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——焔の仲間に、新しく山賊・片橋五朗が加わった。


ソフィアはスキルの確認をしたり出来る魔導書であり、リアンは召喚された召喚魔なので、実質初めてのパーティーメンバーと言えよう。決して仲間として理想的とはいえない存在だが、正直焔にとっては五朗が居ても居なくても現状のままで魔王は倒せるだろうと思っているので、彼の職業が山賊だろうが何だろうがどうでもよかった。 なので焔が五朗を仲間に受け入れる事自体問題は無い。無いのだが……ソフィアだけは先程の発言への返答に困っていた。


(け、結婚?交際?……仲間なだけでは駄目なのですか?これって、ワタクシは『嫌です』と言っていいのでしょうか?)


恋愛事なんぞ自分とは無関係な世界の出来事と思っていた彼は困惑を隠せない。反対意見を出せば主人の決定に対し水を差す結果になるかもと考え、黙ったままコメントは控えている。複雑な心境ではあるが、表面的には何も変化していないので、その事は本人にしかわかっていなかった。

「さてと、じゃあ一旦拠点に戻るか」

「そうですね」

焔の提案をリアンが素直に受け入れる。五朗が対物性愛者であるおかげで焔に惚れる心配が無いので、仲間になろうがこのまま別れようがどうでもいい為、リアンはニッコリと笑って答えることが出来た。彼が対物性愛者でなければ、確実にリアンは、邪魔者になるかもしれない五朗の存在を全力で追い払っていただろう。 恋愛物語にライバルの登場は鉄板だから早めの対応が望ましいからだ。

恋敵は殺してでも追い払う。

そのくらい焔に惚れていると自負出来るまでに至ったリアンの前に突如現れた五朗の、惚れた相手が焔ではなくて本当に良かった。そうでなければ今頃カバール村は乱闘に巻き込まれて大惨事になっていただろう。

「了解っす!」

言いたい事を言ってスッキリした五朗もハキハキと返事をし、敬礼みたいな仕草をする。この様子だと、モヤッとした気持ちでいるのはどうやらソフィアだけのようだ。


(ワタクシに惚れただ何だと言う者が仲間に居てもいいのでしょうか?色恋沙汰は、集団行動時では何かと面倒事の原因になったりもしますのに。でも……そういえば……リアン様は随分と主人に近いような……あれ?)


前に見た、リアンのページにあった『好感度』の存在を思い出し、ソフィアが状況を全て鑑みる。そしてようやく彼は、この世界はもしかして……クラフト系冒険RPGの世界では無く、恋愛シミュレーションゲームの世界なのでは⁉︎——と、思い至った。 そうだとわかった瞬間、焔とリアンの様子が今までとは一気に違って見えてきた。 やたらと二人の距離が近く、リアンはベタベタと焔の事を触っている。村を出ようとしている今この瞬間もリアンは主人の腰を抱いていて、焔は歩きにくくて迷惑そうなのだが、抵抗まではしていない。


(——こ、こ、この二人、もうデキていますね⁉︎)


恋人同士のような微妙に甘ったるい空気を察し、ソフィアがそっと焔達から距離を取った。すると背後には五朗が立っていて、四面楚歌みたいな気分に。

「また二人になりましたね、うへへっ」

そっと寄り掛かるみたいにして、宙に浮いているソフィアに対して五朗が近づいて来た。 笑い声がハッキリ言って気持ち悪いし、必死に洗ってもらったにも関わらずまだちょっと臭う気がする。滅多に風呂には入れず、日々の汚れの大半は川で洗った程度だったせいで長年染み付いてしまった体の臭いはそう簡単に取れないものなのだなぁと、ソフィアは綺麗な青空を見上げながらちょっと思った。


(そういえば、オウガノミコト様は人様の恋愛事に関わるのがお好きな方ですよねぇ……)


縁結びで有名な神社の主神である主人の姿を、空の青色に重ねる。 どこまでがお狐様な方の主人の作為的行為なのかは不明だが、どうやらソフィアは、現状をありのまま受け入れるしかなさそうだ。




「——お待たせしました。では、拠点へ戻りましょうか」

村の出入り口に立っている焔に対し、リアンが小走りになって駆け寄る。『ちょっと大事な用件を思い出したので、少し此処で待っていて下さい』と言ってリアンが二人と一冊から離れて行ったのは、つい十分程前の事だ。

