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今まで何話か実話を投稿しているが、ほとんど「怖い」と思ったエピソードはなく、あっても片手に収まる程度で、もうこれを執筆している現在は、血塗れだろうがゾンビのような外見だろうが驚く事すら少なくなってしまった。
何故こんなにも霊体に関しての恐怖心が薄れてしまったのかと聞かれたら、おそらく『慣れ』なのだろうなと思う。
今回の小話は、正直執筆しようかしまいか悩んだ。
かなり現実離れした話になるので、ひとつのファンタジーな小ネタと思って読んで欲しい。
でも、これも私の実体験だ。
思春期頃は霊感が開花しやすい時期なのか、周りにも「霊が視える」という子が結構いた。視える人同士で仲良く出来ると思って私から近付く事が多かったが、ほぼ決まって「雪は……ちょっと……近くにいると後ろのが怖いから……」とはっきり視える子達からは避けられた。
私の霊視力にも時期的な波があって、今思えば生命力が高まっている時期はあまりはっきり視えない事もあった。自身の波以外にも、憑いているメンバーによっても視える、視えにくいなど色々ある。
高校生の頃は本当にしっかり視える同級生からは見事に避けられ、ちょうどパワフルな時期だった私は数名しか自分に憑いているのを認識していなかった。
ある時、他クラスの霊感バリバリな女子が廊下で私と鉢合わせた際に一瞬目が合い、最初少し驚いた顔をした。その後スッと視線が私の背後にいったかと思えば、途端に青ざめて慌てて自分の教室へと逃げるように去ってしまった。
特にそこまで霊感の強くない友達は普通にいたが、流石に視える人から避けられる理由は何だろう?などとは相談出来ず、いつも「私あの子に何かしたかな……?」と首を傾げていたが、そもそも話をした事もなかった。
頭を抱えていると、私のクラスにいた自称霊感女子が私の元にやって来て「雪さんどうしたの?今日すっごく金色に輝いてる!!」と物珍しそうに言った。
一瞬何の事かと考えてしまったが、私のオーラの色の事だったようだ。そして、教室から廊下を見渡し「なんか知らないけど、今日は凄いね!百鬼夜行状態だもん。幽霊じゃなくて妖怪が行列作ってる。あれは確かに怖くて近寄り難いね」などと笑って言った。
その子は自他ともに認める霊感女子で、今の私と変わらず守護霊も視えるタイプの子だったが、天然キャラだったので何だか少し浮いていた。今回はAと呼ぶ。
「雪の守護霊も変わってるよね。元々いたはずの人間の侍さんは、今の守護達に負けてどっか行っちゃってるし。犬2匹と鬼のお兄さん、それから地獄に送っても何故か戻って来ちゃって全然消せない外国人の男、他にも何人かいるけど人間が少ないよね。……ところで今日の百鬼夜行の行列も、守護?」
他の霊感などほぼない友達の前で急にペラペラと話し出した彼女は、何故か物凄く目を輝かせて私の肩やら背中を触ってきた。直接触れるというより、金色のオーラに触れるといった方が正しいかもしれない。
今言った彼女の言葉は正解で、実際に私は幼少期から人ならざるもの、どちらかといえば尻尾や角、耳など人には付いていないはずのものが生えてる者達が近くにいた。
ただ、周りに口外したことは一切無い。言っても信じてもらえないのは分かっていたので、自分の妄想が作り出した幻影が喋っていると思っていた。
「月に1回は必ず変な形の銅像が横に立っているし、最近あんまり視ないけど入学したての頃は龍もいたし、見るからに海外の悪魔みたいなやつも時々憑いてるよね。何で生きてるの?雪って人間?超不思議~!」
最後の余計な一言に「は?」と態度悪く返してしまったのは許して欲しい。
まさか他人でこれを視える人がいたなんて!と正直妄想だと思っていた私には、Aの言葉がかなり衝撃的だった。
