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ぴちゃん、ぴちゃんと倉庫内の何処かにある水たまりに水が跳ねる音だけが倉庫の中に響いていた。
「本当にここであってるの?」
「お前まで俺を疑うのかよ。合ってる。どうせ、防音魔法でも使ってるんだろう。だが、こっちの声は聞えるだろうから注意しろよ」
「分かった……ひぃい!」
「おい、言ったそばから!」
足下をチュチュっとネズミが走って、私は思わず悲鳴を上げてしまった。声を上げるなと言われてもいきなりネズミが足下を走ったんじゃ悲鳴を上げても仕方がないだろうとアルベドを見た。アルベドは、私を思いっきり睨み付けていたけど、これは私は悪くないと言いたい。
(それにしても、防音魔法か……魔法って本当に便利ね)
この世界の魔法はイメージ力さえあれば、それを具現化できるため、基本的に何でも出来るのだろう。そりゃ、魔力も必要となってくるけれど、魔力があればあるほど、イメージ力が強ければ強いほどより強い魔法を発動させることが出来る。そして、心の強さもまた、魔法に直結してくる。
防音魔法によってこちらの声は聞えるが、自分たちの声は聞えなくしているんだろうとアルベドは言ったが、他にもこの暗闇の中に姿を隠せるような魔法もかけているんじゃないかと思う。照明は一つもついていなし、倉庫の中は扉の光がなかったら本当に何も見えなかっただろう。
「もういっそ、全焼させちゃった方が早いんじゃないかな」
「お前、怖いこと言うな。そしたら、お前の大切な奴も黒焦げだろ」
「でも、見張りとかもいるだろうし、いざとなったら逃げ出せるようにってトワイライトを転移できる魔道士がいるんじゃ無い?」
「そうかもしれねえけど、ここを全焼させられるほどの魔力が、帰りの転移魔法の魔力分も考えて残るのかよ」
「うぅ、それは……」
「んな、物騒な柵じゃなくてもっと頭を使え」
と、アルベドに怒られてしまった。
確かに考えが足りなかったことも認めるし、もしかしたらトワイライトまで傷つけてしまうかも知れないって事は分かっていた。でも、こんな暗いんじゃどうしようもないと思ってしまったのだ。光があった方がいいけど、そしたら私達がここにいるよって伝えることになるだろうし。
一体どうすれば良いのか分からなかった。
「つか、エトワールはどうしてあんな所にいたんだよ。俺は、ヘウンデウン教の奴らを追っていた時にたまたまお前を見つけただけで」
「……ちょっと迷子になってたの」
私はわざと言葉を濁した。
偽物聖女だって言われたことを彼に聞かれて思いだしてしまったからだ。自分があれ以上責められるのが耐えられなくなってあの場から抜け出すために右も左も見ずに走っていたら迷子になってしまって。
それで迷惑をかけた結果、トワイライトがさらわれてしまって。あの人達の中にヘウンデウン教のものが混ざっていたんじゃないかと今になって疑ってしまう。でも、人を疑っては災厄の影響を受けていると言うことになるし、促進させてしまうだろうから、考えないことにした。どちらにしても、誰から言われたとしても言われたことが消えるわけじゃないし。
そんな風にアルベドに伝えると、ガキかよ。と冷たく返された。
(ガキで悪かったわね)
と、心の中でアルベドを睨み殴りつつ、私は彼の紅蓮の髪と同じ髪色のヴィのことを思い出した。
「でも、親切な人が道案内をしてくれて」
「お前を道案内してくれる奴なんているのかよ」
「酷すぎない!? ねえ、私アンタになんかした!?」
「え、エトワール様、声がデカいです」
と、アルバに宥められてしまう。
アルベドは、よく私をからかってくるが、今日はからかうというか馬鹿にするというかいつもより酷いと思った。まあ、トワイライトを救出するためにわざわざ付合ってもらっている身、何も言えないけど。
「いたわよ。アンタと同じ紅蓮の髪のヴィって男の人!」
「ヴィ? 俺と同じ髪色か?」
「そうよ。でも、アンタが後から現われて、アンタの髪の方が綺麗だって思った。何というかくすんでいない綺麗な紅蓮。私、アンタの髪が好きだから」
そう私が言うと、アルベドは黙り込んでしまった。
(待って、何言ってるの私!?)
