コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それにしても……と、正平《まさひら》が言った。
あれほど、力が抜けきっていた守孝《もりたか》は、広縁に出たとたん、あっという間に元にもどり、タマと一の姫猫に向かって、おうおう、あやかし共よ、こちらへ。などと、ご機嫌になっている。
その姿に、ああも簡単に、元に戻るものかと、正平は、驚きつつ、紗奈と、笑い合った。
「本当に、正平様が、いらして助かりました。私には、白いなんとか、なんて、思い浮かばないもの」
「いや、とっさのことで。さすがに、中将様を担ぎ上げるのは、いかがなものかと思いましてね。体を、動かせる様でしたので、あのような、でたらめを……」
「でも、兄様を抱き上げられて、正平様、相当な力持ちですね」
紗奈の言葉に、柱にもたれて、汗を拭っている常春が、面目ないと、頭を下げる。それに、正平は、また、いえいえ、私は何もと、一人、焦った。
「……まさか、唐下がりの香だったとは……」
常春が、ポツリと言った。
「ええ、本当に」
「しかし、紗奈様、よくぞ、気が付かれましたな。いや、なぜ、御存じだったのですか?」
「あー、それは……。タマが……」
正平に問われ、紗奈は言いいかけたが、はたと、気がつく。
「タマ!なんで、ここにいるのです!」
守孝に、うるさいからと、追い払われたはず。
「えーとー、牛飼いの人に助けられて」
「ん?どういうこと?」
あの時、牛車《くるま》から、追い出されたタマは、勢い、転がった。それを見た、牛車のお付き、牛飼いが、あやまって落ちたと勘違いしたらしく、拾い上げてくてれたのだとか。
そして、懐に入れてもらい、そのまま、こちらの屋敷についてきた。
「いやー、おお、子犬が、落ちたぞ!って、拾い上げてもらった時は、うっかり、喋りそうになってー、慌てましたよー!」
とりあえず、驚かしてはいけないと、犬の振りをして、わんわん、言っていたらしいが。
「なら、ずっと、犬の振りをしてたら?皆、驚かないし、わんわん、言ってたら、可愛らしいのに」
「でも、それじゃー、上野様は、タマから、逃げちゃうでしょ?犬嫌いなんだからー」
と、屁理屈で返してくる。
「え?!紗奈様も、犬が苦手!」
奇遇ですなぁ、実は、私もと、正平が、頭をかきながら言った。
「ん??じゃー、さっきの、タマや、タマや、ってーのは、なんだったんですかっ?!」
「あー、あやかし、と、犬は、違うので」
そうそう、と、紗奈が正平を追った。
「やだなあー、もう、二人とも。すっかり、出来上がっちゃってんだもん」
ん???
と、正平と紗奈は、顔を見合わせた。
出来上がっちゃってる、と、言われても、酒を嗜んだのは、守孝だけだ。
「……タマよ、できている、と、言いたいのだろうが、では、聞かせてもらおう!お前達こそ、なんだ!」
「あ、兄様?!」
紗奈は、常春の、いきなりの剣幕に驚きつつ、兄が、指し示す、タマの隣を見た。
「確かに!!タマ!!なんで、一の姫猫と、べったり寄り添ってるのよーー!!」
確か、一の姫猫が、手に終えないと、常春に助けを求めて来たはずで、それが、今は……。
「え、えっと、そ、それは」
タマと、一の姫猫は、モジモジしながら、うつ向いた。
「まあまあ、人の恋路に、口をはさむでない。……ん?人ではなく、あやかし、いや、タマと、猫だから……ん?あやかしと獣になるのか?」
守孝は、首をかしげているが、紗奈が、あーー!と、声を上げた。
「守孝様!なんで、その猫が、猫だって、知ってるんですか?!つい先ほどまで、白い毛がふわふわ、じゃと!!喜んでいたじゃないですかっ!!」
「あっ、それは、正気に戻って、よく見てみるとだなあ、猫じゃないか?と、思い……。あー、わかった、わかった、降参だ!!この猫は、小上臈《こじょうろう》様からの贈り物だよ。こちらの姫君の、入内祝いとして……」
「えっ?でも、猫ちゃんは、守近様からの贈り物だって、言っていたみたいですよ?」
「はあ、紗奈や、お前、いや、お前達兄妹《きょうだい》は、どこまで知ってるのだい?」
隠していたことが、バレていたのかとばかりに、守孝は、渋い顔をした。