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放課後、友達と一緒に帰って宿題をしたあと、お向かいのマンションに住んでいる佐藤くんや吉田くんと公園へ遊びに行った。
三人でボール遊びや鬼ごっこをたくさんして、空が暗くなってきたので家に帰ることにした。
家に帰るとお母さんが晩御飯の準備をしてて、コウキはテレビをじっと見ていた。
「ただいまぁ」
お母さんに声をかけると、
「おかえりなさい」
とお母さんが振り向く。
それからじっと僕の顔を見つめてから、
「……ねぇ、勇気」
「なに?」
「何かお母さんに隠していること、ない?」
ドキリとして、僕もお母さんの顔を見つめる。
なんだろう、どうしたんだろう。なんでそんなことを聞いてくるんだろう。
もしかして、僕がプラモデルを壊しちゃったの、バレちゃった?
でも、あれはアリスさんにお願いして魔法で直してもらったんだから、何も問題はないはずだ。
じゃぁ、お母さんの言う隠してることって、なんのことだろうか。
コウキのお菓子をちょっと取って食べちゃったこと?
本当は宿題がもうちょっと残ってるのに、ないって言っちゃったこと?
それとも、工作の時間にボンドを無くしちゃって、そのまま先生のを借りて使い続けてることとか?
「な、ないよ、隠してることなんて……」
僕はそう答えたけれど、お母さんは黙ったまま、じっと僕の顔を見続ける。
それが何だかすごく怖くて、僕はテレビを観ているコウキの方に顔を向けた。
するとお母さんは「はぁ」とため息を吐いてから、
「……そう。なら良いんだけれど」
そう言って、また晩御飯のお料理を始めた。
僕はどうすればいいのかわからなくて、しばらくお母さんの背中を見続けていたのだけれど、でも結局どうすることもできなくて、コウキのところまで行って、ふたり並んでテレビを観ていた。
でも、お母さんの聞いてきたことがどうしても気になって、テレビに集中できなかった。
なんだかドキドキしながら、ずっとテレビを観ていたのだけれど、
「ただいまぁ」
お父さんが帰ってきて、僕はちょっと安心した。
「おかえり! お父さん!」
それなのに、おうちに帰ってきたお父さんは僕の顔をじっと見つめて、
「……勇気、ちょっといいかな」
ネクタイをほどきながら、手招きする。
「え、なに?」
お父さんのところまで行くと、目の前にはあのプラモデルを飾っている棚があって、お父さんはその中から、アリスさんに直してもらったロボットのプラモデルを手に取って、
「……なぁ、勇気。これはいったい、誰のプラモデルなんだ?」
「誰って……お父さんのだよ」
するとお父さんは、少し困ったような顔をして、
「でも、お父さんのプラモデルは、勇気がコウキと一緒に遊んでて、落として壊しちゃったんじゃなかったのか?」
どくん、と胸が痛くなって、僕は慌てて胸に手をあてた。
なんで。どうしてお父さんはそれを知っているの?
だって、プラモデルを壊したのは昨日の朝で、お父さんがお仕事に行ったあとだったし、夕方にはアリスさんに直してもらったんだから、そのことを知ってるはずないのに。
「こ、壊してなんてないよ、ほら、壊れてないでしょ?」
僕はそう言ったけれど、お父さんは「でもね」と言って、そのプラモデルが飾ってあったすぐ下の、もう一つの棚の上に置かれた小さなカケラを指さして、僕は目を見張った。
「これ、解るだろう? このプラモデルの頭の、ちょうどツノのところのカケラなんだ。折れちゃってるだろ? それなのに、今ここに飾ってあったこのプラモデルのツノは欠けてない。なら、この欠けた分のプラモデルはどこに行ったんだって話になるだろ?」
それは確かに僕が落とした時に欠けた、頭の部分のツノのカケラで、だけどアリスさんの魔法で直してもらったプラモデルのツノの部分は綺麗に直ってて。
「なぁ、正直に言いなさい。これは、いったい、誰のプラモデルなんだい? お父さんのプラモデルを壊しちゃったことは怒らないよ。モノっていうのはいずれ必ず壊れてしまうものだからね。それは仕方ない。特に、勇気やコウキみたいにまだ子供がいる中で、こんなところに飾っていたお父さんも悪いんだ。けどね、ヒトサマのモノを勝手に持ってきたりとか、誰か友達に、壊れたことを誤魔化すために借りたりとかするのは違うんじゃないかな」
お父さんの言い方は優しかったけれど、でも、じっと見つめてくるその眼が僕にはすごく怖かった。
「ち、違うよ……」
僕はようやく出た声で言って、首を横に振った。
「それ、本当に、お父さんの、プラモデルなんだ……」
「でも、それならこのカケラは何なんだい? お父さん、同じものをふたつ持ってないんだよ?」
「だって、それは、それは……」
「それは?」
僕は大きく息を吸って、吐いて、気持ちを落ち着かせてから、
「――アリスさんって魔女の人に、直してもらったんだ」
するとお父さんは、「は?」と変な声で言って、それから少し怒ったような顔になって、
「馬鹿なことを言うんじゃない。魔女なんているわけないだろう。そんな嘘を言うような子だったのか? 勇気は」
「う、嘘じゃないよ! 本当だよ! 凛花ちゃんと楸さんが教えてくれたんだ! この町には魔女が住んでて、何でも直してくれるって! だから僕、壊しちゃったお父さんのプラモデルを直してもらいに――」
「馬鹿なことを言うんじゃない!」
突然お父さんが大声で叫んで、僕は怖くてビクンとなった。
お父さんは大きくため息を吐くと、
「あのね、勇気。さっきから言ってるけど、お父さんは壊したことを怒っているわけじゃないんだぞ? それを黙って誤魔化そうとするのは悪いことだって言っているんだ。わかるだろう? それを魔女に直してもらっただなんて嘘までついて、それでお父さんが納得するとでも思っているのか? ふざけるのもいい加減にしなさい!」
「嘘じゃないって言ってるじゃないか!」
「まだそんなことを言うのか!」
僕は怒鳴るお父さんが怖くて、本当のことを言っているのに信じてくれないことが悔しくて、何が何だか解らなくなって。
「もういいよ! お父さんのバカ!」
そう叫んで玄関まで走って、家の外へ飛び出した。