後から自分の言った言葉を思い出して、バッと口を塞いだ。でも、もうアルベドにもアルバにもグランツにもその言葉は聞えていたようで、アルバはあわあわと口を開閉させていた。これはきっと誤解されたなと、後から弁解しようと思った。でも、まず、アルベドに違うという意思だけを伝えようと口を開く。
「アンタの髪が好きってだけだから、アンタの事が好きッてわけじゃないから!」
「あーあー、分かったよ。で、そいつ……ヴィだっけ? 俺と似てるって言ってたよな」
「でも、アンタと違って物腰柔らかっ手感じだったし、平民っぽい服着てたというか、貴族っぽさはなかったわよ」
「あっそ」
「それだけ?」
「それだけだ」
アルベドは他に何か聞いてくることもなく、手のひらに魔力をためて、何かを待っているようだった。まあ、アルベドが他人に興味を示す方が珍しいので、流されても仕方がないことだと思った。ここで話が弾むとは思っていなかったし。
「俺が追ってたのは、ラヴァインだ。彼奴は、どうやらヘウンデウン教の幹部になったらしくてな。まあ、ラヴァイン本人じゃなくて、其奴の部下か」
「弟さん……ラヴァイン」
「その事をこの間報告しに来たんだよ」
と、アルベドはハンッと鼻で笑った。
弟がその事を報告するためにレイ公爵家に戻ってきたという事実を知り、私はアルベドがその時無事だったのか気になってしまった。仲が悪いと言っていたし、暗殺者を送ってくるような弟だから、帰ってきたと同時に何かアルベドに仕掛けてきたんじゃないかって。
私がそう気になっていると、アルベドは全て察したように、何もなかったと言った。
「まあ、ほんとただの挨拶に帰ってきただけだったからな。何もしてこなかったな……珍しく。だが、幹部になったと言う報告と、俺に宣戦布告してきやがった。爵位も、俺の全てを奪うってな」
そういって、アルベドは忌々しそうに奥歯をギリッと鳴らした。
矢っ張り彼にとって、ラヴァインは弟じゃないんだなと改めて思った。兄弟なのに、殺し合わないといけないなんて本当に酷いと。でも、私が口を挟める問題じゃないし、アルベドもそれをよしとしないだろうから。
でも、ヘウンデウン教には階級があって、その患部ときたら、ゲームで言う四天王みたいなものなのではないかと思った。中ボス。いつか、ヘウンデウン教と直接対決になった時、彼らと戦う羽目になりそうだと私は思った。
(ヘウンデウン教が活発に動いているって事は、災厄が本当に始まるのも早いんじゃ……)
このままでは、いけない気がして、何か対策を取るべきだろうと私は考えた。まずは、トワイライトを救出するのが先だが。
「それで、アンタは爵位を譲る気はあるの?」
「あるわけねえだろ。俺の夢のためにも、譲れねえ。それに、彼奴に爵位が渡れば、公爵家は没落するだろうな。後、俺は邪魔だって殺されるだろうし」
「アンタにも夢があるの?」
と、私は悪気なく聞くと、彼はもの凄い見幕で私を睨み付けてきた。
「ご、ごめん、そりゃ、夢の一つや二つあるよね。男だし」
「男でなくても夢はあるだろ……まあ、いつ叶うか分からねえし、俺一人で叶えられるもんじゃねえけどな」
「そう」
アルベドの夢とは何か分からなかったし、もしかしたらあの星流祭でその夢について星栞に書いたのかも知れない。それを見られなく無かったから、恥ずかしかったから私に教えてくれなかったのか元今になって思った。
彼にも夢があるんだと。大きな夢が。
(私の夢って何だろう)
と、ふと思った。ここから脱出できるか分からないし、誰かを攻略してその人と添い遂げないといけないかも知れない。けれど、まだ、添い遂げるとか恋とか考えられなくて、逃げている気がする。
だから、夢とかそう言う前に、私が何をしたいのかよく分かっていないのだ。
そんなことを考えていると、足音のようなものが聞え、私はバット顔を上げた。暗闇の中で誰かが動いているような気がしたのだ。
「誰かいる?」
「そうだな、彼奴でもとっ捕まえて聞いてみるか」
と、アルベドは手のひらにためていた魔力をその動いた何かに向かって放った。緑色の風がその何かに命中し、ぐはっと人間の悲鳴らしきものが倉庫内に響いた。
(まって、矢っ張り慎重に行くとかいって嘘ついてるよね)