「もういいのか?」

「はい。今済ませておけそうな用事は、全て終わりましたので」

焔に対してそう答えたリアンの手には革製の手綱が握られており、後ろには世紀末覇者でも乗せていそうな厳つい風貌をした黒毛の馬が一頭居た。

「……馬を買って来たのか?」

馬なんて安くはないだろうに、わざわざどうして?と焔が思う。変化の出来るリアンが移動手段にもなれるので余計にだった。


「はい。仄かに臭う五朗を、私の背には乗せたくはありませんので」


ニコニコとした笑顔でリアンは酷い事をさらっと言った。

例え臭くなくても絶対に乗せたくない。自分の体に跨っていいのは、昼でも夜でも焔だけだともう決めているリアンは、昨日ソフィアから受け取った所持金の残り全てを注ぎ込んで馬を購入して来たのだ。

『あ、わかります。戻ったら半日くらい体を磨き続けて欲しいくらいですよね』

「二人とも、なかなかに手厳しいっすね……」

でも事実なので反論は出来ない。中途半端にリアルな仕様を五朗は恨みたくなった。


「ではどうぞ。この子を移動にお使い下さい」と言って、リアンが五郎へ馬の手綱を渡す。

乗り方も知らない五朗は手綱を受け取っても動揺しか出来なかったが、そんな事はリアンの知った事ではなかった。

「え?……あ、あの、『前に進むには何ボタンを押す』とかはないんっすか⁉︎」

『この子はロボットでもプログラムで動くキャラクターでもないのですから、そんな物はありませんよ』

「ゲームシステム基準の世界なのにぃぃぃぃ!」

画面越しの仮想現実でしか乗馬経験の無い五朗はそう叫び、うるせぇと言いたげな黒馬に頭突きされたのであった。



木陰に隠れ、リアンが体を変化へんげのスキルを使って巨大な漆黒の妖狐へと変える。ピンッと尖った耳の後ろから大きくて真っ黒な角が生えているせいか、五朗が「わぁ、リアンさんその姿になると、妖狐っちゅーよりも、まるで悪魔っすね。ってか、なんかめっちゃ最終ボスっぽいっす」と言った。

無駄に的確な表現のせいでリアンの心臓がバクンッと跳ねる。でも体や表情に動揺をみせなかった為、彼の心境を察した者はいない。

「……言われてみれば、そうかもな」

リアンのもふもふとした首元を撫でながら、妖狐の青い瞳に焔が顔を近づける。

まさかモブ職の山賊程度に魔王である事を見破られ、こんなくだらない流れで正体がバレてしまうのか?と思うと気が気じゃないリアンは、スッと目を細めて「まさか!」と笑ってみせた。


「そうだよな。こんな場所に魔王なんかが居たら、今頃この世界はパニック状態だ」


キーラ達が隠蔽しているおかげで魔族間のみではあるが、すでに十分パニックになっている。だが人間達でその事に気が付いている者はまだおらず、アホ面を並べて勇者の卵の来訪を今か今かと待っているままだ。


「召喚士レベル1だった俺に呼ばれる程、魔王も暇人じゃないだろうしな」


あれには正直かなり驚いた。でも、『お飾りだったので暇人でしたよ……』——とは当然言えず、「そうですね、えぇ」とリアンは笑って答えながら地べたを這う様な体勢になって焔が自分の背へ乗るように促した。

「よっと」と言いながら焔はリアンの背に跨ると、背後から首に抱き付き、スリッと顔を擦り付けた。

「では行きましょう!今すぐ、帰って即ベッドへ——」とまで言って、ベシンッと焔に頭を叩かれた。もふもふで素敵な姿であろうが、調子に乗るのだけは許してもらえないみたいだ。

「ソフィア」

『はい、主人』

「お前は馬に乗った経験はあるのか?」

『ご冗談を。そんな事をしていたら、周囲から驚愕されてしまいますよ』

小さな日本人形が乗馬をしている姿を想像し、その滑稽さで三人が吹き出す。洋書の状態であろうともそれは変わらず、焔は「すまん」と短く謝った。

「じゃあ、匂いを追って着いて行く様にその子に伝えますから、五朗はしっかりと彼の背中に捕まっていて下さい。ソフィアさんは万が一の時の為のナビゲート役として、彼と一緒に居てあげてもらえませんか?」