「隣のクラスのBさんいるしょ、あの色々視えてる子。私Bさんと部活一緒でよく話すんだけど、雪の後ろの奴らに対してめちゃくちゃ怖がってるんだよね。もうちょっと連れて来る数減らした方がいいんじゃない?」
善意なのだろうが、そこまでコントロールなどした試しもない私は何も言い返せなかった。代わりに周りの友達が「いきなり何なのコイツ」と言わんばかりにAを私から遠ざけて彼女の愚痴を呟いていた。
オカルト好きだった私はBや他の霊感持ちの同級生から避けられていた理由が、人ならざるもので他人からも視える奴らが常に複数憑いているという事に衝撃を受け、その日は眠れなかった。
その後結局憑いている者達を自宅に置いて行くなどのコントロールは出来ず(仮に出来たとしても皆問答無用で同行するような性格だが)、卒業するまで視える同級生達からは避けられ続け、Aにはその接触を期に何故か凄く懐かれてしまった。
卒業してからAとは自然と疎遠になっていったので現在も視えているのかは不明だが、次に会った時には更に増えている守護の数に腰を抜かすかもしれない。
記憶の限り私が一番最初に視えたのは、犬の女の子だった。人の外見なのだが、明らかに人にはない犬の大きな垂れ耳と細長い尻尾が生えていた。
私は幼い頃に心臓疾患の手術をしていて、母が言うにはかなり危ない状態で緊急搬送されたそうだ。手術までの待ち時間、病室で看病していた母が精神疲労で寝入ってしまった時、私は自分の隣に犬耳の女の子がいる事に気付いた。
それまでも何度か視えたり話したりもしていたが、その時だけはやけに輪郭もはっきりとしていたのを覚えている。
もしかしたら、私が死にかけていたせいでその時はっきりと視えていたのかもしれないと、今では思う。
「ひとつだけ質問するね」
普通の人間の女の子と大差ない声音で私の点滴に繋がれた手を握り、彼女は訊いた。
「雪ちゃんは、生きたい?」
その問いに私が何と答えたかは覚えていない。言葉の意味を理解していなかっただけかもしれない。ただ、私の顔を見て彼女は「そっか……」と呟き、何処か哀愁漂う表情で私の心臓辺りに手を翳した。
「これは恩返しね」
と微かに声が聞こえた気がした。当時は「恩返し」の意味が分からず、首を傾げる事しか出来なかった。彼女が翳していた手を下ろした時、視界の隅に空いている椅子に座った黒衣の男の存在に気付いた。黒衣が威圧感を与えていたせいか、何だか凄く強い存在に思えた。
あまり表情は見えなかったが、何かを弾くような仕草で時々手をあげて何かを払い除けているようだった。今思えば、飛んでくる悪いものを祓ってくれていたのだろう。
黒衣の男の隣には、対象的な背の高い真っ白な男が立っていた。白い方は短髪だったので、顔立ちがはっきり視えた。
そして何故か、私の背後に歪な銅像が立っていた。緑っぽい錆びたメデューサのような形の銅像だった。それもとてつもなく強い存在なのは肌身で感じていて、何なら私にとっては犬耳の可愛い女の子や白黒対象的な男達よりも、その得体の知れない銅像の方が不気味で怖かった。
やがて医師達が麻酔を持ってやって来ても、彼等はそのまま居座っていた。誰も彼等を気にする様子はなく、犬耳の女の子は意識が途絶えるまで私の手を握っていた。
手術は無事終わり、ICU(集中治療室)で目覚めた時、看護師さんと一緒に私を取り囲む彼等の姿があった。あまり覚えていないが、彼等の他にも5名ほど変わった容姿の者が増えていた気がする。
犬耳の女の子は私の手を握りっぱなしだった。黒衣の男だけは私の安否を見下ろして「よし」と小さく言っていた。白い男はそれを聞いて頷くだけだった。銅像は相変わらず微動だにせず、だが何故かこっちを見下ろしているのだけは分かった。
やっぱり銅像の存在感がどうしても怖かった私は少し泣いた。死霊でも妖怪でも何でもいいが、人間っぽく動いている方がまだ怖くない。無機物は意思疎通が出来なさそうという先入観からか、底知れぬ恐怖を感じた。
