テラーノベル
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俺は追放され、一人寂しく歩いていた。
ふと、空を見上げる。
青く澄んだ空は、俺を全てのしがらみから解放してくれたようだった。
(……自由に生きていい)
きっと、そういうことだ。
家事スキルなんてゴミスキルが、魔物や魔王を倒すのに役立つとは思えない。
(もう戦わなくていいんだ)
そう思うと自然と笑みがこぼれた。
前を向くと、突然建物から女の子が飛び出してきた。建物には武器のマークの看板が付いている。
「ゴホッ、ゲホッ! 誰か、助けてぇぇっ!」
(なんだ……!?)
オレンジ色のストレートヘアを揺らしながら、俺に向かって一直線に走ってくる。
(は、待って!?)
気づいた時には遅かった。
そのまま押し倒され、地面にぶつかる。
(今度は頭を守れた……! セ、セーフ……!)
……じゃない。
いや、これは大ピンチだ。
ぼよん!
柔らかい感触が胸に当たり、大きな胸が視界を遮る。
「助けてっ、お兄さん……!」
(……うおっ!? やわらっ……、いや待て、落ち着け俺。健全な男として反応しそうになってるけど、初対面の女の子だぞ!?)
俺は必死にポーカーフェイスを作り、視線をスッと横に逸らした。
「あー……とりあえず、どいてもらっていいっすか」
俺は目の前のおっぱ……いや、女の子に話しかける。
「どうしたんっすか?そんなに慌てて」
すると、彼女は涙目でこちらを向いた。
「ふぇっ……ぇっ……お店の中に魔物の瘴気が……っ、息がっ……」
「魔王の……?」
顔をしかめて返す。
「そうなのっ、本当に酷くてぶあっくっしょーーーーんっ!!!」
大きなくしゃみをして、飛沫が俺の顔に飛び散る。
(……勘弁してくれないか)
「ふぁぁ、ご、ごめんなさい……」
(そんな泣きそうな顔で見つめられたら、何も言えないだろ……)
俺は呆れた顔のまま返した。
「その場所に案内してくれないっすか」
女の子の顔が、ぱぁっと明るくなった。
――
「……ここだよ」
案内されたのは、先ほど女の子が出てきた武器屋だった。長い歴史を感じさせる建物だ。
(魔物が出てきたら、俺じゃ何もできないんだけどな)
恐る恐る扉に手をかける。震える手に力をこめ、重い扉を開けた。
「こ、これは……」
目の前に広がったのは、視界が白く濁るほどのハウスダスト。
壁にかけられた剣には埃が積もっていて、床には埃と髪の毛が絡まった物が落ちている。
「……は? なんだ、このホコリの量は」
「あああっ! 瘴気が濃すぎて目が、くしゃみが……くしゅんっ!」
彼女の方を向くと、また大きなくしゃみをしていた。
「掃除を最後にしたのはいつなんすか?」
「え……掃除?」
「……は!!??」
(う、嘘だろ)
彼女は少しだけ顔を赤くして目を逸らした。
モジモジしながら、僅かに聞こえる程度の声で話す。
「掃除、苦手で……」
「苦手で……?」
「もう十年くらいしてなくて……」
「十年ッ!!??」
……どうりで酷いはずだ。
魔王の瘴気とやらは、ただのハウスダストだった。彼女の症状はアレルギー反応だろう。
「やれやれ……仕方ないっすね。ちょっとどいててください」
ポケットからハンカチを取り出すと、鼻と口を覆うようにして頭の後ろに結ぶ。
目を瞑り大きく深呼吸をすると、スッと心が落ち着く。便利屋で働いていた時のプロの俺を呼び出した。
――家事スキル発動。
念じると、光と共に清掃用具が出てくる。
ハタキ、バケツ、洗剤、雑巾。
現代の掃除用具そのまんまだ。
(異世界なのに現実味溢れるこのスキル、本当にスキルなのか?)
「す、すごい……」
彼女はうっとりとした顔で、掃除用具を見つめている。俺は軽くため息をつくと、道具の中からハタキを握る。
俺にとっての武器はこれだ。
剣であり盾であり、そして魔法だ。
「掃除の鉄則。まずは上から下へ。埃は乾拭きで絡め取るっすね」
俺はハタキを振るい、剣や盾、高い棚の上の埃を、一切空中に舞い上げることなく絡め取っていく。残像が見えるほどの超高速だ。便利屋で清掃の仕事をする際に身につけたプロの速度である。
(ふっ、掃除で俺に勝てる奴はいない……!)
剣の埃を絡めとった俺は、ふと真剣な顔で呟く。
「埃まみれだったけど、刃は全然傷んでない……掃除は苦手でも、刃の手入れはしっかりしてたんすね」
その言葉に、彼女がハッと目を見開いた。誰も気づいてくれなかった自分の剣への想いを、出会ったばかりの男が理解してくれた、というように。
「私のこと……ちゃんと見てくれてる……」
埃を絡め取る度、ハタキから神聖な光が漏れる。その光は、その場にいた女の子を包み込む。
(何これ、綺麗……)
お店の中の埃が減るにつれ、扉の近くにいる女の子の様子が変わっていった。
頬を赤らめてモジモジしている。
俺は気にせず、棚の奥へとハタキを突っ込み、埃を絡め取っていく。
「あぁ……っ♡」
彼女が甘い声をあげた。
(……またかよ)
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