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京都のはずれ、住宅街のど真ん中にぽつんと建つコンビニがあった。
名前はどこにでもある感じの「ミナミマート東雲店」。
だがこの店には、ひとつだけ“どうにでもならない噂”があった。
「深夜二時三十三分、レジに並ぶと、幽霊が先に会計している」
――らしい。
高校二年の蓮は、そんな噂を鼻で笑っていた。
だって、幽霊が買い物? なにそれ、現代的すぎるだろ。
その夜、テスト勉強から逃げ出した蓮は、眠気覚ましのエナジードリンクを買いにそのコンビニへ向かった。
時刻は二時三十二分。
「……まあ、ちょうどいいか」
どうせなら噂の時間をまたいでやろうじゃないか。
自動ドアが開く。
いつも通りの蛍光灯。
いつも通りの店員、山本さん(夜勤歴七年、目の下にクマ二匹)。
そして――
レジの前に、誰か立っていた。
白いパーカー、ゆるいジーンズ。
背中がうっすら透けている。
「……え」
蓮は思わず固まった。
幽霊は、普通にカゴを持っていた。中身はプリン三つとおでん(大根多め)。
「袋はご利用になりますか?」
山本さんが淡々と聞く。
「いえ、エコで」
幽霊が答えた。声は普通だった。めちゃくちゃ普通だった。
ピッ、ピッ、とバーコード音が鳴る。
そして幽霊はポケットから――
ポイントカードを出した。
「……あるんかい」
蓮は思わず声に出した。
幽霊が振り向いた。
目が合う。
「あ、見えてる人だ」
「え、あ、はい」
「珍しいね。だいたいみんなスマホしか見てないから」
幽霊はそう言って、少し笑った。ちゃんと影はないのに、笑顔だけはやけにくっきりしていた。
「えっと……なんで、買い物?」
「いや、普通にお腹すくよ? こっち側でも」
「こっち側」
「まあ、あの世とこの世のあいだ、みたいな」
幽霊は会計を済ませると、レシートをじっと見つめた。
「またポイント失効してる……」
「期限あるんですか!?」
「あるんだよ……死んでも逃げられない、ポイントの有効期限」
なんだそれ。地味にリアルすぎる。
蓮は勇気を出して聞いた。
「……成仏、とかは?」
「うーん、たぶん未練かなあ」
「未練?」
幽霊はおでんの袋をゆらしながら、少し考える顔をした。
「三年かけて貯めたポイント、あと三百でスイーツ無料券だったんだよね」
「スケール小さ!」
「小さい? でも三年だよ?」
言われてみれば、重い。
妙に重い。
「君、ポイント余ってない?」
「いや、まあ……あるけど」
「合算しよ」
「できるの!?」
山本さんがぼそっと言う。
「できますよ、家族扱いにすれば」
「なんで慣れてるんですか」
結局、蓮は三百ポイントを幽霊に分けた。
コンビニ幽霊はポイントカードを持っている
レジの画面に「無料スイーツ券 発行」と表示される。
その瞬間、店内の蛍光灯が一瞬だけふっと明るくなった。
幽霊は券を握りしめ、満足そうに笑った。
「ありがとう。これで心置きなくいける」
「どこに?」
「たぶん、次のコンビニ」
「え?」
次の瞬間、幽霊の姿はふっと消えた。
床には、ほんのり甘いプリンの匂いだけが残る。
山本さんがレジを閉めながら言った。
「彼、たまに戻ってきますよ」
「え」
「新商品チェックしに」
蓮は深く息をついた。
それ以来、蓮は深夜二時三十三分にたまにコンビニへ行く。
幽霊は現れる日もあれば、現れない日もある。
でももしレジ横に、誰もいないのにスイーツ券が置いてあったら――
それはきっと、「次の未練」が始まった合図なのだ。