見当違いな看護師さんは、私が母を恋しがって泣いているのだと思ったらしく、「もう少ししたらお母さんに会えるからね、もう少しここでゆっくり過ごそうね」と私を慰めていた。
このまま細かく書き続けると話が終わらないので結論からすると、手術は成功し今は完治して私は元気なのだが、今の夫と出会うまでには守護の数が10人に増え、夫と暮らすようになってからは更に増え、今では正確な数を私も把握していない。夫の守護の数が莫大過ぎるせいだ。その件はまた別の話で少し書こうと思う。
20年以上経った今でも犬耳の女の子と黒衣の男と全身白い男も健在で、銅像は中身が出てきている。何であの銅像だったのかというと、外国の地で封じられていたそうな。どうしても当時は出て来れなかったらしく、銅像のまま動き回っていたという。そっちの方が怖い。
Aが言っていた元守護の侍さんは私が生まれてからずっと傍には居たようだが、その後間もなくやって来た鬼の兄貴に刀と心を折られて修行に出てしまった。侍さんは手術するより前に何度か見掛けた気もするが、正直どんな容姿だったかはあまり覚えていない。彼が唯一の人であり、先祖に関わる守護だったらしい。なのに半ば追い出される形で居なくなってしまった。まあ人と鬼とで戦えば、そりゃ鬼の方が力は強かっただろうなと思うと、ちょっとだけ不憫である。
鬼の兄貴といっても、パッと見は人に見える。私は背が低いので、正直彼が座っている時じゃないと角が見えない。
もちろんAが百鬼夜行と言っていた妖怪的な存在のモノ達は、巨大で目が1つの顔だけのモノとか、角の生えた鬼とか、下半身が魚っぽいお姉さんとか、烏の羽根が生えた着物の人とか、様々な人型にもなれる龍とか、明らかに大きさのおかしい巨大な犬とか、種類が多過ぎて全ては書ききれないが異形のモノが沢山いる。
ちなみに何故私や夫の周りに人外な守護が多いのか、自分でも分からない。むしろ理由が分かる人がいるなら教えて欲しい。
今じゃもう家に入り切らない莫大な数の守護達は、家の外に霊視でしか見えないツリーハウスのような建物に住んでもらっているが、その建物が普通の民家と被っているせいか、時々民家にお坊さんがやって来てお祓い紛いのような事をしている。
滅多にないお祓いの様子に近所のお喋りなおば様方が集まり、それとなく聞いた話では、どうも私の今の夫が来てからの時期と重なるようにして霊障が増えたようだ。ドアが勝手に開閉したり物が落ちたり気配がしたりと、まるで海外のポルターガイストだ。まあ実際に海外の悪魔的存在の者も複数いるので、ポルターガイストが起きると聞いても不思議はない。
もちろん近所にうちの守護事情など話した事もないので、霊障を受けてしまっている民家の御家族も近所の人達も、ただただお祓いを受けても直らない霊障に首を傾げているようだ。
なんだか申し訳ないような気もするが、別に守護達は悪さをしている訳ではないようなので、特にこれといって対処はしていない。位置が被っている民家を除けば霊障はないようなので。
何故海外の悪魔的存在まで守護にいるのかというと、霊力が強過ぎる夫や夫の周りの守護と戦っては負けて配下につく、みたいな事を日常的にずっと繰り返しているせいで、日本の妖怪的存在も死霊も、海外の霊や悪魔、それから天使も神様も龍も関係なしに集まってしまったようだ。
話だけ聞くと、有名な妖怪と人の漫画やアニメが浮かぶかもしれない。実際、そんな感じだと思ってもらえたら嬉しい。実写版だとこんな感じなんだなと、私自身そう思っている。
漫画やアニメでいう『契約』的なものは、夫というより夫に憑いている狐が主にやっている。彼女は『縁』を切ったり結んだり出来るので、生死は関係なく人とも人外とも同じ事が出来るようだ。
夜中に窓の外を覗くと、時折守護の誰かと新参者が決闘しているのが視える。最初こそ物珍しくて驚いたが、もはや恒例行事になってしまって、今では視えても全く驚かなくなってしまった。
もちろん信じる信じないは読み手の自由。
しかしこれも、嘘のようで、本当の話。