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りんご
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#⃣悪役令嬢の中の人
#⃣ソーン夢
「俺と結婚してほしいです。」
見慣れた店内、嗅ぎ慣れた薬の香り。
そんな日常に包まれたいつも通りのお店の中で、店主 ソーンさんの手伝いをしていると、突然彼はそう言った 。
「…店主でもご冗談を言うのね。」
「なにを言いますか。俺は至って真剣ですよ。」
からかわれていると思って軽く流してみたけれど、どうやらそんな話ではないようだ。
「今まで誰に何を言われても靡かなかったではないですか!?」
「うーん、まあ、そうですけど。」
バツが悪そうに目を逸らして言う。
「ただ、あの親善パーティでの魔王様達を見てからさ…」
「…ああ!あの悪魔の!」
「怖かったですよね〜、でも魔王様の告白は素敵でしたわ♡」
「レミリア様も美しいったら!あの悪魔とは大違い。」
「ええ 本当に。おふたりとも本当に美しかったな…」
「って、そうじゃなくて、あの夜会から俺は決心してたんです。あなたと一緒になりたいなって。」
「ソーンさん…?」
声が出そうなほど美しくて優しい、真っ黒な瞳。まっすぐに見つめられて思わずたじろぐ。
「人から愛されることはそんな簡単なことではない。ましてや俺たち魔族は、今まで愛されることを知らずに生きてきましたから。」
「レミリア様や魔王様のおかげで俺たちも堂々と町に出られるようになって、そこで貴方と出会った。 」
「きっと俺は、その時点で君が好きだったんだろう。」
「貴方のような可愛らしい人を初めて見たから。」
落ち着くトーンで話す彼に見とれてしまう。
「俺は恋なんて経験したことがないから全く自覚はなかったんですけどね。でも、あの夜会で魔王様たちを見たとき、衝撃を受けたんだ。」
「ああこの人達は、『人を愛する』ということをよく知っているのだな、ってね。」
「俺が感じただけなので真偽は分かりませんが。」
「きっとレミリア様にも魔王様にも、命ほど、いや それ以上に大切な存在があるんだなって感じた。」
「それが本当に素敵で美しくて…でも命にかえても守りたいほど好きになる相手なんてそうそう見つからないぞ、と考えたら なぜか頭に貴方が浮かんできました。」
「ただ 一生懸命に生きて 楽しそうに過ごして 些細なことでたくさん笑う貴方がとても愛おしく思えたんです。」
「俺はレミリア様のように肝が据わってるわけでもないし、魔王様のように強いわけでもないから、貴方を真に幸せにできるか まだわからないけれど」
「でも、それでも、貴方と一生を
過ごしたいと そう思いました。」
「だから、あの…俺と、恋仲になってほしい。」
「…うふふ。先程は結婚と仰っていませんでした?」
「う、それは…ちょっと早とちりすぎたかなと…」
「あははっ、店主さんでも焦ることがあるのですね。なんだかかわいいわ。」
「ちょっと、やめてくださいよ。」
ああ、なんて なんて素敵な人なんだろう。なんて、愛おしい人なんだろう。
貴方に一目惚れしたのはわたしも一緒なのよ。それどころか、きっと貴方より私のほうが先に好きだったように思えるわ。
わたしも幸せそうな顔をする貴方がたまらなく好きなの。貴方と一緒になりたいって何度思ったか。
どうしよう。言葉があふれて止まらない。だってあんまり嬉しくて、泣いちゃいそうなのよ。
「嬉しいわソーンさん。わたしもっ…貴方のことが世界一好きよ!」
「貴方に愛される資格があるかは不安だけれど、私は貴方を一生幸せにしたいの。もちろん、貴方にも幸せにしてほしいわ。」
「私ね、私もね、貴方のことだあいすきなの。出会ったときからずっとよ。今では貴方の全てを飲み込んでしまいたいほど 愛おしいの。」
「だって貴方、とっても優しい目をするんだもの。」
嬉しくなってまくしたててしまった。オニキスのような美しい瞳に自分が写っているのを見て、夢じゃなくて現実であることをすこしだけわからせてくれた気がする。
「…わかっていると思うけど、一応。」
「俺は貴方と違って魔族であり、寿命も見た目も何もかも違うんだ。」
「それでも俺でいいと、俺の隣にいたいと言ってくださいますか?」
そんなふうに言わないで。私、魔族である貴方のこと、すごく好きなのに。
「当たり前ではないですか。私はもう貴方以外考えられないの。」
「それにね、レミリア様が言ってたのよ。魔族も人間ももとは同じだって。」
「たとえ見た目が違っても寿命が違っても、さして大きな障壁ではありませんことよ。」
「私と貴方は心で通じ合えるもの!」
心からの本心だった。貴方は、貴方だけは、自分のことをそんなふうに言わないでほしかった。
傷つけられたぶん愛されるべきひとだと、そう思うから。
「どう、して、そんなことを言ってくださるのですか。」
「…貴方を幸せにできないかもしれないのに…」
「いいの、いいのよ。貴方といられることだけが私の幸せだもの。そんなに悲しい顔をしないでちょうだい。」
眉を下げて苦しそうに呟く貴方の顔に影が落ちた。
「面を上げて。ほら、とても綺麗な顔よ。泣きそうな顔をしていてはもったいないわ。」
「…ッ…貴方って人はッ…」
「ソーンさん…大丈夫、大丈夫なの。きっと平和よ。2人ならもっとね。」
この人は…ずっと苦しんで生きてきたんだろう。
ソーンさんの過去にあったことは聞いていた。私は人間だから、聞いたときソーンさんに共感してあげられなかったの。でも、人に話して解消されるようなものではなかったことはよくわかっている。
彼を強く抱き締めた。そうすることで、少しでも彼の心が軽くなるのなら、って思ったから。
どうかこの人がたくさんの恩恵に与ることを願う。
だってあまりにもひどいわ。私ではその傷を埋めてあげられないのも、すごく悔しい。
「ソーンさん、忘れろなんて言わないわ。」
「でもね、きっと私が貴方に幸せをあげるから…貴方はずっと笑っていて。」
「辛いときも悲しいときもずっとそばにいるから、笑っていてね。」
「…貴方は優しすぎます。」
「うふふ、貴方にだけよ。」
「ああ…なんて可愛い。暗い話にしてごめんなさい。俺はやっぱり、貴方と一緒にいたい。」
「私もよ。……ねえ。」
ソーンさんをぎゅっと抱きしめて、顔を近づけた。
「私のこと、世界一幸せなお姫様にしてくださる?」
「……ははっ、当然です。俺が絶対にそうしてみせます。」
とある国の王宮の庭園で、ひとりの聖女と魔国の魔王が婚約しキスをしたという伝説がある。
その光景はさぞ美しかったそうな。
名は「聖女レミリア」と「魔王アンヘル」。
「…きれいね。だれよりも。」
「貴方こそ、この世の誰より美しい。」
また、とある国の商店でも、ひとりの貴族令嬢と魔族の店主が笑ってキスする光景が見受けられたようです。
それは名も無き平凡な市民たちでした。
ああでも、
国一番の幸せな笑顔ですこと。
「「2人のこれからに幸多からんことを。」」