6
公園の中は静かだった。
空はもう暗くなり始めていて、ベンチに座る僕を照らす街灯の光も、すごく弱くて頼りない。
どこをどう走って、僕はここまで来たのだろうか。
この公園に来たことは一度もなくて、すごく心細くて、僕は今にも泣きそうだった。
ううん。本当はもう、泣いていた。
泣きすぎて涙を拭いた袖はぐしょぐしょだし、目の周りがじんわり痛い。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
いったい、何がいけなかったんだろう。
壊れたプラモデルはちゃんと直ったはずなのに、どうしてこんな気持ちにならなきゃいけないの?
僕は本当のことを話しているだけなのに、お父さんは僕の言うことを全然信じてくれなかったし、本当に、どうすればよかったんだろう。
どんなにどんなに考えてみても、僕にはまったくわからなかった。
弟とあんなところで遊ばなければよかった。
そうすれば、お父さんのプラモデルが壊れることだってなかったのに。
なんだか胸がぎゅっとなって、僕はまた泣いてしまいそうだった。
チリチリと、どこからか虫の鳴く声が聞こえてくる。
ぶうんと遠くから聞こえてくるのはたぶん、自動車の走っていく音だろう。
僕はなんだか不安に思いながら辺りを見回した。
公園の周りには沢山の木が植えられていて、それからざわざわと音がする。
砂場に滑り台、誰もいないのに小さく揺れるブランコがすごく怖かった。
風で揺れているだけだとは思うけれど、もしかしたらあそこにはお化けがいるんじゃないかと思うと、足が震えて逃げることもできなかった。
どうしよう、どうすればいいんだろう。
帰りたい。帰りたいけど、帰る道がわからない。
それに、もし帰れてもまたお父さんに怒られちゃうかもしれないと思うと、それも怖くて仕方がなかった。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
僕の眼にまた涙があふれてきて、ひりひりして、息ができなくて。
僕は大きな声で泣こうとして――
「勇気くん!」
どこからか聞き覚えのある声がして、僕は驚いた。
いったい、どこから声がしたんだろう。
僕は公園の出入り口の方に顔を向けてみたけれど、どこにも誰もいなかった。
まさか、と思いながらブランコの方に顔を向けて、でもやっぱり誰もいなくて。
「上だよ。勇気くん」
え、上?
その声に、僕は空を見上げて、
「――あ、えっ?」
真っ暗な空にホウキで浮かぶ、アリスさんの姿に目を見開いた。
アリスさんは水色のひらひらした可愛い服を着ていて、まるでお月様みたいにぼんやり光っているように見えた。その右手には小さく光る何かを持っていて、左手を僕に差し出しながら、
「迎えに来たの。さぁ、帰りましょう、勇気くん」
僕はそんなアリスさんを見上げながら、
「迎えに?」
するとアリスさんは、ゆっくりと僕の方へ降りてきながら、
「真奈ちゃんと凛花ちゃんがね、教えてくれたの。勇気くんが家を飛び出していったみたいだから、探してほしいって」
「でも、なんで……」
アリスさんは小さく溜息を吐くと、少しだけ悲しそうな顔になって、
「勇気くんのお父さんとお母さん、すごく心配してるよ。同級生の子の家に電話したり、あっちこっち探し回ったり。だから、ね? 帰りましょう? 私がおうちまで送ってあげるから」
「送るって、もしかして」
アリスさんは小さく頷くと、
「もちろん、このホウキで、ね」
そう言って、あの優しい微笑みを浮かべたのだった。
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