」
「……綺麗、ゃ……」
勢いの割に、最後の声だけ少し小さかった。
言った本人の耳が赤くなる。
ジントもつられて、頬を淡く染めた。
「……大げさ」
「大げさちゃう!」
ダイチはむしろ真剣な顔で言う。
「ほんまに、……似合っとる」
その横から、ハヤトが静かに近づいた。
「……驚いた」
金の瞳が、ジントを真っ直ぐ見つめる。
「月明かりのようだな」
「……」
ジントは困ったように視線を逸らす。
「そういうの、やめて」
「すまない。だが、本当にそう思った」
ハヤトは悪気なく微笑む。
その素直さが一番たちが悪い。
ジントの耳がさらに赤くなる。
シュンタが横からひょいと覗き込んだ。
「いやぁ、これはあかんな……」
「何が」
「ジンちゃん可愛すぎる」
「……は?」
「いや、綺麗すぎる、か?どっちにしてもあかんわ……」
シュンタはにやりと笑い、ジントの周りを一歩回る。
「ローブ取ってみ?せっかくやし」
「嫌だ」
「ええやん。一時間限定やで」
「嫌」
「ジント」
ハヤトが穏やかに言う。
「無理にとは言わない。ただ、お前が少しでも楽に歩けるなら、その方がいい」
ジントはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりローブのフードに手をかける。
布が落ちる。
淡い金色の髪が、陽光の下にさらされた。
長い前髪が頬にかかり、月色の瞳がその隙間から覗く。
色白の肌にはほんのり赤みが差し、唇は戸惑うように引き結ばれている。
儚くて、静かで、触れれば消えてしまいそうな姿。
「…………」
四人は、完全に黙った。
市場のざわめきさえ、一瞬だけ薄くなったように感じた。
先ほどまで黒髪に怯えていた人々が、今度は見惚れるように足を止める。
「綺麗……」
誰かが呟いた。
ジントはその声にびくりと肩を揺らす。
ダイチが即座に前へ出た。
「見せもんちゃうぞ!」
「お前が一番見てるで」
シュンタがぼそっと言う。
「うるさい!」
ジュウタロウは黙ったままジントを見つめていた。
その視線に気づき、ジントが少しだけ眉を寄せる。
「……何」
「いや」
ジュウタロウは静かに首を振る。
「本来、お前はそういう姿だったのかもしれないと思っただけだ」
ジントの表情が、わずかに止まる。
その言葉は、褒め言葉よりも深い場所へ落ちた。
「……本来の、オレ」
指先が、淡い金の髪に触れる。
自分のものなのに、自分のものではないみたいだった。
「いや!今のもええけど!」
ダイチが慌てたように声を上げる。
「黒髪のジントも俺は好きやで!」
「……誰も聞いてない」
「いや今言わなあかん気がしてん!」
「必死やなぁ」
シュンタが笑う。
「うるさいわ!」
そしてハヤトがふっと微笑む。
「どちらの姿でも、お前はジントだ」
その言葉に、ジントは少しだけ顔を上げた。
ハヤトの目は真っ直ぐだった。
皇子としてではなく、ただ一人の人間を見る目。
ジントは何か言いかけて、結局何も言わなかった。
代わりに、視線を逸らす。
「……歩くんでしょ」
「ああ」
「ほな行こか」
全員で軽やかに歩き出す。
だが、問題はそこからだった。
ローブを外したジントは、黒髪の時とは別の意味で目立った。
露店の娘が頬を染める。
子供が「きれい!」と目を輝かせて見上げる。
通りすがりの青年が振り返りすぎて屋台にぶつかる。
「ほら見ろ!!」
ダイチが叫んだ。
「やっぱり目立つやんけ!」
「さっきよりは悲鳴は減ったやろ」
シュンタが悪びれずに言う。
「種類が変わっただけや!」
「まあ、悪意よりはええんちゃう?」
「そういう問題ちゃう!」
ダイチはジントの隣をぴったり歩く。
近づこうとする人間がいると、すぐに視線で牽制する。
「ダイチ、邪魔」
「邪魔ちゃう。護衛や」
「頼んでない」
「俺がしたいんや」
ジントは一瞬言葉に詰まり、すぐ顔を逸らした。
「……勝手にすれば」
「おう、勝手にする」
一方ジュウタロウは何も言わず、しかし自然にダイチの反対側へ立った。
「……ジュウタロウまで何してんねん」
ダイチが半目で睨む。
「人混みは危険だ」
「絶対それだけちゃうやろ」
「それだけだ」
「嘘つけ」
さらにシュンタが、ひょいと前へ回り込む。
「ほなオレは前方担当な。変な奴おったら色仕掛けで追い払ったるわ!」
ニヤリと微笑む。
「余計ややこしくなるからやめろ!」
ハヤトは少し考えたあと、ジントの斜め後ろについた。
「では俺は後方を」
「殿下なのに!?」
「護衛は多い方がいい」
「お前ら全員、過保護すぎるやろ!」
「そう言うダイちゃんが一番過保護やん!」
ジントは四人に囲まれながらうんざりした顔をする。
「……歩きにくい」
「我慢せい」
「……今だけだからね」
ぼそりと返したその声は、少しだけいつもより柔らかかった。
市場の喧騒の中。
淡い金の髪が、陽の光を受けて揺れる。
ほんの一時間だけの、偽りの姿。
けれどそれは、誰も知らなかったジントの可能性を映しているようだった。
その姿を見ながら、ダイチは小さく息を吐く。
「……ほんま、困るわ」
「何が」
「お前が綺麗すぎて」
「……馬鹿じゃないの」
ジントはふいっと顔を逸らした。
けれどその耳は、すっかり赤く染まっていた。
久々にワチャワチャ五人を書けて楽しかったです♡
コメント
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待ってました、番外編💛 みんな過保護で可愛いです ありがとうございます!
わあ〜!番外編、めっちゃ良かったです!!💛が❤️に貰った色替えで髪が淡い金髪になるなんて、、、!思わず、リアル💛さんの金髪時代を思い出しました笑 金髪💛さん見たら、そりゃ違う意味でザワザワなるわって感じです笑 皆💛さんに過保護なの最高でした〜!!めっちゃ頼りになる護衛でこっちも何故か安心しました。 自分の予想とは全然違う番外編、めっちゃ面白かったです!!!次回はどんな感じかな〜
わあ、めっちゃ良かった…!五人それぞれの個性が立ってて、特にジントが色変えで淡い金髪になった瞬間の描写が綺麗すぎて痺れたわ。ダイチの「黒髪も好き」発言とか、周りが過保護になりすぎてるのとか、ほっこりするし笑える。本編の息抜き感が最高で、もっとワチャワチャ見たくなった🔥