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みはる日記

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みはる日記

1 - 第1話

♥

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2022年05月26日

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「あー。あちぃ!」

お盆で実家に帰省していた誠(まこと)は縁側に座りながら空を見て嘆く。その声を打ち消すようにあちこちからセミの鳴き声が聞こえる。

今日は2021年の8月、実家のある長野県はとても暑い。18年間も住んでたはずなのに、少し帰ってみればこのザマだ。

「東京戻りてぇな」

ボソッと言ったつもりだったのだがどうやら母の清子には聞こえていたらしく

「そんなこと言うんじゃないよ、全くあんたって人はたまに顔見せりゃあそんなことばっかり言って」

「だってよぉ、東京はクーラー完備で夏でも涼しいんで?」

「そんなこと言うんだったら家にも取り付けるかい?」

「そんな金ないだろ、それにいざとなったら俺たちで買ってやるから」

「そんなことせんでもあたしゃもう時期死ぬんだから」

こんな会話をどれくらいしただろうか、母が誠に

「そんなん聞いたら、みーちゃん悲しむよ!」

みーちゃん

なんて懐かしい響きだろうか、もう何年も聞いてない言葉だった。みーちゃんというのは誠の同級生で幼なじみである仲里美晴(なかざとみはる)のことであり皆からはそう呼ばれていた。

「みーちゃんか、懐かしい響きだな」

「なーにを言ってんのあんたは、これでも見て反省しな」

スッ

「何を反省すん、、」

すんだと言いかけたがすぐに喉の奥へと押し返されていく。

「うわぁ、これ日記じゃん!」

名前を見てみると「仲里美晴」と書かれている。

「これどうしたんだよ母さん」

「みーちゃんにもらったんだ?」

コトッ

熱いお茶が置かれる。真夏の蒸し暑い日だというのに、少しは配慮できないものか。

「なんでこんなもんを?」

「そんなことは気にしないでいいから、とっとと読み!」

「お、おう」

「母さんこれから買い物行ってくるから、見ておくんだよ?」

「わかったよ」

ガラガラ、バタン

1人だけになった家、セミの音がよりいっそううるさく感じる。

誠はお茶をすすると、ゆっくりと1ページ目をめくり始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2005年 4月8日(金)

今日から小学三年生になりました。クラスがえがあってたんにんの先生はあかぎ先生になりました。みんなもばらばらになっちゃいました。まきちゃんともはなれてしまいました。みはるのよこの子は知らない男の子でした。名前はまことくんらしいです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そう、これこそ誠とみーちゃんが最初に出会った時だった。

「懐かしいなぁ」

誠は読みながら少しずつ思い出す。



桜が散り始めた始業式の日、学校の校門で先生から紙をもらう。クラス替えということで紙には知らない子の名前が沢山書かれている。誠は3年1組だった。2年の時に友達を作っておかなかったこともあって知ってる人は誰一人としていなかった。始業式が終わり教室に行くと、話し始めてる子達がちらほら見られ始めた。

誠はランドセルから自由帳を取り出す。絵を描き始める。

「何それ?」

突然話しかけてきたのは隣に座る女の子、美晴だ。誠はビクビクしながら

「ハ、ハイパーマン….」

と答える。すると美晴はクスクスと笑いながら

「変なの〜」

と言う。小学生が書く絵など、ましてや小学三年生が書く絵などはたかが知れている。誠は絵が上手いわけでもなかった。まるで怪物のような顔をしているハイパーマンの絵を「変なの」と言われてしまった。

「じ、じゃあ、君は描けるの?」

言われたことによる悲しみと共に少しだけ反抗心がわく。今まで人に反論などしたことがなかった。いつもうつむいて無言を貫き通せていたのに、なぜ今日は我慢ができなかったのだろうか。別にハイパーマンに特別な思いを抱いているわけではない。

「いいよ、貸して」

そう言うと美晴は誠から自由帳を取り、サラサラっと描き始めた。ものの数秒で書き上げて誠に返す。

「はい、どう、うまいでしょ?」

確かに上手い、でも上手すぎてハイパーマンらしさが消えてしまってる。

「全然じゃないか」

思わず言ってしまうと美晴は泣きそうになってしまった。

「ひどい、そんなこと言わなくてもいいじゃん….」

慌てて誠は訂正しようとする。

「ご、ごめんなさい。先生には言わないで」

「やだ、言うもん!」

しかしすぐにその願いは崩れ落ちる。小学生にとって、よほど正確な理由がない限り「先生に言う」という言葉は恐怖と言っても過言ではない。

「それだけはやめてよ」

「やだ!」

「お願い、お願い」

「….」

「ダメ?」

なんとしても怒られたくないと思い必死にお願いする。

「じゃあ、、、明日の給食のいちごちょうだい」

「え、う、うん。いいけど」

そんなことでいいのか、と思った。普通は給食のデザートを渡すのなんか絶対に嫌だと思うのだろうが、誠はそんなことは気にしない人間だったため大して気にしていなかった。

「え、ほんとにいいの?」

美晴が目を丸くしながら聞く。

「うん」

「やったー!」

教室内に美晴の声が響き渡る、しゃべってた子達も全員美晴を見る。

「あ、え、えーっと」

「なんでもない!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

私が書いたハイパーマンをばかにした悪い子だと思いました。でも給食のイチゴをくれました。誠くんはいい子でした。今日はいい日でした。明日も頑張る!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そういえばそんな感じか、美晴との出会いは。そう思い微笑んだ誠は次のページをめくった。

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