オフィスビルを出た二人は、駅に向かって歩き始めた。
肩を並べて歩きながら、花梨は以前、柊と駅前のカフェに立ち寄ったことを思い出していた。
(ついこの間のことなのに、もうずいぶん昔のことみたい……)
あの夜のことを思い返していると、柊が花梨に聞いた。
「何が食べたい?」
いつもそう聞かれてばかりの花梨は、たまには柊の食べたいものに合わせようとこう尋ねた。
「課長は何が食べたいですか?」
「うーん、そうだなー……和食かな。最近脂っこいものばっかり続いてるし……」
ここ最近、柊が接待続きなのを知っていた花梨は思った。
(毎日そんな食事ばかりじゃ、胃に負担もかかるわよね……)
しかし、この辺りで美味しい和食の店は知らない。あったとしても、場所柄、高級店ばかりだ。
そこで花梨はひらめいた。そして、思いつくままに大胆なことを提案してみる。
「もしよかったら、うちで食べませんか? 何か作りますから」
「え?」
柊の驚いた表情を見て、花梨は差し出がましいことを言ってしまったと慌てる。
休日が控えていたこともあり、つい気が大きくなっていたのかもしれない。
「えっと……この辺りで美味しい和食の店って知らないし、簡単なものでよかったら作りますよ」
ぎこちなく言う花梨を見て、柊は嬉しそうに微笑んだ。
「いいの?」
「大したものは作れませんが」
「じゃあ、せっかくだからご馳走になろうかな」
「あ、でも、駅前のスーパーに寄ってもいいですか? 食材を買いたいので」
「もちろん」
駅へ到着した二人は、すぐにホームへ向かった。
花梨のマンションがある駅に着くと、駅前のスーパーに寄った。
「いいよ、俺が押すから」
「ありがとうございます」
柊がカートを押してくれたので、花梨は先に歩きながら必要な物をかごに入れていく。
(すぐに作れるものって言ったら、ぶりの照り焼き? あとは、カットごぼうを使ってきんぴら、それに和風サラダでも作ろうかな? あ、お刺身も買って帰ろう!)
鮮魚コーナーでぶりの切り身を買った花梨は、次に刺身コーナーへ行く。
そこで花梨が柊に尋ねた。
「課長、お刺身食べます?」
「刺身、いいな」
「どれがいいですか?」
「どれも美味そうだなー。お? 全部半額になってるぞ?」
「ふふっ、そうなんです。この時間いつも半額になるからお得なんです」
「それはありがたいな。じゃあ、これにするか」
ちょうど二人用の刺身の盛り合わせがあったので、柊はそれを手に取りカートに入れた。
「冷えたビールはある?」
「あります」
「ワインは?」
「ワインはないです……」
「だったら買って行こう」
柊はカートを押してワインコーナーへ向かった。
いくつかのワインを手に取った後、彼は白ワインを一本選んでカートに入れた。
「明日は休みだから、飲んでも大丈夫だろう?」
「あ、はい……」
花梨はそう返事をしながら、こんなふうに思う。
(飲み過ぎて、この前みたいな失態は見せないようにしないと)
その後、デザートのお菓子や朝食用のパンもカートに入れ、二人は会計へ向かった。
レジ前で花梨が代金を支払おうとすると、横から柊の手がスッと伸び、カードで支払いを済ませてくれた。
「自分用のものもいくつか買ったので、お支払いします」
「気にしなくていいから」
柊はそう言って、代金を受け取ろうとしなかった。
花梨は恐縮しながら礼を言うと、柊に続いて店を出た。
買い物したものは、すべて柊が持ってくれた。
マンションまでの暗い夜道を歩きながら、花梨はふとこんなことを思った。
(結婚って、こんな感じなのかな?)
卓也と同棲していた頃は、一緒にスーパーに行くことなどなかったので、この状況が妙に新鮮に感じられる。
その時、柊がぽつりと呟いた。
「結婚って、こんな感じなんだろうか?」
柊が同じことを考えていたと知り、花梨は驚いた。
「そうかもしれませんね……」
「うん。そう思うと、結婚も悪くないな」
その言葉に、花梨は耳を疑う。
(えっ? 今なんて?)
高鳴る心臓の鼓動を抑えながら、花梨は慌てて口を開いた。
「課長は……今まで結婚したいと思う方はいなかったんですか?」
その質問に、柊は少し考えてからこう答えた。
「うーん、いなかったかもしれない」
「そう……なんだ……」
「花梨は?」
突然呼び捨てにされたので、花梨はハッとした。
そんな彼女に、柊が笑顔で言った。
「俺たちはつき合ってるんだから、会社の外では名前で呼んでもいいだろう?」
そう問われると、花梨は何も言い返せない。
その時、花梨の右手がふわりと温かい感触に包まれた。それが柊の手の温もりだと気づいた瞬間、心臓の鼓動がドクドクと高鳴り始める。
そして、次の瞬間、柊は花梨の指に自分の指をしっかりと絡めてきた。
(こっ、恋人繋ぎっ!?)
突然の柊の行動に驚いた花梨は、頬を染め少しうつむき、そのまま柊に手を引かれて歩き続ける。
そんな二人の頭上には、いくつもの星がキラキラと輝いていた。
コメント
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花梨ちゃん❣️大胆(#^.^#)思わずさそってしまったのかな?何でもできる花梨ちゃんはお料理も上手なんでしょうね 柊様の胃袋もしっかり掴んでもうすぐ結婚‼️浜田様もきっと喜んでくださるでしょうね
あま〜〜〜い❣️このままお泊りですよね⁉️ もうこれは結婚式まで一直線😆😍 柊さん頑張れ✨✨💓
わぁぁぁ気持ちは新婚さんだよね( *´艸`)フフフ💕💕 花梨ちゃん手作りの和食に柊さんのハートも鷲掴みだね🫰 いい雰囲気になって結ばれちゃうのかしら?ヾ( 〃∇〃)ツ キャーーーッ♡続きが楽しみ💕💕