『了解しました。お任せ下さい』

焔達に向かって胸を張るみたいな角度になり、ソフィアが任を受ける。

リアンが黒馬と何やら互いにしかわからぬやり取りをし、頷きあった。どうやら伝達が無事に済んだ様だ。

「あとは、まぁ慣れろ。頑張れ」と、他人事みたいに焔が五朗に言う。

「丸投げっすか……まぁ、はい。何とかやってみますけども」

ぶっつけ本番でいきなり馬に乗れる自信なんかまるで無いが、乗らねばパーティーの拠点には戻れないのだと五朗が覚悟を決める。 その様子を見て満足気にリアンは微笑むと、「では、後程拠点でお会いしましょう」と言って、彼は焔を掻っ攫うみたいに駆け出して行き、その姿は一瞬のうちに五朗とソフィアの視界から消えてしまった。

「——は、早っ!」


(リアン様ったら、早々に主人と二人きりになりたかったのですねぇ……)


ソフィアはちょっとだけ疎外感を抱いたが、今はそれ以上の問題が隣にある為、すぐに気持ちを切り替えた。

『では、ワタクシ達も出発しますか』

「そっすね!」

諦めの境地に達した五朗が元気に答える。そんな彼をソフィアは念動力で持ち上げ、「うおっ⁉︎何すかこれ!ソフィアさん?ソフィアさんがやってるんすか?そうなんすよね?マジっすか?スゲェェェェェ!」と叫ぶ五朗を馬の背に装着されている鞍に乗せた。

『はいはい、五月蝿いですよー。馬の側で大きな声は禁物です。元の世界でしたら、驚いた馬に蹴られてとっくに死んでいますよ?』

「流石は異世界!肝の座った馬で助かったぁぁ」

でも念の為に小声でそう言い、手綱を握る。乗り方なんかさっぱりわからないままだが、背筋を正してそれっぽい体勢にはなってみた。でも、それだけでなんだか馬に乗れる様な気がしてくるから不思議だ。

『拠点までは百キロくらいはありますから、到着は明日になりますね。今夜は途中で野宿となりますが、問題無いですよね?』

「慣れてるっす!」

ぐっと親指を立てて、五朗が清々しい笑顔をソフィアに向ける。

『では、出発しましょうか。ところで、拠点に向かう前に何か回収しておきたい個人的な持ち物はあったりしますか?あるなら、置き場所へ先に立ち寄りますけど』

「無いっす!いっつもその日暮らしだったので、簡易テントも何もかも、荷物の中に全て放り込んでありますからね」

『わかりました。では行きますよ』とソフィアが言った言葉を合図に、黒馬が常走で無理なく走り出す。五朗は緊張で手汗をかきながらも、無駄に驚いたりはせず、そのまま身を任せた。


『…… 一つ訊いても?』

拠点に向かって走る黒馬と並走する様にして飛ぶソフィアが、顔が少し強張っている五朗へ声を掛けた。森の中は道らしい道などは無く、真っ直ぐには進む事が出来ず、縫う様に進んでいる。

「はいはい、何っすか?」

『貴方は、どこまで、ワタクシについての話を信じているのです?』

「話……っすか?あぁ、日本人形だってやつか。ソレなら、全部っすよ、全部」

『突拍子も無い話だとは、思わないのですね』

「だって、既に自分、三年間近くも異世界転移なんかしちゃってるんすよ?美しい洋書なソフィアさんが、元の世界では日本人形の付喪神だとか言われたって全部信じますって」

揺れるせいでズレる眼鏡を指で直し、キリッとした顔で五朗が断言する。

「あの召喚士な主人……さん?あれ、名前なんでしたっけ?」

『ワタクシからはお教え出来ませんよ。知りたいのなら、主人に直接訊いて下さい。……まぁ、聞き出すのは無理だと思いますけどね』


「マジっすか。自分信頼されてないってオチっすか。んでもなぁ……山賊相手っすもんねぇ。自分的には、主人さんって裏表無くって信じられるタイプっぽいなぁ思っているんすけど」


ソフィアに案内され、焔の前に初めて立った瞬間を五朗が思い出す。

山賊という職業の仕様で初対面の彼に対して『オラァァ、金を出せぇ』をやってしまった瞬間、五朗は本気で死を覚悟した。ソフィアが瞬時に横へ体を引っ張ってくれたおかげで九死に一生を得たが、あの時焔が纏った殺気は今思い出しただけでも背筋が凍る。


「あー……でも、リアンさんはどこまで信じていいのか、個人的にはちょっとわかんないっすけどねぇ」


そうこぼした五朗の言葉は、小さな独り言だった事もあってかソフィアの耳には届かなかった。

いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

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